\開催報告/草の根技術協力事業 東ティモール国「コーヒー畑の改善事業」の完了報告会を行いました
2025.05.13
2019年に開始し、2024年10月に終了した、特定非営利活動法人パルシックによる草の根技術協力事業 東ティモール国「コーヒー畑の改善事業」の事業完了報告会を行いました。完了報告会の実施に合わせて、パルシックの事業をご紹介します。
今回の事業が開始したのは2019年ですが、パルシックは2002年から東ティモールでのコーヒー支援を続けています。東ティモールが主権回復を果たし独立したのは2002年。パルシックの支援の歴史は東ティモールの国の歴史とほぼ同じだけの長さがあります。
原油が輸出額の大部分を占める東ティモールにおいて、原油以外の輸出額の8割を担うコーヒーは非常に貴重な産業となっています。
パルシックは、フェアトレード事業を展開していることを強みに、2003年に1回目の草の根技術協力事業を開始し、現地の農家の組織化をゼロからスタートしました。この時に誕生したのが、コーヒー協同組合「コカマウ」です。
その後3回の草の根技術協力事業を実施し、組合の組織強化や栽培指導を行いました。今回の事業は2019年に開始となりました。
◆パルシックウェブサイト
事業名にもなっている「コーヒー畑の改善」とは何でしょうか。コーヒーの木の寿命は約30年。木が年を取ると収穫量が落ちてしまいます。近年ではポルトガルの植民地時代に植えられた多くの木が古木化し、収量の減少が深刻な問題となっていました。
年を取った木でも、適切なタイミングで根から30㎝程度残して切ること(台切り)で新たな芽を付けることができます。それができなくなった木は根元から抜いて植え替えることで収量を維持していきます。この台切りと植替えの2つが、「コーヒー畑の改善」に必要な技術です。
しかしながら、コーヒーの木を切ったり、根本から抜いたりすることは肉体的に非常に大きな労力を要します。加えて、一度木を切ると、次に収穫できるまで3~5年程度がかかり、その間は収穫量が落ちてしまいます。現地の農家にとって、心理的にも身体的にも非常に大きな負担を強いることとなる「コーヒー畑の改善」技術を広め、現地に根付かせていくのは簡単なことではありませんでした。
農家に栽培指導をする現地スタッフ(写真提供:パルシック)
農家にとって大きな負担を強いる「コーヒー畑の改善」活動ですが、事業終了時には対象地域の305世帯で台切りや植替えが実践され、改善活動が実施された木の総数は約25,000本以上に上りました。28名の技術普及員が育成され、事業終了後も継続的に活動を実施していく基盤が整い、「コーヒー畑が改善され、その技術基盤が地域の協同組合(コカマウ)に定着する」という事業の目標を達成して終了しました。
現地の農家たちを動かした要因・事業成功のカギは何だったのでしょうか?
現地の農家とパルシックが招いたスペインからの専門家との橋渡し役となったのが東ティモールの現地スタッフたちです。自らもパルシックの現地事務所の一角で苗床を作り、専門家が指導した栽培方法を検証しました。そして効果を十分に確認したうえで、自信をもって農家に栽培指導を実施していきました。この過程を経たことで現地農家にとって受け入れやすい手法が確立されていき、技術が広まっていきました。
実はパルシックの長い支援の歴史の中でコーヒーの栽培指導を実施するのは今回の事業が2回目。初回は2006年から2009年にかけて実施した、2回目の草の根技術協力事業の時です。しかしながら、当時は植替えや台切りといった技術は現地の農家にはあまり受け入れられませんでした。一方で、一部の農家がその時に指導した栽培技術を細々と実践し続けていました。2017年に東ティモールのコーヒー産業が不作に見舞われた際に収量を維持し続けた集落があり、原因を探ったところ10年以上前に指導した栽培方法を実践し続けていたのです。このことは栽培指導の効果を証明しただけではなく、他の農家のモチベーションにもつながりました。まさに10年以上前に撒いた種が実を結ぶこととなりました。
コーヒー豆を乾燥させる様子(写真提供:パルシック)
これまで20年以上続けてきたパルシックによるコカマウの支援ですが、すでにコーヒー組合の運営が軌道にのり、今回の事業で栽培技術が現地に定着したことで一区切りを迎えました。
パルシックは、今後はフェアトレードコーヒーを輸入するという形でコカマウとのお付き合いを続けていくことになります。
コーヒーの木は台切りや植え替えをしてから収穫まで3年から5年がかかります。また、コーヒーの収穫は気候や世界市場の影響を大きく受けるため、この事業の本当の成果が見えてくるのはまだまだ先のこととなりますが、これからも現地の農家の方が活動を続け、東ティモールのコーヒー産業を盛り上げてくれることを期待しています。
東ティモールのコーヒー農家とパルシックが大切に育てたコーヒーは日本の食卓にも届いています。フェアトレードコーヒーを購入することでコーヒー栽培を応援することにもつながります。
普段何気なく飲んでいるコーヒーも、生産者やそれを支える人たちの努力を知ることで、より一層美味しく感じられるかもしれません。
実の付きがよくなったコーヒー農家の畑のコーヒーの木(写真提供:パルシック)
◆事業評価報告書
◆東ティモールのコーヒーを飲んでみたい方はこちらから(フェアトレードショップ パルマルシェ)
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