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平和の地平線へ -バンサモロが描く未来-

#10 人や国の不平等をなくそう
SDGs
#16 平和と公正をすべての人に
SDGs

2026.05.25

サムネイル
フィリピン事務所 飯塚愛理

1.争いの先にあるもの

漫画『諸葛孔明 ― 時の地平線』で、孔明は戦の勝敗だけでなく、いかに争いを繰り返さない仕組みをつくるかを常に考え続けていました。戦いを終えることより、平和を持続させる方がはるかに難しいからです。これは、遠い昔の物語だけでなく、今の世界にも通じていると、私は思います。

日本との国交正常化70周年を迎えるフィリピンの南部、ミンダナオ島を中心とするバンサモロ地域では、国の移住政策などを背景に土地や機会の不平等が生じ、「モロ」と呼ばれるイスラム教徒たちとフィリピン政府との武力紛争が半世紀以上続いてきました。しかし両者は、中断や緊張を繰り返しながらも、長い年月をかけて粘り強く対話を重ねました。その結果、2014年にバンサモロ包括和平合意に至り、2019年にはバンサモロ暫定自治政府が発足しました。

2000年代初頭、情勢がまだ不安定だった時期から、JICAは故・緒方貞子理事長の下で和平交渉支援に関与し、和平合意、そして現在の「平和の基盤」づくりに至るまで、フィリピン政府とバンサモロ暫定自治政府の双方に寄り添いながら伴走してきました。そして、約7年間の移行期間を経て、2026年9月14日、いよいよ初の議会選挙を経て、正式な自治政府が樹立されようとしています。しかし、和平合意や自治政府の発足はゴールではありません。本当の挑戦は、「紛争を繰り返さない基盤」をつくり、平和を維持させることです。

空から見たバンサモロ地域の様子

2.対話が築く、紛争を繰り返さない社会へ

「平和の基盤づくり」と聞いて、どのような支援を思い浮かべるでしょうか。道路や学校の建設は想像しやすいかもしれません。しかし重要なのは、目に見える被害が起こる前に、紛争を未然に防ぐことにあります。対立しあう者同士の対話を支え、平和な暮らしを支える基盤を整え、その基盤づくりを自立的に進める自治政府の行政機能を強化する。その積み重ねが、再び武力衝突を起こさない土台となります。

平和について議論する元戦闘員とその様子を覗く子ども

平和とは、銃声が止んでいる状態だけを指すのではありません。子どもが安心して学校に通い、病気になれば病院に行けること。公共サービスが公平に届くこと。つまり、一人ひとりが暮らしの中で平和を実感できる社会を築くことです。そのためには、政治が変わっても揺らがない行政制度と財政基盤が不可欠です。現在、私たちはバンサモロ暫定自治政府の公共財政管理や行政能力の強化を通じて、市民、バンサモロ暫定自治政府、フィリピン政府の間で対話が継続され、信頼が積み重なる仕組みを整えています。

また、行政制度や財政基盤を強化するためには、人や物、サービスの流れを支えるインフラ整備が不可欠です。長年開発が遅れてきたバンサモロ地域では、インフラ整備と行政能力の強化を並行して進め、経済発展と、その発展に誰一人取り残さないような社会的包摂を両立させる必要があります。市場経済を活性化させながらも、搾取や排除が生まれない社会を築くこと。それが持続可能な平和と発展の条件だと感じています。

公共財政管理の研修に参加するバンサモロ暫定自治政府職員の様子

建設途中の道路。道路網の改善を通じて地域経済の活性化を目指す。

3.広がる平和の地平線

今年9月、初めての議会選挙を経て、自治政府が樹立されようとするバンサモロの経験は、他の国や地域にも活用され得るものです。かつて深刻な地雷被害に苦しんだカンボジアが、いまではアフリカ諸国やウクライナに地雷対策の知見を伝えているように、紛争を乗り越え、政治的枠組みを築き、インフラ整備を通じて経済発展を進めるバンサモロの歩みは、やがて他国を支える知恵となります。こうした経験を伝える立場へと成長する過程は、自らの平和を守り抜く責任と覚悟を一層強めることにもつながります。

半世紀の紛争を経て誕生したバンサモロが、将来、自らの和平プロセスを語り、国際社会に貢献する存在となること。それは決して夢物語ではありません。

平和は完成形として“そこにある”ものではなく、歩み続ける“道のり”です。地平線のように、進み続ける限り前方へと広がります。先人たちがつないできた襷を受け取り、次の世代へ渡していく。JICAはこれからも、バンサモロが描く平和の地平線を共に支えていきます。

バンサモロ暫定自治政府首相府にて

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