アフリカ研修員が学んだ「企業支援」と「カイゼン」

2024.03.13

「カイゼン」を活用した日本の中小企業支援政策を学びにアフリカから来日していた9名の研修員が約3週間の全ての研修プログラムを終え、2月に帰国しました。
日本が誇るものづくり、それを支える日本発の「カイゼン」。企業の成長に直接つながる「人材育成」の重要性。様々な人や組織と共に学び合い価値を創り出す「共創」。今回の研修も、研修員と日本側関係者が学び合える機会となりました。

2週間の来日研修から研修員が学んだことにはどんなものがあったのでしょうか。

【ハイブリッド研修】講義(オンライン研修)と視察(来日研修)を効果的に学ぶ

本研修では、来日前に1週間程度のオンライン研修を実施しました。

オンライン研修では時差の問題もあり、自国で支援している企業からヘルメットと作業服姿で参加する研修員、所属している省庁の自分のデスクから参加する研修員、と参加環境は様々でしたが、業務の合間にも時間を作りオンライン研修に参加し、質疑応答では積極的に講師に質問を投げかけていました。講義の後には振り返りの時間を設け、活発な意見交換が行われました。
中小企業支援政策の概要や企業支援に関する基礎知識を来日前にインプットしておくことで、来日研修の視察をより効果的に実施することができました。

日本とアフリカ各国、離れてはいますが、毎日のオンライン研修を通して全員打ち解けることができました。

来日研修では初日から視察に出かけ、2週目には群馬と栃木の企業の現場も見学し、より実践的な内容について学びました。

このように、オンラインと来日を組み合わせたハイブリッド研修では、講義と視察を効果的にプログラムすることができます。
研修員からも「ハイブリッド型だったので前もって基本的な学習ができ良かった」など良いフィードバックがありました。

【初日】雪を初体験

来日初日の2月5日、東京都内は今年一番の大寒波が到来。前日から大雪予報が出ていて、交通機関にも影響が出るのではないかという報道もありました。
研修への影響を心配する関係者とは裏腹に、研修員は初めて見る雪を写真に撮ったり、触ってみたりと、雪を楽しんでいる様子でした。

初日からまさかの大雪で、どうなることかと思いましたが、この日は予定通り視察も終えることができホッとした初日でした・・・。

雪を楽しむ研修員。雪も研修員のことを歓迎してくれていたのかもしれません。

翌日もあちこちに雪が残っており、寒い日が続きましたが、全員風邪も引かず元気に研修を終えることができました

【WEEK1】公的機関と民間組織の様々な企業支援の取り組みを学ぶ

来日研修の最初の週は都内の公的機関や民間組織の取り組みを学びました。

その一つはDMM.make Akiba(東京・千代田区)の視察です。ものづくりに特化したコワーキングスペースがあり、そこには中小企業やスタートアップの関係者、ものづくりに関わる人などが集まります。技術的な支援だけでなく、アイデアを持つ人同士のマッチングによる中小企業支援を学びました。

首都圏産業活性化協会(TAMA協会)(東京・八王子)では、大手企業と中小企業とのマッチング交流会や、会員大学と会員企業間の共同研究のコーディネートなど、「産産連携」「産学連携」の支援を学びました。公的機関に所属している研修員もおり、自国での導入の参考になったようです。

中小企業大学校では図書館、宿泊棟、食堂なども見学し、研修員は「自国の大学よりもきれいかもしれない」とその充実した設備に驚いていました。

中小企業大学校 東京校(東京・東大和市)では、ちょうど授業中だった経営者向けの講座や同校の施設を見学しました。

城南職業能力開発センター 大田校(東京・大田区)では、製品開発やデジタルツールの活用など専門スキルを身に付ける講習の説明があり、同校の施設を見学しました。

DX推進センターで5G機器の実演を見学する研修員。

産業技術研究センターおよびDX推進センター(東京・江東区)では、中小企業への最新技術の提供に関する支援を学びました。

中小企業振興公社(東京・千代田区)では、国や商工会議所と連携した支援サービスについての説明があり、近年はスタートアップやデジタル機器導入に関する相談が増加しているということです。研修員からは「助成金やリソースはアフリカより日本のほうが充実していて、参考になった」と日本の公的な助成金制度について関心を高めていました。

よろず支援拠点(東京・港区)では、国が支援している経営相談サービスについて学びました。

日本能率協会(東京・港区)では、品質マネジメントシステム(ISO9001)に関するセミナーや審査など、製造業等に対する支援について学びました。

視察だけでなく、中小企業診断士による支援活動についての講義もあり、来日1週目は、公的機関と民間機関、双方の様々な形の支援サービスを学ぶことができました。

東京センターで講義を受ける研修員。

【日本文化理解プログラム】日本を学ぶ

2月12日は「日本文化理解プログラム」の一環として、東京タワー、増上寺、お台場アクアシティへ出かけました。
「日本文化理解プログラム」は、研修員に日本の文化や伝統などについて理解を深めてもらうため、文化・歴史的な施設や神社仏閣などを訪問するプログラムです。

今回は、東京のシンボルとも言われる東京タワーの展望デッキに行きました。高層エレベーターでデッキまで上がる際、景色を楽しめるように側面がガラス張りになっており、ものすごいスピードで展望デッキまで駆け上がるエレベーターに、高所に慣れていない研修員は展望デッキに着くやいなや足がすくんでしまっていました・・・(そのあとすぐに元気になり、帰りのエレベーターでは景色を楽しんでいました!)
この日は初日の大雪と打って変わって晴天に恵まれました。遠くからでしたが、富士山もはっきりと見ることができました。

富士山の写真を撮る研修員。遠くからではありましたが、きれいに見えて良かったです!

「日本の技術を信頼してはいるけど・・・」と、展望デッキにあるガラスの床を恐る恐る踏む研修員。

その後、東京タワーから徒歩で5分程度のところにある増上寺へ。「このお寺は600年以上も前に建てられ、今の場所には400年前に移ってきた」と知った研修員は「日本はそんなに長い歴史を持っているのか!」と増上寺や日本の歴史の長さに驚いていました。

ゆりかもめを待つ研修員。

増上寺を見学したあとは、運転士がいない自動運転のゆりかもめでお台場へ移動。ゆりかもめはレインボーブリッジを通り、海沿いを走ります。研修員は車窓から外の景色をスマホで撮影したり、海沿いの景色を楽しんでいました。

お台場アクアシティ近くにある自由の女神の前で記念撮影!

お台場では自由行動。研修員はそれぞれ買い物をしたり、食事を楽しんだりしていました。来日期間は2週間と短く、朝から夜まで視察に出かける日も多かったですが、この日ばかりはすっかり仲良くなった研修員同士でゆっくり過ごせたようでした。

【WEEK2】カイゼンと共創を学ぶ

2月13日~14日は群馬県と栃木県へ研修旅行に行ってきました。

カイゼンを導入した品質向上、生産性・安全性向上に取り組んでいる地元企業を視察。企業がカイゼンに取り組むことによる効果や、継続してカイゼン活動を行う工夫などを学びました。

菊地歯車(株)(栃木・足利)を視察。工場だけでなく事務所内まで「見える化」「5S」が徹底されていました。

(株)ジーテクト群馬工場(群馬・太田)では自動車部品製造における安全・品質管理、生産性向上の手法を学びました。

アフリカでは「カイゼン」が広く認知されてきていますが、「企業がそれを継続することが難しい。」と研修員は話します。
今回の研修旅行で訪れた視察先ではどこも共通して“社をあげたカイゼン活動奨励”が印象的でした。従業員への表彰などモチベーションを上げる工夫は、アフリカでカイゼンを普及させることを業務としている研修員にとって、良い事例になったようでした。

昼食で立ち寄ったショッピングモールで、手洗いとスマホ消毒ができる機器を発見。実際にスマホを消毒してみる研修員も。「このアイデアは素晴らしい。アフリカにもあるといい」と、どこにいても新しいアイデアを学ぼうとする姿勢が印象的でした。

群馬県前橋市にある群馬県庁も訪問。「多文化共生・共創社会」を目指す同県の在日外国人への支援サービスを見学。同県では外国人と企業を繋ぐような就職説明会なども行っています。日本では中小企業が外国人従業員を雇用することも多いですが、研修員はそういった企業を支援する自治体のサービスを学びました。

群馬県庁では「外国人総合相談ワンストップセンター」を視察。多文化共生社会における自治体の取り組みも学びました。

【研修の集大成】アクションプラン発表

研修旅行から帰った後は、帰国後に自国でどのようにして企業支援を行っていくかについて、アクションプランを策定しました。1月22日に始まった遠隔研修からこの日まで学んできたこと全てを踏まえて、それぞれの国が抱える課題を解決するために何をすべきか考え、アクションプランにまとめました。

自国にはどんな課題があり、帰国後どのような取り組みをしていくべきかを発表しました。日本で学んだことを踏まえて、中長期的な視点でPDCAを作成しました。

アクションプランの発表は朝9時から夕方16時頃まで終日、活発な意見交換も交えて行われました。

研修員は、中小企業支援について、国の支援制度を整備する政府関係者もいれば、中小企業にカイゼンの普及をしている民間のコンサルタントもいます。
国や業務内容が違い、それぞれが抱える課題やアクションプランの内容も様々。意見がぶつかることもありました。


一人30分間で発表と質疑応答を行いました。この日のタイムキーパーや司会進行は全て研修員で行いました。

「この研修は、知識を共に創る“Knowledge Co-Creation Program(「共創」プログラム)。相手のアイデアにダメ出しをするではなく、互いを高め合うようにしよう。」

コースリーダーからのこの言葉を聞いた研修員は全員が深くうなずき、最後の発表まで終始前向きな意見交換ができました。

「変化は待ち望んでも探し求めても訪れない。私たち自身が待ち望んでいる誰かであり、探し求めている変化だ」というオバマ元米国大統領の言葉が研修コースリーダーから研修員に伝えられました。発表の最後には「皆さん自身でそれぞれの国を変えていってほしい」とメッセージが送られました。

JICA東京研修担当者からのメッセージ

この研修ではアクティブラーニングの一環として、Today’s Leader制度を導入しました。この制度は日本の「日直」に当たります。Today’s Leader(日直)になった研修員は、研修の運営の補助業務の一端を担い、また研修のその日のリーダーとして訪問先での挨拶や研修員の点呼なども担当します。日直制度の目的は、ただ受け身で講義を受けるのではなく、研修員一人一人が研修運営に参加し、全員で作り上げるという意識醸成と研修参加へ主体的に責任を持つことです。

研修員代表として、講義や視察へのご協力に対して御礼を伝えるこの日のリーダー。

感謝の印として、自国の伝統的な飾り物も贈られました。

リーダーとなった研修員は、時間通りに集まらない研修員に連絡をしたり、早めに会議室に来て講義の準備を手伝ったり、講師に代表挨拶をしたりと、実に色々な役割を担ってもらいました。研修員にこの説明をした時はあまり反応がなかったので、もしかしたら「なんだそれは・・・」「面倒くさそうだな・・・」と感じていた研修員も中にはいたかもしれません。

実際、来日してから数日間はプログラム開始後10分経っても揃わない、休憩が終わってもなかなか戻ってこない、といったこともありました。

ある日のリーダーになった1人の研修員が「これはカイゼンの研修だ。みんなで毎日カイゼンしていこう」と呼びかけ、それから少しずつ遅刻する研修員は減っていきました。誰かがいなければ、職員からお願いする前にWhatsAppで電話をしていたり、部屋の外まで探しに行っていたりしました。

気が付いたら、会議室に最後に入るのは研修員ではなく日本人になっていました。研修員は講義開始10分前にはそろうようになっていました。そして、だんだんと仲良くなっていく研修員の様子を見て、日直制度は研修員の結束にも一役買っているのを目の当たりにしました。

「Today’s Leader制度が研修員をまとめあげた!」

研修委託先のみなさんも「アフリカと言っても様々なので、研修前は“アフリカ”と一括りにしないように・・・と思っていたけど、研修員からはまるで“アフリカチーム”としてアフリカを一緒に良くしていこう、という結束が感じられた。こうやってまとめることもできるのかと、私たちも勉強になる研修だった。やっていてやりがいもあり、本当に楽しかった。」とおっしゃっていました。

日直制度の効果だけでなく、関係者や研修員と一緒に研修を作り上げていくことが、まさにJICAの研修員受入事業が目指す「共創」です。これからも積極的にアクティブラーニングを研修に取り入れ、効果的な研修、自主的な研修員の参加に向けて取り組んでいきます。

最後に、本研修に関わってくださった全ての皆様へこの場を借りて御礼申し上げます。ご多忙の中講義や視察にご協力いただきまして、誠にありがとうございました。

◆課題別研修「企業経営強化支援(ビジネス開発サービス/アドバンスト・カイゼン)(B)」
カメルーン、エチオピア、ガーナ、ケニア、マラウイ、ナイジェリア、セネガル、タンザニア、ザンビア(9か国、9名)
遠隔研修:2024年1月22日~1月29日
来日研修:2024年2月5日~2月16日


以上

関連リンク:
◆中小企業大学校視察レポートはこちら◆
https://www.facebook.com/jicatokyo/posts/pfbid06o2XyADfyrEXSfjjr4rSYcKYgxKAdV7cvN9emvJ9ATqu29nLsDkciPJPdmgu8jFrl

◆DX推進センター視察レポートはこちら◆
https://www.facebook.com/jicatokyo/posts/pfbid029WBSfHJVzUHwNkRT5zVVeiJYjACXr2CPoFkkbst2FwVUDKT4NCjter655T4aYdCDl

◆研修旅行レポートはこちら◆
https://www.jica.go.jp/domestic/tokyo/information/topics/2023/1532359_14652.html?fbclid=IwAR2ElphE_q4wjZW5AlCy6Bc6EjDoooUGGLso2tM2y4EszO8C7OyukrvuiLI

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