国境を越えた協働作業~日本梨をラ・クラタ地区の特産品に! <ドミニカ共和国事務所・インターンレポート>

2024.04.19

千葉県松戸市は、2022年4月より、中米ドミニカ共和国において、JICA草の根技術協力事業「日本梨をラ・クラタ地区の特産品にする産地形成プロジェクト」を実施しています。農村部であるラ・クラタ地区は、都心部との経済格差が大きく、住民の生活基盤は十分に整っていません。実際に地区を訪れた際にも、電気が通っていない場所や整備の行き届いていない住宅などが見られ、都心部との格差が明確に感じられました。
このような現状の中、松戸市は、ドミニカ共和国農地庁と協力をし、ラ・クラタ地区に日本の梨を普及させ地域経済の活性化を目指す取り組みを進めています。今回、日本からのプロジェクトメンバーの渡航に際し、インターン生として現地を訪問してきたので、その様子をレポートします。

プロジェクトを支える国境を越えた専門家たち

松戸市はドミニカ共和国と梨の栽培を通じた国際交流を2016年から始め、2019年には同国で初めて日本梨が結実しました。当初の活動からずっと梨の育成に携わってきた東洋梨育種研究家である田中専門家は、ラ・クラタ地区のことを「緑あふれる良い場所。環境さえ整えることができれば、輝ける希望の場所。」といいます。

田中専門家は、圃場までの険しい道のりを車で移動中、通りすがりに見える農業畑の設備や住民の建物、標高によって異なる植物の葉っぱの違いにも着目して、地域の特徴や生活様式について深い関心を寄せていました。地域の魅力や課題、そして可能性を探求するその姿に、この地域で日本梨栽培を成功させるという情熱の表れを感じました。

他にも千葉大学園芸学部の教授や千葉県内でいちご農園を営む会社の代表など多くの専門家の方々の熱意に支えられながら、日本梨栽培のための技術指導が進められています。このプロジェクトは地域の未来を明るくする大きな可能性をもっており、現地の人々も大きな期待を寄せています。

ラ・クラタ地区のモデル圃場に98本の苗木を定植!

モデル圃場とは、農業技術や栽培方法の実証実験を行う実験農場です。ラ・クラタ地区は標高が高く、梨栽培には適していますが、亜熱帯気候であるドミニカ共和国には日本のような季節差がないため、地域特有の条件下での梨の育成過程や特性を随時確認し、状況に応じた手段を講じながら、地域に適した栽培方法を見つけていく必要があります。また、このモデル圃場は、ラ・クラタ地区の一般農家に日本梨の栽培技術を普及する際に、栽培方法のお手本としてもらう、という意味合いもあります。

今回の渡航では、このモデル圃場に、これまで低地で育ててきた苗木の定植を行いました。実際の活動について見てみましょう。まず、圃場に持っていく苗木を選ぶ作業から始まります。標高の低い温かい場所で成長させたたくさんの苗木から、モデル圃場に植えるための苗木98本が専門家によって選定されました。その選定された苗木を標高の高いモデル圃場に運び、作業を開始します。

モデル圃場に到着し、作業を始める前に、整地された圃場を見て驚きました。入念に草を取り除き、きれいに耕されていて、圃場の整備がしっかりと進められていました。作業をする前から、現地の方々のモチベーションの高さやチームワークの良さを感じました。

最初に圃場に落ちているごみ拾いをした後、メジャーを使って比率を基に直角三角形を四つ角で作り、正方形を作成しました。格子状に苗木を植えるために、縦横4mおきにメジャーで測って印をつけました。この作業は想像以上に大変で、移動範囲が広くたくさん動き回りました。印をつけた後、やっと苗木の定植作業へ。穴を掘り、肥料を入れ、98本の苗木を植え付けました。その後、再度メジャーで4m間隔で植えられているか入念にチェックし、ずれている部分は植えなおしを行いました。

ここまで丁寧に間隔を図ることで、梨の木が等間隔に並ぶため、水やりなどの管理がしやすく、効率的になります。また、遠くから見ても美しい景観が形成され、モデル圃場としての意気込みを示すことができます。すべての作業工程において、メンバーは真剣ながらも和気あいあいと協力しあいながら作業していました。

このように、モデル圃場での苗木の定植作業は、丹念な準備と労力を要する作業でしたが、地域の未来を見据えた重要な一歩となりました。

活動に参加したインターン生からみた梨プロジェクト

今回の活動は、海外経験がほとんどない私が、日本の裏側で初めての国際協力をするといった大きな挑戦でした。このプロジェクトに参加する前、「大学生である自分に何ができるのだろう、私にできることは全てしたい、自分から進んで行動していきたい」と思いつつ、初めての海外での大きな試みに不安が募っていました。そんな中、プロジェクトでの活動がスタートしました。

ほとんどの現地メンバーが英語が通じないことや、私のスペイン語能力不足から、意思疎通が難しい状況でした。しかし、メンバー全員が満面の笑みでジェスチャーやアイコンタクトを交わしてくれたおかげで、初めての活動に対する不安は完璧に消えていきました。さらに、一人のメンバーが言ってくれた「You are working hard, and you are beautiful」という言葉は私の中で心に深く響きました。私たちの活動を励ます温かさを感じることができたと同時に、より活気ある自分に気付くことができたからです。このプロジェクトに関わる人々は、温かいという表現では足りないほど居心地が良く、結束力のある雰囲気がありました。

活動の間、JICAインターン生としての奉仕活動という感覚はあまりなく、自らの意志で取り組むことで、より意義深い経験ができました。そう思えたのは、親身に寄り添い、共に活動して下さったプロジェクトメンバー全員のおかげです。現地の活動における、人とのつながりや交流の大切さに気付けたのも、彼らの存在があったからです。
地域の人々の活気ある笑顔や、活動を通じて得られるやりがいは、実際に現場を訪問してはじめて知ることができた大きな発見でした。

ドミニカ共和国事務所・インターン 平川 こよみ

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
一覧ページへ