「ケレケレ!」シェアハウスで叶える想い

【画像】城戸 和美(きど かずみ)
JICA海外協力隊2015年度2次隊 
派遣国:フィジー 
職種:環境教育

【画像】林 一平(はやし いっぺい)
JICA海外協力隊2014年度3次隊 
派遣国:フィジー  
職種:小学校教育

協力隊で出会った二人が始めた「住みびらき」のシェアハウス「ケレケレ」。
お二人の協力隊経験が今の仕事にどのようにつながっているのか、JICA関西市民参加協力課でインターンをしている吉田がお伺いしてきました。

みんなで作る「やりたいことが叶う」場所

みんなが自由にくつろぐスペース。ここからは、庭と畑、神戸の自然を見ることができる。

賑やかな三宮からバスで20分程ほど移動すると、一平さん、和美さん、娘の春帆(はるほ)ちゃん家族が暮らす古民家「住みびらきのお家 ケレケレ」に到着します。自然が豊かで落ち着いた雰囲気の中、まず目に飛び込んできたのは、大きな庭と目の前の畑。庭の大きな木には手作りのブランコがかかっていて、作りかけの木の制作物もいくつかありました。
 「住みびらき」とは、「住まいの一部を地域に開放すること」という意味です。住まいの縁側や庭等のスペースを、地域の方が自由に使えるように開放しています。例えば、大きな部屋はアトリエや絵画教室として使われ、離れでリモートワークをする人、畑で有機農業をする人もいます。また、ケレケレではシェアハウスも行っています。いろんなところから集まった住民は、自分の好きな時間を過ごしながら、時にはやりたいことや食事を共にして共同生活を楽しんでいます。そして、このシェアハウスはまだ完全に完成しているわけではなく、みんなで作り上げていくというのが大きな特徴です。元の古民家をリノベーションしていて、みんなで壁や床を貼ってビーズ等でデザインをしています。

フィジーが教えてくれた素敵な言葉「ケレケレ」

住みびらきを始めたきっかけは、娘さんの誕生にあります。当時、神戸の中心地に住んでいたお二人は、便利である一方で人との関わりが希薄な生活に窮屈さを感じていました。子育てで困ったことがあっても、頼れるのは両親のみで自分たちだけで生きているような感覚がありました。そんな生活を送っている中で、ふと思い出したのがフィジーの言葉「ケレケレ」。ケレケレとは、フィジーの言葉で「共有」という意味を指します。フィジーでは家に近所の人や子どもが来て、みんな一緒に子育てをするような感覚があります。また、ケレケレには「お願い、please」の意味もあり、困ったときに使います。
お二人とも協力隊でほぼ同時期にフィジーに派遣されていて、一平さんは小学校教員、和美さんは環境教育の活動をされていました。フィジーで、一平さんが特に印象に残っていることは、サイクロンが直撃したエピソードです。史上2番目に大きなサイクロンが直撃した時、学校の屋根が飛ばされました。普通は、そんな時悲しみに明け暮れたり、今日からの生活をどうするか悩んだりしますが、フィジーの人たちは、その日から笑っていました。「無くなった物はまたみんなで作ればいいし、生きていただけでラッキー。ないものは、またある人にケレケレって言えば大丈夫だ」と言われました。その話を聞いて一平さんは、フィジーの人の逞しさやフィジーのコミュニティの在り方に魅力を感じました。みんなで時間やものを共有し、自然と助け合える環境を日本にも作れば、子育ても楽しくなるのではないかと思い、現在の住みびらきの活動を始めました。

「ケレケレ」から広がるやりたいこと

量り売りの商品。それぞれの商品には生産場所が書かれている。

 ケレケレでの事業の一つに「量り売り」があります。油や酒かす、お米、はちみつ等様々なものが量り売りで売られています。この活動は、地球にも人にもやさしい食材に接してほしいという想いの元で行われています。和美さんは、リサイクル業やコンポストのお仕事に関わっていた時、リサイクルされたものも結局捨てられること、リサイクルの過程そのものにかかる環境負荷があることを知って、リサイクルに限界を感じ、「ごみを出さないこと」が大事だと気付き、そのことを伝える活動がしたいと思いました。量り売りなら必要な量だけを買うため、包装などのごみが出ません。また、和美さんが売っている商品はどれもがスーパーで買うことができないもので、地球にやさしいこだわったものを扱っています。例えば、はちみつは大量生産ができない日本ミツバチから取れたはちみつを取り扱っていて、一品一品が生産者の方によって丁寧に作られたものです。ケレケレでは、量り売りを行っているだけでなく、貴重な商品を作った生産者の方の想いやストーリーを含めて買ってくれる人に届けています。
 共同生活を行っている人やケレケレの利用者、商品を購入している人や地域の人に対して、お二人のそれぞれの活動や想いがシェアされていることがよく分かりました。

今の仕事への想い

縁側に座るご夫妻。
左から一平さん、和美さん

「ケレケレに来てくれる人が自分たちの活動に対して興味関心を持って聞いてくれて、次の行動が変わるきっかけになること」和美さんはお仕事のやりがいを聞いたときにこう答えてくれました。例えば、知らない人に、はちみつの話や環境のことを伝えたことで、その人が次スーパーに行ったときに少しでもはちみつを見る目が変わるかもしれません。実際に、ケレケレを訪れた人たちが、「ケレケレに来たことで価値観が変わった」、「普段とは違う行動をする一歩が踏み出せた」という言葉をかけてくれたそうです。また一平さんも、「最近『ケレケレのゆるさがいい』と言ってくれる人がいた。ここでは『完璧じゃなくてもいい』というのを感じ取ってもらい、その人がゆるくいられる空間を提供したい」と話してくれました。
今後の目標は、もっと子育て世代がいろんなイベントに参加したり、日々の疲れを癒せたりできるように、今の場所を少しずつ拡大してみんなで子育てをする場所を作ることだそうです。「ケレケレ」という場所を通してお二人が伝えていきたい「1人で完璧にしなくてもいい、助け合えばいいんだ」ということを、みんなで子育てする空間を共有することでいろんな人に感じてほしいと思っています、とインタビューを締めくくってくれました。


今回のインタビューで、お二人がフィジーの文化や人との関わりの中でケレケレという助け合いの考えと環境に関する気づきをそれぞれ学び取り、その中でやりたいことを見つけ、お互いの活動を同じ空間で行っていることが印象的でした。
 ケレケレという空間は、自分たちのやりたいことをすることでお二人らしくいられる場所であり、その空間をみんなにシェアすることで訪れた人もその人らしくいられる場所になっているのではないか、と思います。癒されたい、何か挑戦するきっかけが欲しいと思った方は、是非ケレケレを訪れてみてはいかかでしょうか。