JICA沖縄【大学生×草の根】シリーズ第5弾 -名桜大学生が「東ティモールのラジオ局による教育放送の実現に向けたイニシアチブ事業」を取材-

2019年12月4日

【大学生×草の根】シリーズ(沖縄県内の大学生に、草の根技術協力事業の現場で活躍する方をインタビューする企画)。今回は、「東ティモールのラジオ局による教育放送の実現に向けたイニシアチブ事業」のプロジェクトオフィサーである樋口 洋平さんに、名桜大学の学生がインタビューしました。
インタビュアーは、今回も名桜大学の国際ボランティア研究会のメンバーが行いました。

プロジェクト概要

本事業は沖縄平和協力センターが実施団体となり、2019年9月から支援型の草の根技術協力事業として実施されています。過去の草の根事業にて設立したコミュニティラジオを通して教育放送を行うことで、現地のカウンターパートであるメディア開発センターの人材育成を行うとともに教育放送のコンテンツを作成し、メディア×教育の機会を提供していく計画です。

人物紹介

【画像】

写真左側より 名桜大学国際学群1年 山田蛍花さん、名桜大学国際学群3年国際文化専攻 堀之内裕一さん、樋口 洋平さん(沖縄平和協力センター)、名桜大学国際学群1年飛田ほのかさん、名桜大学国際学群1年 鎌田実里さん

【取材対象者】
  • 沖縄平和協力センター 樋口 洋平 さん
【インタビュアー】
  • 名桜大学国際学群3年 国際文化専攻 堀之内 裕一 さん
  • 名桜大学国際学群1年 鎌田 実里 さん
  • 名桜大学国際学群1年 山田 蛍花 さん
  • 名桜大学国際学群1年 飛田 ほのか さん

インタビュー

インタビュアー
このプロジェクトの目的と目標を教えてください。
樋口
今のプロジェクトは、紛争予防というよりは教育のプロジェクト。東ティモールという国は過去に戦争があったせいで教育インフラが破壊されている。先生たちも数がいなくて、教育課程の教授法も発展してない。山が多いので、学校に行くのに2時間ぐらいかかる子供たちがいる。そうすると、雨が降ったり農家の収穫の時期になったりすると学校に行かなくなる。それをどうにかできないかと思い今回のプロジェクトを始めました。教育の普及の一つとして、ラジオで普及させるというのは一つの方法かなと思ったんです。このプロジェクトで、東ティモール国内でラジオの教育放送ができるようになるというのが目標ですね。
インタビュアー
最終的には、ラジオを通して人々に教育を普及する、ということでしょうか?
樋口
そうですね、今のプロジェクトの目標はそこですね。実現できるかどうかはわかりませんが、将来のプランとしては、放送大学のような形で、聞きながら学ぶことで何らかの単位が取れるような形にすることを考えていますが、現在のプロジェクトの中で行うことは3つあって、1つ目は、2本のラジオの教育番組を作れたらと考えています。2つ目は、自分たちで番組を作ることができるようになること。例えばね、英語の「PLAY」っていう動詞をどのように活用させていくのか、テレビなどの映像があれば視覚的に訴えていけるところを、ラジオでどのようにわかりやすく伝えるのか、とか、教科書の内容を単元ごとに区切って、それを限られた時間の中で聴覚のみに情報を伝えるにはどうすればいいのか?というノウハウを伝えたいとおもっています。3つ目は、こうした取り組みを通した人材育成ですね。
インタビュアー
なるほど。でも教育インフラがない状態で、教育の普及が難しいですよね?現地で活動されて普及の難しさって実感されますか?
樋口
はい、実感していますね。日本では、学校での教育プラスアルファの部分をラジオで聞いているけれども、東ティモールではプラスアルファの部分ではなく、基礎的なところをやりたいと思っている。だから、普通の教育課程、カリキュラムに合わせてどう作っていくか、また、教育×メディアという概念がまだない東ティモールで、ラジオ放送を教育の流れに位置づけていくことができるかが難しいと感じます。
【画像】
インタビュアー
現地に適応した番組を作っていくということもとても難しそうですね…ラジオは現地の子どもたちも聞く習慣があるのか?
樋口
最近はテレビも普及してきているけど、テレビの視聴は40%に対して、ラジオは70%ぐらいあるんですよ。学校をドロップアウトした子供たちも携帯でラジオを聞いていたりするんです。日本とは違ってラジオで情報を得るということが多いようです。
インタビュアー
現時点であったトラブルとか、問題とか困ったことなどありました?
樋口
まだ始まって3か月で、プロジェクトに関わるような大きな問題っていうのはまだないんだけど、現地の人たちは時間におおらかなんで、プロジェクトのスケジュールがずれてしまうんじゃないかと心配にはなります。パートナーの組織にとっても、教育番組を制作することは恐らく初めてなので、1本目の番組作りにはかなり時間がかかるんではないかと思っています。
インタビュアー
このプロジェクトに反対する人たちっていましたか?
樋口
いなかったですね。学校教育のカリキュラムに対して支援するのであれば、外国人が国の根幹となる教育に関わるということで反対の声もあると思いますが、このプロジェクトは学校外の教育に対してのことなので、反対するっていうのはないかなと思っています。
インタビュアー
次に過去に実施された事業(2010年~2016年までに実施した東ティモールでの草の根事業についてお聞きしたいのですが、事業実施にあたって、とても大変だったなと感じることは何ですか?
樋口
僕の言葉ではないですが、ラジオ局って終わりのないマラソンのようなものなんですよ。毎日放送する番組を作っていかなければならない。それに耐えうる運営のチームを東ティモールの人たちで作らないといけない。それが大変でしたね。
インタビュアー
人にやる気を起こさせるのが難しいということですか?
樋口
そうではないんです。みんなやる気はあるんですよ。やる気がある人ばかりが集まってもチームにはならない。何をやらなければならないのかが判断できるようにならなければいけない。仕事をしたことがない人たちを体系的にまとめていくことが難しかった。
インタビュアー
いろいろ苦労されてきたのですね。やってよかったことは?
樋口
今もラジオ局が動いているという事実はうれしいですね。人が残っていることもうれしい。よく、事業が終わったら人が代わってしまっていて続かなかった、ということがありますが、人が代わってもきちんと技術が後任に伝わり、ラジオ局の運営ができているところは、ああ、ちゃんと伝わっているんだなと思いました。
インタビュアー
沖縄と東ティモール、似ているところはありますか?
樋口
東ティモールも昔ポルトガル、インドネシアに侵攻され、やっと2002年に独立したという歴史背景も、沖縄に似ていると感じます。また、食べ物も似ていますね。ゴーヤも食べるし、うちなータイムもあります。また、過去に沖縄の方を現地にお連れした際には街並みが40年前の沖縄の様子によく似ていると言われていました。
インタビュアー
最後に、国際協力に挑戦したいと思っている学生たちに一言アドバイスをいただきたいです。
樋口
英語を勉強しようということですね。言語が通じないと無力すぎる。そこにいるだけで何もできない。海外に出て働きたいんだったら、戦力にすらならない。最低限の言語能力はないと難しいなと思います。後は健康。途上国では、日本では今はないような病気になったりすることもあるので。
インタビュアー
大学生のうちにこれをしておいたほうがよいことはありますか?
樋口
英語の勉強は外せないと思う。自分が何になりたいのかをきちんと考えておくこと。そうすると自分の課題がわかる。4回生になってから焦ってしまっても選択肢がなくなってしまうこともあるので。
インタビュアー
今日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

インタビューを行った感想

山田
元々考えていたプロジェクトがあっても、現地の状況によって柔軟に変更することや、現地のスタッフ一人一人と向き合うことでスタッフのモチベーションを管理する必要があることを学びました。何をやるにしてもどんな高い技術を持っていても人と人との繋がりが何より大切であることを強く感じました。現地で実際に活躍されている方のお話を聞けて、自分の現地に対するイメージが少しずつ現実的に感じることができていると思います。お話の一つ一つに刺激され、とても貴重な経験となりました。
堀之内
インタビューでは、国際協力事業を行っている団体が何を行っているか、行う上で大切にしていることは何かを知ることができました。事業の内容を知るだけなら調べてみればすぐに分かりますが、インタビューで当事者の方に直接お伺いすることで得られる学びが多くありました。
飛田
今回のインタビューでは、過去に行われたプロジェクトと、それを元に現在行われているプロジェクトの2つについてお聞きすることができました。日本では当たり前にあるもの(インフラや学校)がない東ティモールで、ラジオを使った教育放送を行うというのは画期的な試みだと感じました。また、支援を行う際に、現地に居るカウンターパートの方々にとても細やかな配慮をされているということが分かり、国際協力においては、人と人との関わりがなにより大切であるということを改めて学びました。自分は、紛争予防活動というのにとても興味があったので、今回その具体的な内容を聞くことができて、大変嬉しく思います。貴重なお話をしていただき、ありがとうございました。
鎌田
今回は、現在実施中の事業や前回の事業を中心にお話を伺いました。2つの事業には通じて、現場の人との関係性の大切さ、現場の聞き取りの重要性を感じました。どちらも、コミュニケーション能力や真摯に向き合う心構えなどいかに人と関わり合うことが支援に大切かを伝えてくれました。沖縄平和協力センター(OPAC)さんにインタビューを行い、とても充実した時間を過ごさせていただきました。