突破口を抜けた先に①

今回は、2017年6月から2018年12月までJICAの中小企業・SDGsビジネス支援事業を受託され、「バイオマス炭化装置を用いた有機廃棄物処理技術展開に関する案件化調査」を実施した明和工業株式会社(以下 明和工業)で海外事業に携わる徳成武勇さんにお話を伺いました。

明和工業株式会社 海外事業部 部長
徳成 武勇さん

学生時代に見つけた人生のテーマ

「大学時代は期末になると慌ててテスト勉強をし、普段はサークル活動に精を出す、本当に普通の学生でした。海外との関わりは一切ありませんでした」という徳成さん。環境保全をテーマに実施した大学4年~大学院での研究活動を通じて、「自然環境保全も経済成長ニーズも加味した、真の意味での持続可能な社会づくりへの貢献」こそ、仕事として一生かけて取り組むべきテーマになり得ると感じたそうです。「もちろん取り組める課題は沢山残されているものの、日本の自然環境は既によく保全されているか、過去に破壊しつくされている場合が多い。世界に目を向けてみると、特に途上国では開発のトレードオフとして豊かな自然が刻々と失われている状況。何十年か分かりませんが、人生で使える時間は限られているので、自分はそちらの世界で力を発揮できる人間になるべく時間を投じていきたいと思いました。」と徳成さん。日本を飛び出して世界のより差し迫った問題の解決に取り組みたいと、大学院修了後はケニアの環境コンサルティング会社で働くことを決めたそうです。ケニアでは途上国での実務経験を積みながら、語学のスキルアップもできたといいます。

ケニアで感じた中小企業の可能性

ケニアで働き始めた徳成さんは、「ケニアの人々は大企業が作る画一的な製品の輸入より、現地で一緒に解決策を作り上げられる技術やノウハウを持ったパートナーと共に成長していくことを求めている」と感じ、日本の中小企業の海外進出が途上国の発展に重要な役割を果たすと思ったそうです。また、ケニアでの3年半の勤務を終え地元石川県に戻ると、県内企業の多くが国内市場の縮小により海外に目を向けなければいけないと危機感を募らせている現状を知ったといいます。「石川県にはニッチトップ企業に選ばれるような高い技術をもつ企業がたくさんあります。そういった企業が途上国へ進出すれば途上国の課題も国内での課題も解決できると確信しました」と徳成さん。日本の中小企業の技術やノウハウで世界の環境問題の解決に貢献したいという自身の思いと明和工業の社長の思いが一致し、就職を決めたそうです。

ゼロからのスタート

アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(ABEイニシアティブ)のインターンシッププログラムで受入れたアフリカ人研修員の研修の様子。研修員が高い能力を持つだけでなく、根気強く頑張る人間力も持ち合わせていることが印象的だったといいます。

明和工業に就職後、ケニアでの事業に取り組み始めた徳成さん。当時は海外事業専門の部署すらなかったそうで、事業はまさにゼロからのスタートだったといいます。「アフリカでの可能性を模索するにしても、中小企業である自分たちだけではリソースも人材も限られている」と、ケニアで働いていた頃や日本での人脈をフル活用し、協力者を探すところからスタートしたそうです。JICAの中小企業・SDGsビジネス支援事業はケニアで働いていた頃のクライアントをきっかけに知ったといいます。JICAのケニアに対する開発協力方針が徳成さんたちの取り組みたいトピックに一致したこともあり、JICAの事業に応募を決めたそうです。初めての応募は不採択でしたが、応募にあたり準備を進めていく中で、次回こそは採択を目指そうという気持ちが社内で高まったと感じたといいます。
不採択となった後、ナイロビで開催された第6回アフリカ開発会議にブースを出展したり、会社でアフリカからの研修員を受け入れたり、海外経験のある中途人材を採用したりと次々に行動を起こし、2回目の応募で事業の採択が決まったそうです。2回目の応募に向け行った活動では、アフリカ会議に参加していた現地の有力企業の社長・大臣クラスの要人の方々から絶賛されたり、研修員を実際に受け入れたことで現地のスタッフの専門性と事業の適合性をしっかり見極める必要があることに気づけたりと新たな発見があったといいます。徳成さんは、「不採択になった当時は悔しかったですが、その後起こしたアクションを通して自分たちの取り組みの有用性を確信しましたし、事業の成功につながる新たな気づきも得られました。」と話します。

取材
JICA北陸インターン
石黒 歩