【日ASEAN友好協力50年・2】共通課題に挑む!タイの高齢化対策とマレーシアの持続可能な資源利用

#3 すべての人に健康と福祉を
SDGs
#13 気候変動に具体的な対策を
SDGs
#15 陸の豊かさも守ろう
SDGs

2023.12.08

日本ASEAN友好協力50周年を機に、日本およびJICAがASEAN(東南アジア諸国連合)と共に築いてきた信頼と発展の足跡を振り返るとともに、未来に向けたパートナーシップ像について探るこのシリーズ。第2回は、日本とASEANに共通する課題として、タイの高齢化対策とマレーシアにおける持続可能な資源利用を取り上げ、相手国と同じ目線で挑む日本そしてJICAの取り組みを紹介します。

タイで高齢者のケアプランを作成する日本人専門家

タイで高齢者のケアプランを作成する日本人専門家

同じ課題に挑む、対等なパートナーとして

目覚ましいスピードで発展を遂げているASEAN。加盟国の総人口は日本の約5.5倍にあたる約6億8,000万人(2022年)で、2030年にはGDP総額で日本を追い抜くとの予測も出ています。今や日本とASEAN諸国は、「援助する」「援助される」といった関係ではなく、同じ立場で将来を見据える対等なパートナーへと進化しています。

両者のパートナーシップは、社会課題の分野においても同様です。タイでは急速に進む高齢化への対応、マレーシアにおいては持続可能な資源利用に向けた取り組みが日本と共に進められています。

急速な高齢化に直面するタイ

高齢化対策は多くのASEAN諸国に共通する課題です。中でも、平均寿命の延伸とともに、急速な少子高齢化が進むタイでは、高齢者の貧困や介護が大きな社会課題となっています。国連のデータによると、タイの総人口に占める65歳以上の割合は、1990年の4.3%から、2023年は16%、2050年には31.6%に達すると予測されています。現時点では日本の高齢化率29.1%(2022年)より低いものの、日本を上回るスピードで超高齢化社会(=高齢化率21%以上の社会)へと向かっており、高齢化対策はまさしく日本とタイの共通課題となっています。

「タイは高齢化のスピードがあまりに速すぎて、政府も対応が追い付いていません。介護や年金制度、高齢者の就労など問題が山積する一方、それぞれの管轄が保健省、社会開発人間安全保障省、財務省、労働省に分かれ、縦割り行政の弊害も指摘されてきました」。そう語るのは、JICAで社会保障や高齢化対策分野を担当する中村信太郎国際協力専門員です。

タイの高齢者宅を訪問する中村国際協力専門員

高齢者のニーズに合わせたケアサービスの提供を進めるJICAプロジェクトで、タイの高齢者宅を訪問する中村国際協力専門員(左端)

タイでは60歳以上を「高齢者」と定義しており現在約1,200万人いますが、このうち日本の厚生年金にあたる職域年金の受給者はわずか1割に留まり、大多数の人は年金だけでは生計を維持できません。さらにアジア開発銀行の調べでは、高齢者の約3割が身体に何らかの機能障害を抱えていると答えており、「健康を害して働けなくなるとすぐに生活に困窮し、介護費も払えず家族が離職して世話をするという負の連鎖に陥ってしまいます」と中村専門員は指摘します。

互いから学ぶ、タイの相互扶助と日本の介護制度

高齢者やその家族が安心して暮らすことができるよう、包括的な取り組みが求められる中、JICAはタイで2007年から15年間に渡り、日本の介護保険制度や、高齢者を地域で支える「地域包括ケア」の知見を生かしたさまざまな協力を進めてきました。「この取り組みを通じて、タイ政府が2016年に開始した介護施策に、日本のケアマネジメントやケアプランのコンセプト*1が導入されたのは、非常に大きな成果と言えます」(中村専門員)。

タイでは伝統的に高齢者の生活を支えるのは「家族やコミュニティ」という意識が強く、家族は介護施設を利用しづらい状況にあります。一方で、各地域には健康の見守り役となる「保健ボランティア」がおり、その数は全国で約100万人に及ぶと言われています。そこでJICAはタイの相互扶助の仕組みを活かし、ボランティアの手も借りながら地域で医療やリハビリ、生活支援まで幅広いサービスを提供できるようにしました。

  • * 1 ケアマネジメントとは、要支援および要介護者に対して適切な介護・支援サービスを組み合わせ提供するプロセスと、それを支えるシステムのこと。ケアプランとはサービスを利用する際に作成する計画書のこと

JICAプロジェクトで支援した「モバイルワンストップサービス」の様子

JICAのプロジェクトで支援した「モバイルワンストップサービス」では、保健所職員や自治体福祉担当職員などが村に出向き、コミュニティの協力も得ながら健康チェックや高齢者手当の手続きを行った

中村専門員によれば、タイでは寺院がデイサービスの場を提供していたり、保健ボランティアが高齢者の話し相手となって社会とのつながりを維持したり、日本の介護現場にとっても気づきとなることが数多くあると言います。「介護は生活を支えるものであり、生活が違えば介護のあり方も変わります。日本ではどんなサービスを誰が提供し、誰が享受できるかを、介護制度の枠の中だけで判断しがちですが、タイのようにニーズに合わせてより柔軟な対応ができる仕組みづくりも必要だと感じます」(中村専門員)。

“介護先進国”である日本の経験が、その試行錯誤も含めてタイと共有され、日本もまたタイの相互扶助の文化や柔軟性に学ぶ——。互いの学びの中からそれぞれに合った新たな介護の形が作られることが期待されます。

持続可能な資源利用に向け、マレーシアで農業バイオマスの活用へ

環境分野では、マレーシアと日本がパーム油を生むオイルパーム(アブラヤシ)の資源利用に挑んでいます。パーム油とは、洗剤やマーガリン、菓子類などの食品などに使われる油のこと。マレーシアの基幹産業の一つで、世界のパーム油の約3割が同国で生産されています。

しかし、オイルパームは果房(房上の果実部)の生産性が低下するのに伴い、約25年ごとに伐採しなければなりません。伐採された古木の多くは運搬にかかる経済的負担などの理由からプランテーション内にそのまま放置されており、それが病原虫菌の感染を引き起こして再植林を難しくしたり、病害防除のための農薬散布が人的被害や土壌汚染の原因になっています。

伐採後、放置されたままのオイルパーム

伐採後、放置されたままのオイルパーム(写真提供:国際農林水産業研究センター) 

そこで現在、日本の国際農林水産業研究センター(JIRCAS)や民間企業、マレーシア理科大学や政府機関らが参画し、オイルパーム農園の持続的土地利用と再生を目的に、オイルパーム古木から高付加価値を生み出すための産官学民プロジェクトが進んでいます。古木の放置による影響を科学的、経済的に評価するとともに、古木を活用したバイオガスや生分解性素材などさまざまな製品を生み出す技術が開発されています。

プロジェクトリーダーを務めるJIRCASの小杉昭彦専門家は、「再生可能エネルギーとして、バイオマスの利活用は重要とされており、中でもパームバイオマス資源は樹幹以外にも枝葉や空果房、中果皮繊維などさまざま種類があり、その量は膨大で、非常に魅力的な再生可能な資源と位置付けられている」と言います。

「地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)」プロジェクトの集合写真

同プロジェクトは、JICAと科学技術振興機構(JST)が連携して、開発途上国と共同で科学技術研究を進めるプログラム「地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)」の一環として2018年に開始(中央が小杉昭彦専門家)

パームバイオマスの利活用においては、資源の安定供給が大きな課題となってきましたが、本プロジェクトでは異なるパームバイオマス資源を同一のプロセスで処理できる技術の開発に成功。それにより、例えば雨季など農園から樹幹の運び出しが難しい場合でも、樹幹以外の他の資源を代替することで安定的な調達が可能となりました。「日本国内でのバイオマス原料調達の問題解決への参考になると同時に、多様な農産国で構成されるASEAN諸国のバイオマス利用技術へのロールモデルにもなる」(小杉専門家)との期待も高まっています。

共通課題の解決に欠かせない官民連携

ASEANと日本が共通課題の解決で協力していくには、民間企業や大学、研究機関など幅広いパートナーの存在が欠かせません。早くから工業化が進んだASEAN主要国ではとりわけ官民連携が進んでおり、前述のタイの高齢化対策やマレーシアでの持続可能な資源利用においても、さまざまなプロジェクトが進んでいます。JICAは今後も多様なパートナーシップを通じて、ASEAN各国とともに社会課題の解決に努めていきます。

健康寿命を伸ばす「自立体力プログラム」(羽立工業株式会社)

高齢化対策においては、介護だけに頼らず、高齢者の健康寿命を延ばす取り組みも必要です。タイではスポーツ用品やレクリエーション用品の製造販売を手掛ける羽立工業株式会社(静岡県)が、静岡大学と共同で介護予防のための「自立体力プログラム」を開発。自立体力の評価・分析と改善のための自立体力テストと自立体力トレーニングメニュー、これらを管理指導するトレーナー育成を提供するこのプログラムは、タイ東北部で高齢者の健康増進の取り組みに導入されています。

「自立体力トレーニング」を実践するタイの高齢者

「自立体力トレーニング」で楽しみながら健康づくりに励むタイの高齢者たち

体力測定の様子

「自立体力テスト」の様子(写真提供:羽立工業)

オイルパーム古木から再生木質ボードへ(パナソニック株式会社)

SATREPSプロジェクトにおいては、日本の民間企業の参画も大きな力になっています。パナソニックは世界で初めて、オイルパームの古木から再生木質ボードをつくり、家具や建材へと活用できる技術を開発しました。同プロジェクトの試算では、廃材1本から放出される温室効果ガスは約1.3トンにのぼるとされ、廃材の腐敗より発生するメタンガスを抑止する効果が非常に大きいことがわかっています。従来の森林資源の代替としてオイルパームの古木を積極的に利用することで、森林保全や地球温暖化防止にもつながると期待されます。

独自技術でオイルパームの廃材から生産した中間材

独自技術でオイルパームの廃材から生産した中間材

中間材を用いて製造された木質再生ボード

中間材を用いて製造された木質再生ボード(写真提供:パナソニック)

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