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【実践授業レポート】小松明美先生 from 川崎市立川崎高等学校

実践授業とは…

実践授業とは、JICA教師海外研修に参加した先生方に、研修で得た経験を活用した授業プログラムを作っていただき、学校現場で実践いただくものです。

小松先生のレポート

高校3年生を対象に、英語の論理表現Ⅲの授業において実践授業を行った。

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授業を行うにあたって

AIが私たちの生活の利便性を高め、またSNSの情報に左右されやすい現代においては、何が本当に必要なのかを自分で考え、互いに意見交換をしていく力が、これからの社会でますます重要になると考える。高校3年生の受験を控えた時期ではあるが、多角的に物事を捉える力を育成するために、今回は「グローバル化」の単元を切り口とした論理表現Ⅲの授業で実践を行うことにした。
また、論理表現Ⅲでは、2単位のうち1単位をALT主導のディスカッション授業として位置づけており、今回の実践もその時間に実施した。ディスカッションのトピックは啓林館『ライティングメソッド』の内容から選定しており、今回もその一つを扱った。

実践授業

(1)本時の目標
他者の視点に立って世界を見ることで、多文化共生社会を理解するための「視点の転換」や「価値観の再構築」を体験し、自分の内側にある前提や無自覚な思い込みに気づく。

(2)揺さぶりたい価値観
本時では、自分が「当たり前」だと思っている価値観は、必ずしも他者にとっての当たり前ではないことに気づくことをめざす。
写真にある木や電信柱の視点、そして異文化背景をもつ人物になりきるロールプレイを通して、社会には多様な視点が存在し、見えていない声や立場があることを実感する。
さらに、異なる価値観と向き合う際には、正解を求めるよりも、相手の立場を想像し理解しようとする姿勢こそが重要であることを、生徒が体感的に学ぶことを期待する。

(3)展開

1. 導入
まず、川崎市とアスンシオン市の航空写真を提示し、空から見える景色の違いに注目させる。そのうえで、パラグアイにおける木の伐採に関する法律に触れ、地域によって環境や価値観が異なることを意識づける。
続いて、「気になる木」の写真を提示し、①木の周囲を歩く人々の視点について意見を共有した後、②木や電信柱の視点に立って考える活動へつなげる。生徒はペアになり、木役・電信柱役に分かれて会話を行うことで、視点の転換を体験する。

2. 問題提起
「私たちはグローバル社会に生きているが、自分とは異なる視点を持つ人を見落としているかもしれない」という問いを提示し、他者の視点に立つことの重要性について考えさせる。

3. ロールプレイ
以下の2つの場面を設定し、生徒は配布された役割カードをもとに、A/Bの立場になりきって会話を行う。

Role Play 1 :コンビニでの出会い
A:日本人高校生 
B:ネパールの留学生

Role Play 2 :下足の文化
A:中国人留学生
B:大家さん

それぞれの役割とゴールを明示したカードを配付し、相手の立場を踏まえて対話を進める。

4. 振り返り・まとめ
最後に、ロールプレイを通して気づいた点を共有する。また、

“To understand globalized society, we need to…”

の続きを生徒自身が考え、グローバル社会で生きるうえで必要な姿勢を言語化させる。

(4)生徒の様子
授業の導入で「気になる木」を扱った場面では、生徒から、『自分の動線では木や電柱は「邪魔なもの」に見えるけれど、木の側から見ればそこに存在する理由がある』という気づきが自然に生まれていた。木と電柱になりきる活動では、最初は戸惑う様子も見られたが、役に入り込んでいく中で、ワークシートには「自分の『当たり前』を基準に世界を見ていたことに気づいた」と記す生徒もいた。

ロールプレイでは、異文化の立場に立って会話する難しさが強く表れていた。相手の意図が分からず不安になったり、会話のきっかけがつかめず言葉に詰まる場面もあったが、その体験を通して、「外国の人にもそれぞれ背景がある」「自分の当たり前は相手の当たり前ではない」といった理解を深める生徒が多かった。

振り返りでは、「文化を押しつけない」「柔軟に考える」「相手の背景に敬意をもつ」「一方的に話さない」など、多文化社会で必要な姿勢が自発的に言語化されていた。

授業を振り返って

本時の目的であった「他者の視点に立つ力」を育む点では、木や電柱、異文化の人物になりきる活動を通して、生徒が「自分には見えていなかった視点」の存在に気づき、多文化社会に必要な想像力を働かせる姿が見られた。

ただし、言葉で「相手を理解することが大切」と言うのは比較的容易であり、教師の発問次第で「正解らしい答え」を生徒が口にできてしまう側面もある。どのようにして議論を深め、生徒自身の経験や価値観に結びつけ、「自分ごと化」させるかは今後の課題である。

今回の実践では、体験的なロールプレイが言語以上の気づきを生み、生徒が自分の前提に向き合おうとする様子があった。生徒が自分の言葉で考え直す場面を意図的に増やし、学びを広げていくための時間を確保することが、今後の授業づくりにおいて重要であると感じた。