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ODA評価の歴史と新しい視点

#1 貧困をなくそう
SDGs
#10 人や国の不平等をなくそう
SDGs
#16 平和と公正をすべての人に
SDGs

2024.07.16

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評価部 部長 阿部 俊哉

ODA評価の歴史

日本のODA評価は、1975年にOECF(海外経済協力基金、JICAの前身の一機関)が円借款個別事業の事後評価に着手したことを契機に始まりました。他の行政機関に先んじて、ODAでは早い時期から事業評価に力を入れてきたのです。その目的は事後評価を行なうことにより、個々のプロジェクトを適正に管理し、一層効果的なものにすることでした。さらに、事業の成果や課題、教訓を取りまとめて対外的に報告することで「説明責任」を果たし、それらを将来の事業への「教訓活用(改善)」することも事業評価には求められました。明確な根拠を以って、事業の成否・成果を明らかにすることが事後評価の役割です。

出展:JICA事業評価年次報告書 2023

「説明責任」と「教訓活用(改善)」に取り組むきっかけになったのはODAに対する批判が最も盛んであった時期の1980年代に遡ります。開発協力を専門とする佐藤仁東京大学教授は、著書『開発協力のつくられ方 自立と依存の生態史』のなかで、「1980年代のODA批判は、反論の材料をもっていたにもかかわらず、その機会を十分に活かすことができなかったODAの実施機関に向けられたものだった。そしてこれを教訓に、開発協力を実施する側の説明責任が問われることになった。」という主旨の指摘をされています。これにより案件管理のためだけではなく、説明責任、教訓活用の視点も含めた事後評価を行なうことになりました。

新しい視点

JICAでは、時代に合わせた事後評価の手法も試みていますので、その事例を紹介します。2023年度には「新型コロナウイルス感染症危機対応緊急支援借款」のクイックレビュー を行ないました。これは個別プロジェクトの事後評価とは異なるもので、今後の類似プロジェクトの取り組みに適時フィードバックできるよう、現時点で得られる成果や示唆を概観することを目的に実施するものです。

JICAの事業評価は、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)による国際的なODA評価の視点に基づき、評価を実施しています。DAC評価基準は、2015年のSDG採択を契機に評価基準の見直しが行なわれました。JICAも事業評価基準を改定し、新評価基準にはSDGの観点から「誰一人取り残さない」や「人々のウェルビーイング」という新たな視点も加味しています。本年4月に公表された「事業評価年次報告書2023」でも、事業計画段階や事業実施中に受益者から取り残されるリスクが高い人に考慮した「誰一人取り残さない(Leave No One Behind)」という考えや、人々の命、暮らし、尊厳が守られ満たされるよう「人々のウェルビーイング(People’s Well-Being)」という考えに立った評価の新たな視点を具体的な事例を用いて紹介しています。これらの視点を入れることによって「人間の安全保障」というJICAのミッションに沿った視点を評価実務に定着させることを目指しています。

2022年には「紛争影響国の事業評価」の視点を整理しました。これは内戦や政変などの影響のなかで実施されたプロジェクトの事後評価を行うことは容易ではないため、データ入手が困難な場合の指標の設定や、事業実施段階で計画段階では想定していなかったような大規模な騒乱が発生した事業の事後評価を行なう際の視点を整理したものです。政治等が混乱する中で事業を継続した経緯や状況の変化に応じて事業スコープの変更の判断に至った考え方や根拠を「記録すること」が重要となります。

開発インパクトを測るために

佐藤仁教授は前掲書のなかで、実施当時は効果がない等と批判を受けても、完成後長い年月を経て効果を発現し、成功したと考えられているプロジェクトがあることを指摘しています。開発協力の現場では、当初想定していなかったポジティヴな効果が副次的に生み出されて、後々まで同効果が良い影響を現地社会に刻むことがあります。このように社会や人々の意識等の変化には長い時間を要する場合が多く、またそれらの変化の予測は難しいということを示しています。

JICA事業の中長期的な成果(アウトカム)を客観的なエビデンス(根拠・裏付け)をベースに把握するための取り組みを行なっています。まずはこれまでの開発協力事業の成果の把握、今後の分析に活用できるよう、JICA内外で実施されたインパクト評価に関する論文等を収集・整理しました。また、事後評価時に事業の効果を定量的に把握する手段のひとつとして衛星データの利活用にも取り組んでいます。さらに世界銀行のSWIFT(Survey for Well-being via Instant and Frequent Tracking)という新しい家計調査手法を使って、マラウイの技術協力案件「市場志向型小規模園芸推進プロジェクト」の事業モニタリングと事業効果の把握 に取り組みました。SWIFTは従来の家計調査と比較して調査項目が少なく、電子端末を用いてデータを収集するため、安価、迅速、かつ容易にデータを得ることができるのが特徴です。このSWIFTの特性を生かし、技術協力事業に参加した農家の世帯支出額への影響と、事業に参加した農家が「作って売る」という意識から「売るために作る」という行動変容に至ったかを確認しました。

様々な手法を駆使して、成果を分かり易く説明する、「分かり易さ」はJICAが果たす責任の重要な要素なのです。

「評価」という言葉に対して反射的に身構える人は少なくありません。しかし評価とはより良くするための「道具」であり、「視点」ではないでしょうか。私自身、評価という業務を通じて、国際協力への理解を深めたり、新しい視点や考え方に気付くことができたように実感しています。評価への関心や理解を深めて、皆さんにとってODAがより身近なものとなり、また評価を活かして事業をさらにより良いものにできるよう、評価部は取り組んでいきます。

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