より良い湖沼環境への提言 -チベロ湖-(アクションプラン作成と進捗報告)

【画像】所属:ジンバブエ大学 生物科学部 講師、水生生態学者
名前:Mr. Lightone Takawiri Marufu(ライトン タカウィリ マルフ)
研修コース名: 「水資源の持続可能な利用と保全のための統合的湖沼・河川・沿岸流域管理」    
研修期間:2015年9月11日から2015年11月6日まで

ジンバブエ帰国研修員のライトンさんは2019年12月にケニアのキスムで実施した課題別研修コース「水資源の持続可能な利用と保全のための統合的湖沼・河川・沿岸流域管理」(JICAおよび公益財団法人 国際湖沼環境委員会が協働で実施)のフォローアッププログラム*に参加し、ライトンさんのアクションプランの進捗状況について報告しました。統合的湖沼流域管理(ILBM)*概念を大学の学部・修士・博士課程のカリキュラムに取り入れ、出来ることから着実に活動を進め現在もまだアクションプラン継続中との報告に感銘を受けました。
ライトンさんのアクションプラン作成時のポイントと現在の取り組みについての報告を紹介します。

*フォローアッププログラム:課題別研修に参加した研修員国を訪問し、帰国後の彼らの活動状況報告から研修効果を確認するとともにその分野の新しい知見の共有を行います。
*統合的湖沼流域管理(ILBM):湖沼と流域管理を任された組織や利害関係者が、湖沼がもつ静水システムの特徴を踏まえた上で、その資源の持続可能な利用と保全の実現に必要な概念を示しています。
世界の湖沼環境の改善は、長期にわたる強力な政治的コミットメントの下、次の6つの要素について統合的に取り組むことで初めて可能となります。①組織・体制 ②政策 ③参加 ④技術 ⑤情報 ⑥財政

寄稿に寄せて 

私はジンバブエ大学の生物科学部で講師をしている水生生態学者です。
統合的湖沼流域管理*(Integrated Lake Basin Management:ILBM)の概念に初めて興味を持ったのは(公財)国際湖沼環境委員会*(International Lake Environment Foundation Committee:ILEC)のメンバーが当大学を訪問した時でした。その際JICAプログラム(KCCP)「水資源の持続可能な利用と保全のための統合的湖沼・河川・沿岸流域管理」(以後、プログラム)について知ることとなり、後に応募、2015年に2ヶ月のプログラムに参加する機会を得ました。プログラムはとても有益で生物科学部が湖沼環境問題、特にチベロ湖に関して具体的な改善提言をできるようなりました。プログラム参加の成果としてチベロ湖の環境改善に向けたアクションプランを作成しました。この寄稿内容が将来このプログラムに参加する研修員のアクションプラン作成の一助となれば幸いです。また、2019年12月にケニアのキスムで実施されたJICA/ILECフォローアッププログラムにも参加し帰国後の自身のアクションプランの進捗、課題や教訓を報告しました。

アクションプランの段階的作成

日本での2ヶ月間のプログラムは統合的湖沼流域管理(ILBM)に関する講義・見学・実習で構成されていました。プログラム内容は目を見張るもので、内容のいくつかは自分の職務範囲で実施可能であり、また所属学部や大学の3つの役割を通じて実践可能だと思いました。私がプログラムに参加した2015年当時、ジンバブエ大学には3つの役割がありました。すなわち教育、研究と社会奉仕です(現在はイノベーションと産業化の2つが追加され5つの役割があります)。最初の課題は統合的湖沼流域管理(ILBM)の概念を既存の大学の3つの役割にどのように組み入れればより良い湖沼環境管理手法の実践に繋げることができるかということでした。具体的にはプログラムで習得したどの知見を所属学部として大学の教育、研究や社会事業に活かしてくのかを考えることでした。

アクションプラン1 : 水生生物学研究室の施設整備

ジンバブエ大学 生物科学部
水生生物学研究室前にて(筆者)

日本で琵琶湖博物館を訪問した際、整備の整った研究室の重要性が強調されていました。生物科学部は水生生物学研究室を持っており、水質モニタリング、管理、研修や研究に携わっていることからアクションプランで最初に取り組む項目は水生生物学研究室の施設整備と決めました。そして水生生態学研究チームを発足させメンバーは研究に従事しつつ研究室内の整備を進めました。測深機、冷蔵庫、酸素濃度計や化学薬品は様々なグループのチームメンバーや他の関係者ステークホルダーの支援により入手することができました。 研究室の整備活動は現在も継続中です。研究室は統合的湖沼流域管理(ILBM)に関するコースを実施する際の教育の場、デモンストレーションの場として活用しています。

アクションプラン2 : 統合的流域管理(ILBM) 研修

生物科学部で教育と社会奉仕は主業務でしたのでアクションプランの2点目は統合的湖沼流域管理(ILBM)概念を教育と既存の研修プラットフォームを通じて普及させることにしました。主要な関係組織であるハラレ市、空軍、環境管理機構向けの短期研修コースを計画しました。生物科学部の理学士取得に提供している湿地生態学、水生生態学、微生物学、環境アセスメントと加えて3つの修士コースの熱帯生態学、熱帯漁業・水生生物学に統合的湖沼流域管理(ILBM)概念を導入しました。また、新規修士課程として承認された応用水科学&生態系管理コースでは統合的湖沼流域管理(ILBM)を履修内容の中心の一つとしています。教材は日本から持ち帰った資料を活用しています。

アクションプラン3 : 統合的流域管理(ILBM)概念普及・推進への大学の参画

国営テレビ放送インタビューでチベロ湖の汚染問題のより良い解決に統合的湖沼流域管理(ILBM)概念の導入を解説(筆者)。

大学の役割として研究、人々の意識向上やモニタリング活動は可能な活動内容です。生物科学部は統合的湖沼流域管理(ILBM)プラットフォームの設立、運営にこぎつけ流域管理において他のステークホルダーと研究、協力連携をするようになりました。私は国営テレビで統合的湖沼流域管理(ILBM)概念の普及啓発インタビューを実施し、ジンバブエの湖沼環境問題を解決するために有用な概念であることを解説しました。

アクションプラン 4 : 研究

湖沼流域管理には有用な研究やモニタリングの実践がとても重要です。この点を教訓として水生システムの改善に資する研究の考案や着想に励みました。現在チベロ湖とカリバ湖の研究に従事しているのは4人の博士(自身を含む)、3人の修士と6名の学部生です。研究テーマは湿地、侵入生物種、水質モニタリングやGISと全て日本で学んだ内容です。生物科学部では統合的湖沼流域管理(ILBM)概念に関連した内容の学術論文を10本以上発表しています。

アクションプラン 5 : セミナー、ワークショップの実施

2016年ザンビア、Sinazonkeでのフィールドワークショップにて侵入生物種の影響を説明(筆者)

情報普及とステークホルダー参加の重要性に着眼しました。
大学の利点を活かし情報の発信やコミュニティサービスを実施しました。生物科学部はハラレ市民、ハラレ市議会や地元教会のステークホルダーに対し統合的湖沼流域管理(ILBM)に関するセミナーを開催しその概念を伝えました。また、私が2016年にザンビアで開催されたワークショップに参加した際にも日本で学んだ知見を現地で共有しました。

アクションプラン 6 : 能力強化

2019年JICA/ILECフォローアッププログラム中、ケニアのビクトリア湖を見学(筆者)

能力強化の必要性を強調します。生物科学部所属の他のチームメンバーに統合的湖沼流域管理(ILBM)に関する知識について能力強化を行っています。方法は主に資料(印刷物及びデータ)とプログラムで習得した知見の共有を通じて実践しています。共有資料は博士課程での研究や教材開発に利用されています。能力開発は現在も継続中です。その好事例は2019年12月にケニアで実施されたJICA/ILECのフォローアッププログラムに参加したことです。ケニア、ウガンダの帰国研修員のアクションプランを含む帰国後の活動発表から得た学びはとても有益でした。能力開発は進行中のプロセスで湖沼流域管理に携わる全てのステークホルダーにとって重要です。

アクションプラン 7 : 資金調達

より良い湖沼環境管理には資金調達が重要な側面です。もちろん、私のアクションプラン実践にも資金が必要でした。幸運にも統合的湖沼流域管理(ILBM)に関する研究、機材購入、意識向上キャンペーンに地域の投資者らからUS30,000ドルを集めることに成功しました。主な出資者はジンバブエ研究委員会、ジンバブエ大学データ収集基金と学部メンバー個人によるものです。これは積極的に統合的湖沼流域管理(ILBM)の概念を推進する中で潜在的出資者を得ていたことになります。
大きな資金を必要としない活動、例えば学部生が統合的湖沼流域管理(ILBM)に関する研究をする場合等は個人資金や既存設備を活用しました。

最後に

日本でのプログラムは有益で実用的でした。
アクションプラン作成の過程で所属組織が大きく貢献できる分野を特定すると良いでしょう。アクションプランの実践においてはその時点で調整が必要な事があるかもしれません。しかし湖沼環境改善を促進するという全体的な目標を見失ってはいけません。また、アクションプラン実践後一定の期間が過ぎたら進捗評価をして下さい。 日本でのプログラム及びケニアフォローアッププログラムに参加する機会を得たことをJICAに感謝します。