エチオピア、リフトバレー湖流域の環境、水質改善に貢献するレラさんの活躍

【画像】所属:エチオピア流域開発庁 リフトバレー湖流域開発事務所 
環境・水質モニタリング専門官
名前:Mr. Zainabu Abrham Lera (ジナブ アブラハム レラ)
研修コース名: 水資源の持続可能な利用と保全のための統合的湖沼・河川・沿岸流域管理
研修期間:2018年10月22日から12月22日まで

アクションプランを帰国後の業務に活かす

アワッサ湖畔にて(筆者)

エチオピア帰国研修員のZainabu Abrham Leraです。エチオピア流域開発庁,リフトバレー湖流域開発事務所で勤務しています。(Ethiopia Basin Development Authority, Rift Valley Lakes Basin Development Office)
2018年に2ヶ月間の課題別研修「水資源の持続可能な利用と保全のための統合的湖沼・河川・沿岸流域管理」に参加し、統合的湖沼流域管理(ILBM: Integrated Lake Basin Management)概念*(以降、本文中はILBMと記載) について学びました。 研修はとても有益で、所属組織が管轄する7つのリフトバレー湖(ジウェイ湖、アビアタ湖、ランガノ湖、シャラ湖、アワッサ湖、アバヤ湖、チャモ湖)の環境問題に対して積極的に改善策を発信できるようになりました。また、帰国後、首都のアジスアベバでエチオピア帰国研修員同窓会に参加し、JICA研修後の業務進捗、課題や教訓について発表する機会に恵まれたことを嬉しく思いました。研修プログラムが湖沼環境の改善を業務とする私と所属組織にいかに有用であったかをご報告します。

アワッサ湖は観光と漁業が盛んです(筆者)

*統合的湖沼流域管理(ILBM)とは:湖沼と流域管理を任された組織や利害関係者が、湖沼がもつ静水システムの特徴を踏まえた上で、その資源の持続可能な利用と保全の実現に必要な概念を示しています。世界の湖沼環境の改善は、長期にわたる強力な政治的コミットメントの下、次の6つの要素について統合的に取り組むことで初めて可能となります。①組織・体制 ②政策 ③参加 ④技術 ⑤情報 ⑥財政

継続的なアクションプラン作成

ILBMに関する講義、見学、実習内容の一部は所属組織が管轄する流域に応用でき、かつ改善に役立つ内容でした。私が本研修に参加していた当時、リフトバレー湖流域管理事務所は次の3つの目標を掲げていました。それらは、①湖の流域計画、②研究と③データ管理サービスです。そこでまず、既存の3つの目標にJICA研修で習得した新しい知識、内容をどのように反映させていくべきかを検討しました。

リアルタイム水質モニタリングプログラム(アクションプラン1)

アワッサ湖流域の水質観測所の空間分布図(現在進行中のアクションプラン)

研修中、滋賀県立琵琶湖博物館や京都大学流域圏総合環境質研究センターへの見学で設備の整った研究室、水質管理プログラムを持つことの重要性を学びました。
私が研修に参加する前、エチオピア流域開発庁の水資源管理部(Water Resource Management Department)の初期評価でリフトバレー湖流域の工業廃水、生活排水の水質データが存在しないことが指摘されていたので、水資源汚染状況モニタリングを目的とした観測地点が何ヵ所か設置されました。

リフトバレー湖流域事務所、水質モニタリングチーム(筆者:一番右)

しかし、これらの観測地点は主要河川を対象としており多くの対象外河川、支流、水源(貯水池)については、基準値、流量、傾向といった特性は考慮されていませんでした。すなわち、水質レベルの分類に重要なリアルタイムデータによる評価ができておらずリフトバレー湖の水資源については科学的データ分析が不足していました。

(上)ジウェイ湖流入河川での季節ごとの水質モニタリング調査(下)工業廃水モニタリング調査

そこで、リアルタイム水質モニタリングプログラムを再構築、再開すること、「データ」と「情報」を最初のアクションプラン内容としました。2018年、私達は水質評価、水質観測所の設計、リアルタイム水質データモニタリングに向け水質モニタリングチームを立ち上げました。リアルタイム水質データモニタリングプログラムについてはまだ実施には至ってないのですが、プログラムは政策立案・決定者、研究者も活用できます。ILBM概念に関する研修コースを実施する際にはリアルタイムデータ管理手法を実演する予定です。

長期戦略的湖沼流域計画の策定(アクションプラン2)

研究と水質モニタリングが湖沼流域管理には重要であることから、水資源と湖の環境改善に向けた長期戦略的湖沼流域計画を策定しました。 計画期間は15年間とし、水資源管理、水質管理、統合的流域管理、ステークホルダーとの積極的関与、気候変動と侵入生物種を計画内容に含めました。 全て研修で学んだ内容です。「参加」と「情報サービス」は既に所属組織の役割の一部分であったことから、主なステークホルダーである産業界、様々な水利用者、水利用セクター、自治体に対して意識改革と研修を実施しました。 JICA研修で得た教材はILBMプラットフォームを構築するために使用しています。
所属組織では4つの支流域を合体した流域全体計画書を作成しました。この計画書の根底にあるのは統合的湖沼流域管理(ILBM)と既存の統合的水資源管理(IWRM)双方の構成要素を含んだ包括的な資料を提供することでした。後に、産学連携下の研究活動等により改善が加えられました。

関係者と管轄流域のステークホルダーの能力開発 (アクションプラン3)

研修で能力開発の必要性が説かれたことから所属組織のより多くのチームメンバーがILBMコンセプトの知識を得られるよう持ち返った研修教材(印刷物やデータ類)や知見を共有しました。 共有した教材は同僚達の修士・博士号取得の研究資料や能力開発に利用されています。能力開発については現在も進行中の活動であり、湖沼流域管理に係る全てのステークホルダーにとって重要と考えます。

終わりに

国際湖沼環境委員会(ILEC)により実施された「水資源の持続可能な利用と保全のための統合的湖沼・河川・沿岸流域管理」コースは有益でたいへん実用的でした。アクションプランを作成する際、まず所属組織が最も貢献できる業務が何であるかを明確にし、アクションプランの実践では湖沼環境を改善するという全体目標を見失なわないよう心がけつつ、各現場で調整を行いました。また、定期的にアクションプランの進捗を評価するようにしています。
本研修に参加し、帰国後のアクションプラン進捗報告の機会を得たことをJICAに感謝します。