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授業実践紹介vol.1 授業にSDGsの視点を取り入れる(栃木県宇都宮市立宮の原中学校)

2020年9月18日

「自分たちが普段来ている服」を起点に、世界と自分とのつながりについて考えていく

「それではみなさん、家から持ってきたお気に入りの服を出してください。」
そんな一言で始まった宇都宮市立宮の原中学校3年6組の授業。

教壇に立つのは、本年度の国際理解教育/開発教育指導者研修に参加中の仙波先生。
「持続可能な社会をジブンゴトとして捉えてほしい」「生徒だけでなく同僚の先生にももっと知ってほしい」そんな思いをもって日々実践を行っている。

この夏に参加した同研修の前半研修(8月)では、全国から集まった23名の先生方と共に世界に目を向け、課題をジブンゴトとして捉える生徒を育てるための授業づくりを行っている。

今回は前半研修(関連リンクを中段を参照)を通して作成し、研修アドバイザーに何度も添削をしてもらった指導案を用いた授業実践を、研修担当者が見学した。

【授業の様子見学】 学校に行けないってどういうことだろう?

配られた写真から読み取れるSDGsのゴールを考える。

同じ写真でも班によって結び付けるゴールは様々。

生徒たちは、持ってきたそれぞれの服を机の上に出す。
「みなさんの服はどこで作られたものですか?」
「中国!」「インド」「ベトナム!」「バングラデシュ!」「カンボジア!」
たくさんの国名があがる。
生徒たちは自分の普段来ている服がどこからきているのか、知るだけで少し世界を近くに感じている様子だ。

続いて仙波先生が問いかける。
「なぜ多くの服はそういった国々で作られているでしょうか?」

「賃金が安いから」「安く、たくさん作ることができるから」

「そうなんです、私たちの周りにはそういった国で作られたものがたくさんあります。」
「では、そんな国で暮らす子どもたちの様子について見てみましょう」
そう言って先生は子どもたちが写った3枚の写真を配る。

水を肩に担いで運ぶ子ども、外に置かれた黒板で学ぶ子ども、カカオを収穫する子ども、どれも発展途上国と呼ばれる地域に暮らす同年代の子どもたちの様子を写したものだ。

「これらの子どもたちは皆さんと同じような環境では暮らせていません。学校にも満足に行けていません。どんな課題が、これらの状況を引き起こしていますか?SDGsの観点から見てみましょう。」

SDGsカードを使った授業

答えがない授業だからこそ、「教える」のではなく生徒と共に「考える」

生徒は仙波先生からSDGsの各ゴールが書かれたアイコンカードを受け取り、一つひとつの写真について、どのゴールと結びついているかをグループで話し合う。

SDGsについてはすでに学習済みの生徒たち。それぞれの写真を見ながらかかわりのあるSDGsゴールについて話していく。
「水を運んでいるからゴール6(安全な水)だね」
「学校に満足に行けていないからゴール4(教育)だ」
「子どもまで働かないといけないってことは、貧しい暮らしなんだろうな。ゴール1(貧困)もだね。」

議論が進んでいる班では、さらに一歩踏み込んだ話し合いがされていた。
「この水を飲んでいるのかな、健康が心配だからゴール3(健康と福祉)も。」
「この子どもたちは働いているのではなく、働かされているんだよね。だからゴール8(働きがい)かな。」
「ゴール15(陸の豊かさ)は?売るための作物を植えるために森林が切られているって聞いたよ」

たった1枚の写真の中にさえ、多くの課題が混在し結び付いていることを、生徒たちは話し合いを通して気づいていく。

こちらが想像していたよりも多角的な観点から生徒たちは写真をSDGsと結び付けているようだ。

個人個人がこれまでに見聞きしたことを思い出しながら、SDGsという共通の視点で世界課題を見ていく。同じ写真を見ているのに、各班それぞれが別のゴールと結び付けているのが非常に興味深い。

SDGsがジブンゴトに

他の班のワークシートを自分たちのシートと比べながら見て、足りなかった視点について再度話し合う。

休憩を挟んだ次の時間では、「学校に行けない」という問題があるとどんなことになるか、について考え、付箋に意見を書いて1枚の用紙に貼っていった。そして、関連のある問題について線を引き、結び付けていく。

生徒たちがどのような議論を行うのか楽しみに見ていると、
「文字の読み書きや計算ができない」
「将来良い仕事に就けない」
「コミュニケーションがうまく取れない大人になってしまう」
といったものから、
「親が文字を読めないとその子どもも文字が読めないよね」
「お金を稼げないってことは、貧しくなり、病気になりやすい」
「そんな人がたくさんいると国が発展しない」といったように、こちらでも一歩踏み込んだ考察がされていた。

また、付箋を貼り付けた用紙を見たところ、多くの班で「学校へ行けない」という問題から保健や水、貧困といったゴールへ線が伸び、その線同士がさらに結ばれていた。

社会のあらゆる問題同士のつながりについて、生徒たちは可視化しながら理解を深めていくことができたようだ。

その後、生徒たちは今日見てきた状況を踏まえて、「自分が大切にしたいSDGsのゴール」について選び、なぜそれを選んだかを一人ひとり考えた。

今後の授業では、町や学校の中といった身の回りからSDGsとの関わりを探してきた後、宇都宮市民へ発信するためのポスター作成に取り組むとのこと。

世界の課題と自分たちのつながりを知って終わりではなく、身の回りのできる範囲で地域を巻き込みながら行動、発信していく。そんな生徒たちの取り組みが今後も楽しみだ。

あとがき

後日、仙波先生からメールで生徒たちのその後の学びについて連絡があり、
「SDGsを取り入れたことで、生徒が日常から社会を意識するようになった。生徒だけでなく私自身も視野が広がっています」と嬉しい報告。

仙波先生は今回の地球ひろばの研修に加え、昨年度はJICA筑波主催の教師海外研修にも参加された熱心な先生だ。
参加した理由を尋ねると、「生徒に世界のことを教えるのに自分自身が現地のことを何も知らないと感じており、まずは自分が世界のことを知りたかったから」と話した。

今後の抱負については、
「もっと生徒にジブンゴトとして考えさせるアプローチや、より学びを深める実践等、自分の中の引きだしを増やしていきたいです」と話している。

来年2月の後半研修での実践報告時には、生徒の発信の結果についてもぜひ聞かせていただきたい。

(報告:地球ひろば推進課 濱小路 元)

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