突破口を抜けた先に②

明和工業株式会社 海外事業部 部長
徳成 武勇さん

「Player」として2度目のケニアへ

案件化調査を行うため明和工業の社員としてケニアに戻ると、現地環境コンサルティング会社の社員として働いていた頃とは違った感覚があったといいます。「技術やノウハウを持つ会社から来た人間の話と、そうでない人の話とでは、説得力がまるで違うと痛感しました。そこに会社の知名度は大きく影響していないように見えます」と話す徳成さん。明和工業の社員としてプレゼンした時とコンサルティング会社の社員としてプレゼンした時とでは聞き手の真剣度が違ったそうです。コンサルティング会社の立場をゲームの「ファシリテーター」とすると、民間企業の立場はゲームの「プレイヤー」。プレイヤーとして事業に関わることは失敗リスクも伴うけれども、その分実際に社会インパクトを起こせる可能性があり、やりがいもあるのだそうです。いばらの道であっても自分の力を試し、発揮できる環境が自分には合っていると徳成さんは語ります。

想いを形に

案件化調査で使用した小型の炭化装置。

案件化調査を終え、徳成さんたちは明和工業の炭化技術はケニアの環境問題解決の役に立つ自信を得たといいます。理念が素晴らしくても実現性がなければ意味がない。現地機関と良い関係を構築し、自分たちの構想をより具体的で実現性のある事業プランに落とし込んでいきたいと語ります。また、北陸には海外にも通用しうる独自の技術やノウハウを持つたくさんの企業がある一方、海外展開に向け本格的に取り組み始めている企業はまだ多くはないと感じているという徳成さん。自分たちが先駆者となり、その取り組みを発信することで、北陸にしかできないことで世界の諸問題の解決に貢献するきっかけになればとも語ります。

仲間がいれば

一人の力には限界があるけれども、たくさんの人が集まれば大きな力になるという徳成さん。学生時代に熱中したアカペラサークルで、グループメンバーと1つの音楽を作り上げる経験を通して、異なる得意分野を持つ仲間と共に1つのゴールを追いかけることの大切さを知ったといいます。理学部出身という徳成さんは、学生時代の終盤になって初めて途上国の環境・社会課題に関心をもったものの、同じトピックに関心のある学生が少なく、誰に相談すればよいかも分からず苦労した経験があるそうです。「何かしたいと思った時は一人で悩まず、まず動いてみること。動いているうちに一緒になって活動してくれる仲間に巡り会えるし、やりたいこともより明確になっていく。それを楽しみにしてほしい」徳成さんは大学院生の頃とケニアで働いていた頃に、それぞれ有志で団体を立ち上げ世界の環境問題を学ぶ勉強会を開催していたそうです。一緒に取り組む仲間の存在が学び続けるモチベーションになり、一人の時間にも本を読んで勉強するようになったといいます。
また北陸で学生時代を過ごした徳成さんは、北陸地域の学生に対し、「地方の学生が、都会の学生と比べ色々なことに挑戦する機会が少ないのは事実だと思います。しかしどこに住んでいようが、やりたいことを実現するために行動を起こし、動き回ることは自由だと思います。地方でサークルを立ち上げてもいいし、一度県外や海外に出て研鑽を積んだっていい。機会が少ないからと諦めるのではなく何事にも積極的に挑戦してほしい」とエールを送ります。ケニアでの職務経験を積んで日本に戻ってきた時、実際に見てやってきたからこそ人や組織の協力を得られたケースが多々あったと感じたそうです。同じことを言うにしても、実際に取り組んだ人にしか伝えられない思いや言葉があるといいます。また、挑戦を続けることで、新しい発見があったり、新しい人脈ができたりと人生の幅が広がるともいいます。

誰かが定めた物差しで自分を見るのではく、等身大の自分を見つめ「自分にできること」「自分のやりたいこと」を模索していくことが人生を切り開く突破口になる。自分の気持ちに正直に生きる徳成さんの背中に若い世代が自分らしい人生を歩む道標が見えたような気がしました。

取材
JICA北陸インターン
石黒 歩