まずは知ることから~千葉県「国際理解セミナー・JICA教師海外研修報告会」~

2024.03.25

パプアニューギニアの多文化共生の秘訣とは?
教師海外研修(ザンビア)を経験した千葉県の先生方が生徒に伝えたいこととは?

 2月23日(金)、(公財)ちば国際コンベンションビューローとJICA東京・千葉デスクの共催イベント「国際理解セミナー」が開催されました。このセミナーは、 今年度のJICA教師海外研修でアフリカのザンビアに渡航した、千葉県の3名の先生の授業実践報告会も兼ねています。
 過去3年間はコロナ禍でオンライン開催でしたが、今年は4年ぶりの対面開催。当日は運営側も含めて100名近い参加があり、大賑わいでした。第1部パプアニューギニアについての講演と第2部の先生方の授業実践報告を通して、多様な世界からみた日本を考える、気づきの多い時間になりました。

第1部:日本人は隣の部族!?パプアニューギニア式多文化共生の極意

 第1部は、千葉県内在住の2名のパプアニューギニア人のお一人、40年前に来日し、現在は国際城西国際大学特命教授を務めるバハウ・サイモン・ピーター先生が「『パプアニューギニア』ってどんな国?~未知の国パプアニューギニアから考える多文化共生~」と題し、お話くださいました。パプアニューギニアには800以上の言語が存在することや、隣に住む部族ごとに全く異なる儀礼・風習が存在することに参加者は驚いていました。
 また、講演の中で日本とパプアニューギニアのつながりについて触れ、特にJICAの技術協力により2020年に完成した理数科教科書について、何度も日本への感謝のお言葉がありました。
 最後に、参加者から多文化共生の秘訣について質問がありました。バハウ先生は、「パプアニューギニアでは他部族社会で多様性は言わなくてもそこにあり、(部族ごとの)違いを楽しんでいる」とし、自身が初めて来日した際も、「日本人も隣の部族だと思えば、日本語を覚えることも、日本に住むことも苦ではなかった」とお話しされました。
 まずは違いを知ることと、それを「隣がそう言うのなら、そう」とありのままを受けいれて、その違いを楽しむことが多文化共生の第一歩であるという貴重な気づきを得る講演会でした。

日本とパプアニューギニアのつながりについてお話しされているバハウ先生

第2部:海外での出会いを「びっくり体験談」で終わらせない!

 1965年から続くJICAの教師海外研修。先生方の国際理解教育への理解を深め、各地域で継続的にその実践を行うことが研修の目的です。
 今年度千葉からはザンビアに3名の先生が旅立ち、現地で毎日「!」「?」の出会いを体験してきました。しかし、それをただ「先生の体験談」として伝えるのでは、教室では「先生が訪問した面白そうな国の話」と他人事で終わってしまいます。アフリカ訪問していない児童生徒が、ザンビアと自分たちのつながりや未来のありかたを結びつけて考えられるよう、ザンビア帰国後先生方は研修やオンラインミーティング、メールのやり取りを重ね、授業計画を磨きあげられました。そのような試行錯誤の上実践された授業について発表がありました。

〇岡田紘明先生(市川市大町小学校)
 岡田先生は4年生の担任をされています。「途上国の実態を知り、肌で感じたことを生徒に伝える」、そして「児童がもつ途上国のステレオタイプ的なイメージを変えること」を目標に総合的な学習の時間の授業を実践されました。総合の授業の中で、研修で学んだ「ジグソー法」という教育手法を用いたそうです。
 具体的には、児童たちはザンビアに関する3つの資料「ごみ山問題」「コミュニティースクール」「ストリートチルドレン」をチームに分かれて読み取ります。次に、他のチームの児童とグループを組み直し、各人が読み取った内容を全く知らない児童と共有し意見交換します。このようなジグソー法を用いて、ザンビアの3つの課題に関して多面的に意見を交換したそうです。
 授業を通して、ステレオタイプ的なイメージが壊され、ザンビアを「もっと知りたい」という児童の気持ちを育てることができたと語ってくださいました。また、岡田先生は実際にザンビアを訪れて、以下の2点に気づかれたそうです。
・教育は大切だ。
・「共通点」「相違点」を楽しもう。
今後は国籍などバックグラウンドが異なっても「どの子も居心地よく、仲良く子どもが過ごせる」教室づくりを進めていきたいと締めくくられました。

〇岡野有為先生(千葉大学教育学部付属小学校)
 岡野先生は帰国学級の担任をされています。帰国学級とは、海外生活を2年以上経験した日本国籍の4~6年生が所属する学級だそうです。そのような児童の海外経験を活かして、国際性を助長する国際理解を目指し総合の授業をされました。
 岡野先生は「ダイバーシティとどう向き合うのか」という単元を設定し、児童一人ひとりが自分の意見をもてるように指導されたそうです。小単元の導入で岡野先生が編集した開発途上国の子どもたちと日本の子どもたちの一生を比較できる映像を視聴、まずは日本との違いに関心をもつことから始めたとのこと。その後、映像を見て感じた疑問について、どうすればヒントを得られるか考え、途上国の現場や国際協力に携わっている人にインタビューすることに決め、JICA(千葉デスク)、ユニセフ、国際協力NGO世界の医療団の方の他、ザンビアで訪問した礎の石孤児院Cornerstone of Hope Zambia)を運営するムタレさんに、取材したそうです。
 誰に問い、何を問うか考えにいた主体的に調べる姿勢が、主体的に国際協力について考えることを促し、最終的にはムタレさんの活動支援として、中古パソコンの寄付や募金への協力をよびかけるチラシを児童がつくるという具体的な活動にまで繋がったそうです。
 岡野先生は「ダイバーシティを尊重することが大切」ということだけで満足して「思考停止」するのではなく、どう行動するのかを児童に考えさせていきたいと締めくくられました。

〇中村太郎先生(千葉県立国府台高等学校)
 中村先生の担当教科は地歴公民です。「ザンビア×日本×生きる力~君たちはどう生きるか~」というテーマで地理総合の授業を実践されました。ザンビアでの経験を共有することを通して、今後生徒が地球的課題に立ち向かうために、どのような力を身に付けていくべきなのかを考えさせることが目的でした。

「君たちはどう生きるか?」

授業当初、中村先生が生徒に投げかけたこの問いには、「お金を稼ぎたい」「進学したい」「好きな事をしたい」という回答が多くみられたとのことでした。しかし、その後ザンビアの問題・日本の問題を地球規模の共通課題として伝えることで、「たくさん学びたい」「世界と関わりたい」と話す生徒が増えたそうです。
 この報告会には中村先生が担当している生徒も来場し、「生きた情報に触れることができた」と授業の感想を話してくれました。
 研修を通して中村先生は、今まで抱いていた「貧しい」「恵まれない」という途上国のイメージは一面的なものでしかなく、日本より優れている部分があることに気づいたそうです。今後も教育を通して何を伝えるのかを考え続けたいと締めくくられました。

まずは知ることが国際協力の第一歩

 講演会・教師海外研修報告会を通して、まずは「違い」を知ることが国際理解の第一歩だと感じました。そして世界の中の日本を見つめ、私たち一人ひとりができることを考えることが国際協力につながる。このように多くの気づきを与えてくれた国際理解セミナーでした。
 今回の国際理解セミナーを体験して、今後私は取得した教員免許を活かして、登壇された先生方のように国際協力を児童生徒に伝えられる人材になろうと思いました。

市民参加協力第一課 インターン 智田真尋

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