現存する世界最古の舞台芸能、能の魅力を発見
2024.09.13
8月24日、JICA東京では「あすに繋ぐ能の会」の梅若万佐晴家(観世流シテ方能楽師)のご協力を賜り、日本で学ぶ研修員に、日本の文化・歴史を深く知ってもらう福利厚生プログラムの一環として能楽体験を実施しました。
当日はインド、モンゴル、ジョージア、タイ、ガーナ、インドネシア、エジプト、マレーシアの8名の幸運な研修員が参加しました。新潟から来てくれた熱意ある研修員も。
閑静な住宅街に建つ梅若家の代田稽古舞台を訪問すると、松の鏡板を配した見事な能舞台に感激する研修員。
体験会のために準備いただいた足袋靴下を履いて、日本式の正座とお辞儀から能体験のスタート。
今回は研修員の為に、特別に「舞」を披露いただきました。力強い謡(うたい)と、信じられないほど美しい衣装、張り詰めた空気感などを肌で感じ、厳かな雰囲気の能舞台に真剣に見入る研修員たち。女面の演じ手は男性かと思っていると、最後に面を外してご挨拶いただいたのは3歳から舞台で演じているという梅若氏のご息女で、舞台での重々しい感じと対照的な柔らかい表情に皆でほっこりしました。
現存する世界最古の舞台芸能である能についてご紹介いただき、能面と扇を観覧。演能家として長い伝統を持つ梅若家にはなんと、600年前から使われる能面もあるそうです。能面が角度によって表情が変わること、鬼のような般若は男性ではなく女性であること、扇にも表と裏で様々な意味や使い分けがあることなどに驚き、感心していました。
次に能装束を見せていただきました。1つの装束に全て違う種類の季節の花々が散りばめられていたり、横糸のみで複雑で優美な模様を織り上げる技とその美しさは本当に感動的で、衣装の1つ1つが完璧な芸術品でした。
謡の体験では、「松の精が御代の栄えをことほぐ」という内容の「老松」を梅若氏に倣って皆で唱じました。舞台に響き渡る梅若氏の声に、「なんて素晴らしいの・・!」と感嘆する研修員たち。さらにすり足体験では、重心を落してすり足での足運びを経験しました。能面の表情が変わらないように頭を動かさず、地を蹴る反動を利用せずに足裏と姿勢に神経を集中させて動く体験は初めてのことだったと思います。
そして今回は時間の許す限りやってみましょう、と研修員全員が能面をつけて舞台をすり足で歩く体験をさせていただきました。面の小さな目の穴から見える視野の狭さに驚いたり、能面を神聖なものとして扱い、面に対して礼をする、手で表面に触れない、演じ手が舞台を演じた後、たまった汗が流れて貴重な面が劣化しないように面を外す、などの作法を神妙に真似ていました。
研修員からは「今現在、梅若家のように能を継承している家庭はどのくらいあるのか?」、「能の保存に際して政府の補助はあるのか?」など、様々な質問が寄せられ、この素晴らしい伝統芸能を保持する必要性を感じていたようです。
研修員にとっては能の芸術性、優美で幽玄な動きや舞、力強さ、受け継いできた方たちの想いなど、観劇しただけでは分からない日本文化の奥深さを体験できる本当に忘れられない体験となったことと思います。
貴重な機会をいただきました「あすに繋ぐ能の会」梅若家の皆さまに心より御礼申し上げます。
研修員のコメント
・能体験は素晴らしかったです。皆さんのような伝統的な専門家から、この美しい芸術に触れることができて非常に幸運だと思います。この機会に感謝します。私たちが能の旗を高く掲げることができますように!
・600年近い歴史を持ち、現在でも使用されている能面をつけたことは、私にとってとても印象的な出来事でした。この体験が出来て、本当に感謝しています。皆さんは本当に親切でプロフェッショナルです。皆さんのホスピタリティと贈り物に心から感謝します。
・能楽師のパフォーマンスと声は衝撃でした。衣装のデザインとテキスタイルも魅力的でした。とても興味深く、ユニークな体験でした。ありがとうございました!
・この素晴らしい活動を体験させてくれてありがとうございます。能楽師の方々の説明はとても参考になりました。このような美しい伝統をずっと守り続けてきたことに敬意を表したいと思います。近いうちに皆さんの公演を見るのを楽しみにしています。
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