カンボジアの幼児教育の質の改善に取り組んできたシャンティ国際ボランティア会の事業完了報告 ~ 日本のような「遊びを通じた学び」の普及を目指して ~
2024.08.29
「砂場あそび」や「お買い物ごっこ」。日本の幼稚園では、遊びを上手に取り入れながら、子どもを主体として教育が行われています。しかしながら、カンボジアでは、政府や教員が授業に遊びを導入したくても、教材や指導方法の不足によって苦戦していました。本トピックスでは、このような状況の中でカンボジアの幼稚園で「遊びを通じた学び」の実践・普及してきた公益社団法人シャンティ国際ボランティア会の草の根技術協力事業(2024年4月完了)についてご紹介します。
幼児期は、自然との触れ合いや遊びといった様々な経験から、豊かな想像力をはぐくむとともに、道徳性や社会性の基盤を育む大切な時期であるほか、小学校での勉強や集団生活に向けた準備期間として重要な役割を担っています。
日本では、ほとんどの子どもが幼稚園や保育園に通っており、身近な自然を観察したり、子ども同士の遊びといった子どもを主体とした様々な活動が取り入れられています。しかし、カンボジアでは幼児の就学率は全体の約4割程度に留まっているほか、多くの幼稚園では教師中心の講義型の授業が展開されています。
また、カンボジアにおける就学率の低さの原因の1つとして、幼児教育の質の低さが挙げられます。例えば、1名の教員が40以上のクラスを担当していたり、教員養成校で幼児教育にかかる専門知識を学んだ教員が全体の半数程度しかいないということもあります。また、多くの教育機関では遊びを通じて勉強するための教材や絵本等も不足しています。そのため、カンボジア政府は、幼児教育の質を高めるために「遊びを通じた学び」を推進する指導方針を打ち出しているものの、モデルケースや実践経験の不足によって多くの幼稚園に浸透していないという課題に直面してきました。
事業実施前の幼稚園の様子
このような課題を解決するために、公益社団法人シャンティ国際ボランティア会(以下、シャンティ)は、JICAと連携して、【カンボジア国幼児教育カリキュラムに基づく「遊びや環境を通した学び」実践のための基盤構築事業(草の根パートナー型)第1期】(2020年9月~2024年4月)を実施しました。
本事業では、カンボジア・バッタンバン州の51のパイロット幼稚園で「遊びを通じた学び」の実践を促進させるとともに、今後、他の州・地域にも普及するための基盤を構築しました(事業の詳細は、下記の「事業評価報告書」を参照)。なお、各活動を実施するにあたり、静岡県で保育施設等を運営する社会福祉法人天竜厚生会と連携し、日本の知見や指導技術をカンボジアの教育現場に調和するように移転してきました。
パイロット幼稚園の様子
パイロット幼稚園では、シャンティによる研修を受けた後に、写真のように教室環境を整えつつ、読み聞かせや、幼稚園の先生自作の切り絵、お買い物ごっこ等の多様な遊びが取り入れるようになりました。その結果、欠席率が減少する幼稚園があったほか、教員や保護者からは「子どもたちが毎日幼稚園に行くのを楽しみにするようになった」という感想をいただきました。また、パイロット幼稚園以外の先生も参加するSNSグループ上で、作成した教材の説明や子どもたちが遊ぶ様子を発信することで、パイロット校以外の学校でも「遊びを通じた学び」が徐々に広まっています。
お買い物ごっこの様子(天竜厚生会の教員による日本の技術の共有)
図書コーナーで絵本を読む幼児
教員が自作した切り絵で遊ぶ様子
また、本事業で作成した教員用の指導書であるガイドブックは、2023年にカンボジア政府によって公式に承認され、カンボジア政府としても全国に「遊びを通じた学び」を普及するための計画を作成しました。カンボジア全国の幼児教育関係者に同ガイドブックの研修を行ったところ、「自分の州でも幼児教育に遊びを導入したい」と好評を得ました。
ガイドブック(教員用の指導書)の承認式典・集合写真
ガイドブック(教員用の指導書)
JICAとしても本事業は非常に多くの成果が得られたと考えており、今後、さらに多くの幼稚園で「遊びを通じた学び」が普及し、カンボジアの幼児教育の質が向上し、同国の発展や人々の幸せに貢献していくことを心から願っています。
■関連ファイル
・公益社団法人シャンティ国際ボランティア会HP
・社会福祉法人天竜厚生会ブログ
・事業提案書要約URL
・事業評価報告書URL
・教育だより40号
scroll