よりリアルな実習を!京都から南米の医療従事者教育に貢献-株式会社京都科学(京都府)

2022年11月4日

髙山社長

医療の現場では、わずかな知識や技術の不足が大事故につながる可能性があります。経験を積むために、教育現場の実習では「リアル」が求められます。しかし、人体で注射や手術の練習することはできません。そこで役に立つのが、株式会社京都科学の実習用の教材。特に人体の質感や構造を再現した高精度の製品(医療用シミュレータ)は、医療スキルの向上に貢献しています。

同社は、JICAの中小企業海外展開支援制度を活用して、南米の医療教育の向上に取り組んでいます。今回はJICA関西のインターン生が髙山俊之社長に、海外進出のきっかけ、JICAとの出会い、途上国でのビジネスへの想いをお伺いしました。
以下は、髙山社長からのお話です。

京都科学ってどんな会社?

株式会社京都科学は京都に本社を置く、医学・看護教育教材の開発、製造、販売を行う企業です。弊社は1948年に島津製作所標本部を継承する形で設立され、当初は模型や標本、実験器具などを製造・販売、文化財を複製するレプリカ製作事業を実施していました。
これまで弊社が開発してきた100種類以上ある製品の中で、販売規模が大きいのは精巧な人体模型にも見える医療用シミュレータと、「ファントム(※医療教育で使われる超音波診断や放射線に特化したシミュレータ)」という製品です。医療用シミュレータでは様々な状況に対応した診断や手術の訓練が行え、乳がんの検診や壊死してしまった組織を取り除く手術など、用途に応じた製品があります。一方でファントムは画像診断用、つまり超音波や放射線検査訓練に特化しており、放射線を人体に照射して治療が必要かもしれない部位を確認するX線検査や、超音波検査によって患者を検査する練習も、本番同様に実施できます。医療用シミュレータやファントムはとても人間に近い構造・触感になっているので、実際の手術の状況を再現し、訓練を評価する機能など医者や看護師が実践に近い訓練を行うことができます。

海外展開のきっかけは? なぜエクアドル?

医療教育用シミュレータを使用している様子

弊社は日本の医療教育においてシェアを獲得しているものの、少子化も背景にあり、国内での医療教育分野における事業は難しいと考え、事業の海外展開を視野に入れました。まずは北米へ飛び、ロサンゼルスにて子会社を設立。その後、香港やヨーロッパを経て、シミュレーション教育の市場拡大が予想されている南米に辿り着きました。
南米の中でもエクアドルに着目した理由として、エクアドルと日本が2018年で外交関係樹立100年という節目だったこと、また、同国は2008年に新憲法が制定されたことにより、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC:すべての人が、支払い可能な費用で、必要な医療をいつでも受けられること)が国家開発計画の柱として位置付けられたことを受け、同国は医療体制を整える取り組みを進めていたからです。

しかし、エクアドルでは医療機材などは充実しつつありますが、医者や看護師などの医療従事者の育成・教育の環境についてはあまり整っていません。例えば、日本の教育現場で使われている医療教育用シミュレータは精巧でより実践向けに作られていますが、エクアドルでは学校で手作りしているため、本物とはかけ離れた練習をせざるを得ませんでした。以上の理由から南米全体におけるビジネス発展の可能性や、医療従事者への教育向上が求められている現場に目を向け、エクアドルへの海外展開を進めました。

JICAとの出会いは偶然だった!

JICAのエクアドル事務所を訪れた際に、JICAが中小企業の海外展開を支援していることを聞きました。日本に帰国後、大阪にあるJICAコラボデスク(※)にて相談をし、様々なご意見をいただき、海外展開の準備およびJICA事業への応募を進めました。応募までの時間があまりない中の準備でしたが、JICAコラボデスクの方やJICA職員の方々のサポートで応募になんとか間に合わせることができ、幸いにもJICA事業として採択していただきました。これが企業としてJICAとの初めての連携になりました。
(※)JICAコラボデスク:グランフロント大阪にある、関西に拠点を置く企業の皆様の海外展開を支援する相談窓口です。

途上国ビジネスで大事なこと

取材の様子。私たちの素朴な質問にも丁寧に答えてくださいました。

途上国でのビジネスにおいて大事なことは、やはり現地に行くことです。現地に行くことで、何を必要としているのか、しっかり把握することができます。実際に、弊社では海外に4つの事務所を構えています。現地に根付いたビジネスを展開していくことが重要だと考えています。また、安全性を考えることも大切です。政治の不安定による過激なデモや、治安があまり良くない地域もあります。様々な面で入念に準備をしておくことが必要です。例えば、移動手段では、信用できる人に紹介された、現地の運転手を雇っています。人材確保に関しては、履歴書などの紙面だけでは分からないことも多くあります。そのため、知り合いから信頼できる人材を獲得、性格などの内面を重視するようにしています。

エクアドルから南米へ!

南米にはエクアドルのように、まだまだ医療教育が発達していない地域も多くあります。今後は、ペルーやコロンビアなど南米での事業展開を拡大させていきたいと考えています。その為に来年中には、南米に事務所を設立させたいです。また、新しく展開していきたい分野もあります。様々な面から医療に貢献していきたいですね。

編集後記

右から京都科学セサル主任、国立エクアドル中央大学の先生方(お二人)、髙山社長、JICA関西企業連携課インターン高畑・児玉

取材日には、京都科学の製品を授業で使っている国立エクアドル中央大学の先生方が工場見学に来ていました。京都科学の製品についてお伺いすると、「とても繊細で精密。京都科学の製品を使うようになってから、医療現場により近い環境の実習を行うことができるようになった。」と仰っていました。現地でも京都科学の高度で繊細な技術が評価され、必要とされていることを実感しました。

また、社長自らが工場を丁寧に案内してくださり、製品一つ一つを実際に動かしながら説明してくださりました。その姿勢から医療教育への熱い想いが伝わってきました。髙山社長の熱い想いとお人柄に感銘を受けたインタビューでした。

JICAでは、企業の皆様の海外展開を支援しています。
ご関心をお持ちの方は、どうぞお気軽にご相談ください。
(企業連携課 インターン 児玉郁美、高畑昌暉)