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障害をもつ子どもも支援者も共に成長する社会を目指す~インドネシアでの自閉症教育の人材育成プロジェクトのご紹介~

2024.08.21

2024年5月に終了した、草の根技術協力事業「中部ジャワ州スラカルタ市「自閉症教育」の人材育成事業」 。実施団体である一般社団法人こども支援チェルクと株式会社ソラアルのメンバーは国内では言語聴覚士や社会福祉士として、特別支援の現場で活躍しています。 2021年3月、コロナ禍で始まった事業はどのような終わりを迎えたのでしょうか。3年間の歩みを振り返りながらご紹介します。

「子どもの障害を治したい」「普通にしたい」

「障害を治す魔法の杖が欲しい」これは、事業が始まった時に自閉症を持つ子どもに関わる方からでてきた言葉です。自閉症を持つ子どもの特異に見える行動を治そうと日々悩んでおり、「普通」に近づけることが重要だととらえていました。
事業の対象地であるスラカルタ市は「インクルーシブな街づくり」を進めており、教育行政においても、障害のある児童・生徒を受け入れるインクルーシブ学校の数を増やす努力をしていました。一方で、特別支援の現場では、障害のある子どもに合わせた支援方法の知識と技術が十分に広まっていない状況でした。
このような課題を解決するため、この事業では、市内の幼稚園、小中学校、障害者支援施設など、様々な場所で自閉症を持つ子どもに関わる教師やセラピストたち約30名を対象に、障害への理解や、適切な支援をするための研修などを実施することになりました。

研修で学んだことを活かして教材を作成する様子。

少しずつ変わる障害への意識、支援者としての気づき

研修には、自閉症を持つ子どもたちの特徴的な見え方や感じ方に合わせた支援方法といった内容を盛り込みました。自閉症を持つ子どもの特異に見える行動には理由があること、その行動は「意思表示」であること、また、これらの行動の特性は大なり小なり誰にでもあり、自閉症を持つ子どものみの行動ではないことなどを繰り返し伝えていきました。見え方や感じ方の違いにより生じる行動を無理に変えようとするのではなく、個々の特性に合わせて自閉症を持つ子どもが過ごす環境を整えたり、コミュニケーションの取り方を工夫したりすることで成長を促すことができる。それこそが支援者の役割であることを強調しました。
コロナ禍の影響もありましたが、オンラインでの座学研修、現地での実践研修、来日研修と様々な研修のかたちを組み合わせながら研修参加者(スラカルタ市内の学校や特別支援で勤務する教師やセラピストたち)の学びを深めていきました。
少しずつ参加者の意識が変化してきたことが、参加者の言葉や行動に現れるようになりました。研修で学んだことをそれぞれの職場に持ち帰って活かすことで、自閉症を持つ子どもたちが安心して過ごせる環境が整っていきました。

本邦研修で肢体不自由特別支援学校を訪問ー医療的ケアの必要な児童の食事支援を見学する様子

広まる自閉症への理解

事業終了直前の2024年4月に、最後の研修会を実施しました。事業終了後も、事業の参加者が中心となって自閉症の理解者を増やし、支援方法を広めていくために、研修参加者が講師となり、一般の参加者に学びを伝える機会としました。さらに、日本から自閉症当事者の講師を招き、自閉症を持つ人の見え方、感じ方、行動の理由などを話してもらいました。当事者からの話を聞いた自閉症を持つ子どもの母親からは、「今まで息子が人前で飛び跳ねたり、手をひらひらしたりすることが恥ずかしく、叱責していた。それが息子を悲しませていたことに気づいた。今後は他の人がどう思うかよりも自分が息子を尊重することを大切にしたい」という言葉が寄せられました。
この事業を通して、研修参加者から保護者、職場の同僚へと少しずつ障害への理解が広まっています。2024年の7月からは、スラカルタ市内のすべての学校がインクルーシブ教育を実践することになり、障害に対する知識を持つ人材の存在はますます重要になっています。
事業は終了しましたが、この事業で育成された参加者が、今後もインクルーシブな街づくりへ貢献してくれることを期待しています。

自閉症をもつ子どものために整備された教室

最後の研修会の様子。

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