理想を追い求めること②

国立大学法人金沢大学 名誉教授
イフガオGIAHS支援協議会 プロジェクトマネージャー
中村 浩二さん

新たなステージを求めて

里山イニシアティブ実現のための国際パートナーシップ(IPSI)の設立総会の様子。(2010年10月開催) 2019年9月現在フィリピンからは中村さんの事業のカウンターパートである国立イフガオ大学を含む7団体がIPSIに参加している。

中村さんは「2020年5月にJICAの草の根技術協力事業が完了するのをきっかけに、新しい取り組みを始めたい。」と意気込んでいます。これまでの取り組みを通して、イフガオの人々のあいだに里山(SATOYAMA)という概念や里山保全の重要性の理解が深まりました。これからは現地の人々が主体となって人材育成をおこない、自分たちで活動できることを期待しています。これまでの取り組みの成果とまだ足りない部分を整理したうえで、次にやるべきことを現地のプロジェクトメンバーとしっかり協議していきたいと語ります。年に何回も現地を訪れるという中村さん。現地の人々といっしょに活動してきて、現地のスタッフが自分たちでプロジェクトを動かす実力を十分に身につけ、成果を出していると感じています。はやく「日本人から教えてもらっている。」「日本人が助けてくれている。」という意識から早く抜け出し、自分たちの力によって取り組みの成果が出ていることに気づき、誇りに思ってほしいと話しています。「さらに現地の人々が自分たちの取り組みの成果を国内外に発信し、より大きな場へと展開していくことも大切だ」と熱く語ります。現在、フィリピン国内では、イフガオ棚田が唯一の世界農業遺産(GIAHS)です。フィリピンには、素晴らしいGIAHS候補地がたくさんありますから、新サイトが認定されるように働きかけ、里山イニシアティブ(自然と共生する社会を実現するための世界的な取り組み)のフィリピン国内ネットワークを立ち上げることも可能です。イフガオでの取り組みの経験と成果を活かして、視野と活動を拡大してほしいものです。

これからを担う若者たちへ

スマトラ自然研究プロジェクト昆虫班のメンバーとしてインドネシアでの若手研究員の育成に携わっていた頃の中村さん。(1981年、写真左) 当時は研究者として駆け出しだったそうですが、現地では自分よりも年長のインドネシア人を指導することもあったそうです。

中村さんに学生に向けての一言をお願いすると「若い世代には積極的にJICA海外協力隊に挑戦してほしい。」と答えが返ってきました。今回のイフガオ州でのプロジェクトのまえには、1980年から2015年にかけてインドネシアでの熱帯昆虫プロジェクトにも取り組むなど国際的な活動に積極的に関わり続ける中村さん。その交友関係には、協力隊OB・OGも多いそうです。中村さんは、協力隊の活動は苦労や挫折もあるが自由度が高く、自分を試し、挑戦する機会が多く得られると考えています。協力隊の活動に取り組むなかで得られる「しっかりと事前準備をする力」、「集めた情報から論理的に考え分析し、解決策を見出す力」、「周囲の人々とコミュニケーションを取り、協力しながら物事を進めていく力」は、変化の激しい現代社会を生き抜くのに必須だと思っています。中村さんご自身も更なる成長のために、多方向に興味・関心のアンテナを向け、色んな人の話を聞くことを習慣化しているそうです。自分にはない発想と出会ったり、新しい文化や価値観に触れたりすることが面白いのだといいます。これまで長年にわたり日本の里山の保全を担い、日本の「SATOYAMA」を世界に発信し続けてきた原動力には、中村さんの幅広い好奇心と常に高みを目指す向上心、困難を恐れないチャレンジ精神があるのではないでしょうか。

取材
JICA北陸インターン
石黒 歩