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ブータンの医学教育の未来を切り開く ~本邦研修での学びを活かして、帰国研修員の次なる一歩~

2024.05.21

ブータンの医療従事者の能力向上、医学教育の質強化を目指し、ブータン王立医科大学で医療従事者の教育指導にあたる医師、看護師らがJICA研修員として来日しました。安全な訓練を繰り返し行うためのシミュレーションを基盤とした医学教育について、その教育手法や蘇生法を様々な角度から学びを深めました。様々な角度から学びを深めました。ブータンに帰国した今、彼らは自国でどのような活動を展開しているでしょうか。日本での研修と、ブータン帰国後に尽力する研修員の様子をあわせてご紹介します。

コロナ期を経て、ようやく実現した訪日研修

ヒマラヤ南面山麓に位置し山岳地帯が多いブータン。国土の大半は標高2000メートル以上の山地で、高低差も大きく、都市間の移動には困難な環境下にあります。各地の保健医療人材への継続教育は容易ではなく、ブータンにおける医学教育の質向上は、ブータン政府の計画の中でも重点柱の一つに掲げられています。

24年1月、来日したのは、ブータン王立医科大学で医療従事者の教育指導にあたる医師、看護師、計6名。コロナ禍の影響を受け、日本からの専門家による現地指導が容易でなかった時期を経て、今次訪日研修の実現は、ブータン・日本双方にとって待望の機会でした。

国立国際医療研究センターを筆頭に、東京慈恵科大学、国立成育医療研究センター、その他国内外のシミュレーション教育を牽引する機関・講師の方々の多大なご尽力とご協力の下、研修が計画、実施されました。今次研修では、「ブータンの医学教育を推進できるようになる」をねらいとして、次の目標が設定されました。

【研修目標】
① シミュレーション教育の基盤となる理論を理解できる。
② 理論に基づくシミュレーション教育を実践できる。
③ 国内で開発中の教材を利用した蘇生研修を指導できる。

シミュレーション教育の基盤となる理論を学びました

シミュレーションを活用した効果的教育について、ワークショップ形式で理解を深めました

◆関連リンク…医学教育の質の強化プロジェクト | ODA見える化サイト (jica.go.jp)

最善で安全な医療提供するために、妥協しないで訓練を重ねる姿に感銘

マネキン人形(日本からブータン側に供与されたものと同じ機能を持つ)を実際の患者に見立て、実際の臨床現場さながら、心停止、不整脈、ショック、呼吸障害など、状態の悪い患者を診療する際に必要となる手技や対処について、シミュレーション機材を用いて実践的な研修に取組みました。また研修医に教育・指導することを想定し、「もし患者が緊急事態となった場合にどう対応していくか」といったシナリオを作り、チーム内で連携しながら模擬指導に取り組みました。お互いの指導スキルを高めるため、研修員は相互にインストラクションを批評し合い、学びを深めました。

シミュレーションを活用した効果的教育の実践的な訓練を行いました
(於:東京慈恵会医科大学)

帰国後に研修員自身が講師となって指導できるよう、訓練を重ねました
(於:東京慈恵会医科大学)

また、実際に日本の医療機関の心臓外科チームが行う心臓手術のシミュレーション訓練の様子を視察させて頂く機会も得ました。より良い医療を提供するため、チームが一丸となって訓練を重ねる姿に感銘を受けたブータン研修員。最善で安全な医療を提供できるようになること、医療関係者の思いは日本もブータンも同じです。本邦研修でのこうした学びや気づきが、ブータン帰国後のシミュレーション教育推進への大きな原動力につながったようです。

緊急時の対処について、チーム内で連携しながら繰り返し練習を行いました。(於:国立成育医療研究センター)

本邦研修の最終日、研修員は2つのチームに分かれ、それぞれ自国でシミュレーション教育を実践に移すことを意識して、現状と課題、日本での学び、そして課題解決のための行動計画を発表しました。

本邦研修最終日、修了証書を手に晴れやかな表情の研修員たち(於:国立国際医療研究センター)

本邦研修での学びを活かし、ブータンでのシミュレーション教育の発展に尽力

研修員のブータン帰国後、ブータンでは初となる小児二次救命処置の研修がブータン王立医科大学で開催されました。帰国研修員は当初、日本で自ら学んだものと同様の研修を企画・運営できるだろうか、若干の不安を抱えていました。しかし本邦研修の際に指導をうけた日本人専門家が現地に渡航し、バックアップしてくれたこともあり、最後には主体的に研修の運営・指導に携わり、無事成功裏に終えることができました。この機会が、帰国研修員にとって大きな自信につながったようです。今後も、引続き継続して研修の機会を開催していきたいと、帰国研修員達は高い意欲を見せてくれました(詳しくはこちら)。
https://www.jica.go.jp/oda/project/1903816/news/index.html
https://www.jica.go.jp/oda/project/1903816/news/1538302_47043.html

帰国研修員の医師Dr Tashi(右から2人目)・看護師Mr Pujan(右端)がトレーナーとなって、小児二次救急処置を指導中
(於:ブータン王立医科大学シミュレーションセンター)

帰国研修員Mr Tshewang(右端)が指導者となって、看護学部の教員に講義を実施
(於:ブータン王立医科大学看護学部)

JICA技術協力プロジェクトを通じて供与されたシミュレーション機材を活用して研修を実施
(於:ブータン王立医科大学シミュレーションセンター)

帰国研修員のDr Maheshi(中央)が二次救急処置コースの講師として医療者向けに指導を実施(於:ブータン王立医科大学シミュレーションセンター)

ブータンにおける医療人材の育成、医療体制への貢献は、ブータン帰国研修員の日本での学びが大きな原動力となりました。この本邦研修は、国立国際医療研究センターをはじめ、東京慈恵会医科大学、国立成育医療研究センター、その他多くの関係者の方々による渾身的なご指導とご支援の賜物でもあります。この場をお借りして感謝を申し上げると共に、持続可能な形で、ブータンの医学教育のが益々推進されることを祈念したいと思います。

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