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日本の生活習慣病対策の経験をバングラデシュへ ~本邦研修での学びを活かして、帰国研修員の次なる一歩~

2024.06.06

2024年3月21日から29日にかけて、国民の健康予防に奔走するバングラデシュの保健家族福祉省の実務者9名(「JICAバングラデシュ国非感染性疾患対策強化プロジェクト」のカウンターパート達)が、研修員として訪日しました。

日本の生活習慣病の知見・経験を得るべく、その政策・歴史、最新の動向、健診/検診活動、学校・地域・職場との連携などについて、東京、広島、千葉の3都県を訪れ、関係者との意見交換を行いました。日本に降り立った研修員たちは、何でも吸収しようという意気込みで各地を回り、そして今後のバングラデシュにおける政策や取組みの発展に向けて議論を重ねました。彼らは日本で何を学び、帰国後、どのように活かしているのでしょうか。

バングラデシュにおける疾病構造の変化、押し寄せる非感染性疾患の負荷

バングラデシュでは、心血管疾患や糖尿病、がん、慢性呼吸器疾患といった非感染性疾患による死亡率が年々増加しており、2022年の世界保健機関(WHO)の報告によれば、全死亡者数の約70%が非感染性疾患によるものと報告されています。それまで中心であった急性期呼吸器疾患や下痢症などの感染症から疾病構造が変わり、より中長期的なケアを必要とする非感染性疾患の負荷が高まることで、政策づくりやガイドライン策定を担う保健家族福祉省は、疾患別の戦略やアプローチを立てたり、予防を重視した体制を整えたり、幅広い対応が求められています。

厚生労働省での一コマ。日本の非感染性疾患対策の取組みについて、質疑応答が盛り上がりました。研修期間を通じて様々な関係者と意見交換する機会があり、自国の対策の見直しや発展につながる収穫を得ました。

「健康的な生活習慣の定着」に向けた実践的取組みに感銘

最初に訪れたのが広島県呉市。呉市東保健センターは、適塩事業として1日当たりの塩分摂取量を上限8gとして目標を定めています。8g程度の塩分を含むカップ麺1杯とは一体どの程度なのか。これを肌身で実感するために、予め用意されたペットボトルに並々入った食塩水を味見してみました。そのしょっぱさに顔をしかめる研修員。カップ麺を完食することが、このペットボトルの食塩水を飲み干すのと同等であることを知り、塩分量を考慮した食事の見直しを行うきっかけづくりにしようという試みです。また、理想的な献立の組合せについても皆で議論し、いかに栄養のバランスが取れた食事が重要なのかを参加者間で共有しました。

グループに分かれて栄養バランスが取れた献立を考えた研修員たち。どちらの献立案がより栄養バランスが取れていたのでしょう?

減塩対策として開発された様々なタイプの醤油さしを実際に試してみました。

次の訪問先が、同じ呉市内の白岳小学校。ここでは学校の子どもたちとの交流に気分が高揚している研修員の姿が見られました。そして、日本の学校で広く普及している学校給食が、栄養に配慮した食事ということにとどまらず、準備から片付けまでを生徒自身が務める、そして食べ物や作り手の人たちに感謝するなどの道徳教育を兼ねていることに感心しながら、実際に学校給食を味わってみました。その反応は研修員によって様々。食生活が日本とは随分異なるバングラデシュ研修員には、日本食の味はどう感じられたのでしょうか。

白岳小学校では、その他にも体育の授業の見学や保健室の機能について説明を受けるなどして、学校という組織が子どもたちの健康を育むのに寄与しており、またケガや病気をした時の最初の窓口としての機能を果たしていることを知り、その役割の大きさに驚きを隠せない様子でした。非感染性疾患対策における学童期からの介入の重要性を認識した研修員たち。帰国後は教育省と協議し、保健と教育のセクター間で連携して学童期からの健康づくり対策を強化していきたいという意欲的な発言も聞かれました。

受け入れてくださった白岳小学校の建物の入り口には、こんな嬉しいウェルカムボードが!

小学校で提供されている給食を体験。栄養バランスが考慮された食事はお口に合いますか?

保健室の機能について熱心に耳を傾ける研修員。生徒たちの健康維持やケガした時の応急処置など、果たす役割の大きさに関心を寄せていました

栄養教諭より、栄養バランスが考慮された学校給食の役割と重要性についての説明がありました

厚生労働省と文部科学省の訪問では、非感染性疾患と学校保健に関する政策や制度という大きな枠組みについて理解を深めました。そして、現場レベルで実践する具体的な保健予防活動を視察すべく、千葉県の千葉市と船橋市を訪れました。千葉市にある公益財団法人ちば県民健康予防財団では、県からの委託で40歳以上を対象とした特定健診のほか、検診車を利用しての巡回活動を行っていることが紹介されました。バングラデシュ保健家族福祉省でも、検診車を活用した糖尿病対象の巡回健診の試験的な取組みを計画していることから、各種検診項目に特化してスクリーニングサービスを提供する検診車による事業は、多くの示唆が得られる機会となりました。

循環器検診が行われている検診車に入り、サービス体制などをヒアリングしました

検診車を含む検診サービスの仕組みや財政負担のしくみなど、様々な質問とコメントが挙がりました

船橋市では、市民の健康づくりのために、自治体が主体となって様々な取組みが進められています。例えば、市民にウォーキング習慣を身に着けてもらおうと、スマートフォンのアプリなどを使って歩数に応じてポイントを付与することで景品と交換できたり、地域のスーパーなどと協力して野菜摂取を促したり、地域内の様々なリソースを活用あるいはマルチな連携を広げるなど、地域ぐるみの活動が展開されています。地域住民の健康増進のために多角的なアプローチを図っている船橋市においても、まだ導入段階で試行錯誤しながら進めている取組みもあるという話を受け、バングラデシュでもやってみようという意識が芽生えた研修員もいました。

市民の皆さんと一緒に健康づくりに挑戦。日頃の運動習慣の差が出たのでしょうか!?

船橋市が取り組む様々な健康増進活動を学び、自国の政策や活動にも生かそうという意欲が湧いています

約1週間の研修日程を終え、晴れて修了証を手に自然と笑顔がこぼれます

本邦研修での学びを活かし、バングラデシュの地域保健向上に尽力する帰国研修員達

日本での研修を終えた後、早速具体的な取組みが現地で始まっています。保健家族福祉省非感染性疾患対策課は、医療従事者を対象とした研修において、日本の非感染性疾患対策がどのように政策で示され現場で実施されているのかについて紹介を行いました。今後のバングラデシュの非感染性疾患対策を検討する上で参考にできると説明しています。また、若年層を対象とした非感染性疾患予防対策の強化を目的に、ボーイスカウトやガールスカウト向けの研修を開始しました。

非感染性疾患対策課が実施した医療従事者を対象とした研修の様子

スカウトを対象とした研修で、身体測定の方法について学ぶ学生たち

バングラデシュ糖尿病協会では教育省と協定を結び、8つの中等学校(日本の中学校や高校に相当)と1つの宗教学校をパイロットサイトに、学校保健プロジェクトの開始準備を着々と進めています。学校給食や体育の授業など、日本の取組みを参考にしながら、既存のカリキュラムに組み込んでいく計画も進行中です。

このように、来日した研修員が中心となり、バングラデシュ現地での非感染性疾患対策に繋げようという気運は高まっています。今後、日本の経験や知見を踏まえ、医療現場や学校などにおいて、現地の非感染性疾患予防や早期発見・治療への関心が高まり、対策が強化されることが期待されます。

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