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授業実践紹介vol.2 世界とつながる地域の課題~地域の食品ロス問題、私たちが解決します!(愛知県名古屋市立植田東小学校)

2020年10月7日

「地域のお悩み解決プロジェクト」

今回見学に行く名古屋市立植田東小学校の脇田先生から事前に共有された学習指導案の計画内容を見てワクワクした。

「世界の課題をジブンゴトとして考える」、そんな授業を作ることが目的の本研修で子どもを「考える」に留まらず「行動する」段階まで導いている、しかもそこに「地域(ローカル)」という視点も盛り込んでいる。
どんな授業を通して彼らは学びを深め、行動に移していくのだろうか。

脇田先生は、JICA地球ひろば主催の「国際理解教育/開発教育指導者研修」の参加者。昨年度から教職大学院に2年間通いながら現任校の植田東小学校で実践授業を行っている。

脇田先生と子どもたちの学びが、どのような過程で進むのか楽しみにしながら教室へ向かった。

世界の課題を身近に感じるまで

一人ひとりが考える食品ロスの原因をまずは付箋紙に書いていく

先生の声かけ1つでより広い視点から意見を出すようになった

遠く離れた国の現状から始まった授業が、自分たちの日々の行動とつながっていく

授業の導入では、先生が子どもたちに開発途上国でゴミ山を歩き回る少女の映像や、食事の配給を待つ子どもたちの写真を見せながら、彼らが何をしているか子どもを問いかける。

自分たちと歳の変わらない子どもたちの置かれた現状を改めて確認しながら、世界にはこういった人たちがいることを確認していく。

「うわぁ、こんなところで暮らしているのか。」
「毎日ゴミ山の中を歩いて過ごすなんて考えられない、かわいそう。」
子どもたちは遠く離れた国のショッキングな現状に驚いている。

「このように、食べ物が十分になくて困っている人は世界にどのくらいいるでしょうか?」

世界の課題となると数値も大きくなってくるため子どもたちはイメージが付きにくい。
そこで脇田先生は具体的な数字に加え、分かりやすい例を用いながら子どもたちに世界の様子を伝えていく。

世界の食糧援助の量は1年間で420万トン、日本で1年間にまだ食べられるのに捨てられる食べ物の量は600万トン。それぞれの量についてコンビニおにぎりの重さや大きさで計算するとどのくらいになるのか、子どもたちと一緒に確認しながら進めていく。

すると何人かの子どもたちがあることに気づく。
「世界で援助のために寄付される食料よりも、日本が捨てている食べ物のほうが多い。それって変だ。」

世界の9人に1人が毎日ご飯を満足に食べられないという状況に対し、自分たちが普段残したり捨てている食べ物の総量はそれらの人たちへ支援される食糧の量よりも多い。
実は身近にあった世界の課題へのつながりだ。

「なぜ私たちの周りではこんなにも多くの食品が捨てられているのでしょうか。まずは個人で考えてみましょう。」
世界の子どもの写真から始まった授業が、少しずつジブンゴトになってきた!

その後子どもたちはグループに分かれ、「食品ロスとはどのようなものだと理解しているか」、「なぜ食品ロスが出てしまうのか」について個人・班で考えるワークを行った。

先生から考えるヒントとして、「どのような場所で」、「どのような場面で」食べ物を捨てているかを考えながら取り組むように伝えられた。

このヒント一つで、家庭での食事や給食といった「自分が普段関わる食品ロス」から少し広い視点で子どもたちが考えるようになった。

「スーパーでの買いすぎ」「料理の作りすぎ」といった食卓に並ぶ前へイメージを膨らませたり、「工場で食品を作る際に不良品となるものが捨てられている」等さらに上流にまでイメージを膨らませる子どももいた。

個人で意見を考えた後はそれらを書いた付箋を1枚の模造紙に張り付けていく。
「○○しすぎ、というのがすべてロスにつながるんだね」
「スーパーや工場、レストランなど食べ物が関わるあらゆる場所でロスが発生している」
と並んだ付箋を眺めながら生徒たちは気づいたことを話し合っていく。

自分たちの生活と密接につながる「食」というテーマだからか、各班の話し合いは盛んにおこなわれていた。

その後、他の班の模造紙を見ながら、自分の班の意見を補強していく。
ここで先生が一言。
「この中で、自分もしている・してしまったことがある人はマークをつけましょう。どれか一つでもマークがついた人はいますか?」
教室の子どもみんなが手を挙げる。

世界の課題と自分の日々の行動とがここでつながった。

じゃあ、自分たちに何ができる??

休み時間も議論をやめない班もあった

3×3のマスに区切られた表

個人・家庭や学校・地域という視点に分けながら自分たちが何ができるか考える

現状について確認した子どもたち、次は視点が未来に移っていく。
「食品ロスの問題を放っておくとどうなるでしょうか。グループで派生図を書いてみましょう。」

「ゴミがたくさん出ると、環境に悪い」
「食べ物がない人たちは、病気になってしまう」
「食べ物をめぐって争いが起きる」
食品ロスという一つの課題が様々な世界規模の問題と密接につながっていることを見える化して子どもたちは考えを共有していく。

世界の課題が自分たちとつながっていること、そしてそれを放っておくと更に大変な世界の課題へと発展していくこと、それらの課題は自分たちの未来に関わってくることだと捉えていった。

「じゃあ、私たちに何ができるか、考えてみましょう。」
そういって先生は右図のように3×3のマスに区切られた表を黒板に張り付けた。
縦軸には「すぐに・なんとか・がんばれば」、横軸には「自分一人で・学校や家庭に・地域のお店や人に」と書かれている。

なるほど、このように考えることで多角的な視点で物事を見られることに加え、「ジブンゴト」の視点をもって行動について考えることができる。

次々と手が挙がり、脇田先生が表にマジックで書きこんでいく。
「必要な分だけ買う」、「給食を残さず食べる」、「定期的に家庭の食品の消費期限を確認する」

左側の2列、自宅や家庭についてはポンポンと意見が出てくるが、やはり地域のお店や人に対して自分たちが何かできることを考えるのは難しいようだ。
(当日の意見をまとめた図については関連ファイル:授業資料2[3×3図]を参照)

ここで脇田先生とっておきの、地域を巻き込んだ計画が発表される。
「では2学期はここの部分について実際にみなさんで実行しながら学んでいきましょう。」

学校を超えて、地域とつながる

身近なお店を巻き込んだプロジェクトに生徒たちは興味津々

脇田先生が子どもたちにB6サイズの小さな用紙を配る。そこには、生徒たちが暮らす地区の、普段から家族とよく利用するファミリーレストラン、焼き肉屋、お弁当屋等の名前が並んでいた。先生が説明を続ける。

「この2学期、みなさんは地域のお店の食品ロス問題のお助けプロジェクトを行っていきます。」

「この焼き肉屋いつも行くとこだ!」
「私はこの近所のお弁当屋さんのお助けがしたいな」
子どもたちは、普段から利用するお店のお手伝いができると知り、一同ワクワクしていた。

コロナの影響もあり、直接お店を訪問してインタビューは難しいため、今後は子どもたちが各店舗に店舗の抱える課題や現状を調査するアンケートを実施予定。その結果をもとに今後植田東小の5年生が学年として町の人々とともに、課題解決に取り組んでいくそうだ。

授業の後、この地域を巻き込んだプロジェクトをすることになった理由について脇田先生に質問してみた。

「子どもたちに地域の人とつながってほしいと日頃から思っていることが大きな理由です。ジブンゴトに留まらず、地域という大きな視点を持つことでより学びが深まっていくと思い実施することにしました。」

聞いたところによると、昨年も「地域の課題を知る」という授業を実施した際に地域の店舗にアンケートを学校所属のキャリアナビゲーターを通して行っており、今回はそれにならって全12店舗に脇田先生が直接連絡をとって承認を取り付けたとのこと。
また、今回「食品ロス」というテーマで授業を行った理由については、「子どもたちが好きなこと、身近なことをテーマとして扱うことでよりジブンゴトになると考えこのテーマにしました。」
子どもたちにジブンゴトとして考えさせるための工夫・行動力に感服した。

今後彼らがどのようなプロジェクトを地域の人たちとともに実施していくのか、それを受けて地域の人たちにどんな影響や変化が生まれるのか、後日談が楽しみだ。

(報告:地球ひろば推進課 濱小路 元)

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