jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

ラオス北部のルアンナムター県へのJICAの協力について~第26回美弥子所長が聞く~

2026.04.29

 2026年3月、ラオス中国鉄道でラオス側終点であるボーテン駅を含め、首都ビエンチャンから北に約600キロ離れたルアンナムター県を訪れました。今回は「美弥子所長が行く」として、ルアンナムター県におけるJICAの協力や魅力・特徴を紹介します。

【ルアンナムター県について】

 ルアンナムター県は、ラオス北西部に位置し、北を中国・雲南省、西をミャンマー(シャン州)と接する国境県で、豊かな自然環境と多様な民族文化、そして国際物流と経済発展の拠点としての役割を併せ持つ地域です。

 ルアンナムター県には中国との国境が2か所あり、1つは外国人も通ることのできる国際国境であるボーテン国境、もう1つはラオス人と中国人のみが通ることのできるムアンシン国境です。歴史的には、ムアンシン国境が中国とラオスを結ぶ重要な拠点となってきました。ムアンシンの街は国境の街として栄え、その名残として、ムアンシン中心部には地方領主の旧邸宅が残っていたり、フランス植民地時代の要塞が遺されていたりします。フランスからの独立後しばらくして、1993年にボーテン国境が正式なラオスと中国の国際国境となりました。2000年代にボーテンが経済特区となり、中国との陸上国境貿易の玄関口として整備が進められ、貿易、物流、観光、商業、不動産開発など、国内外からの投資誘致が促進されています。特に近年、ラオスと中国を結ぶラオス中国鉄道の整備により、物流・人流の拠点としての重要性が一層高まっており、地域経済と国際連結を担う戦略的ハブへと変化しつつあります。また、現在は、ラオス人とミャンマー人しか行き来できませんが、メコン川にかかるラオス・ミャンマー友好橋がロン郡にあり、今後、ミャンマーとの貿易等の拠点として発展することも期待されています。

ムアンシン中心部の地方領主の旧邸宅

ボーテン国境

 ルアンナムター県には、アカ族、ヤオ族、レンテン族のなどの少数民族が多く住んでおり、特に欧米からの旅行者には少数民族の村を訪問するトレッキングが人気となっています。例えば、レンテン族の村を訪問すると、藍染の様子や紙作りの様子を見ることができます。レンテン族の民族衣装は藍染の布で作られており、今でも民族衣装を着て生活をしています。また、レンテン族は宗教的な目的のために竹で紙を作る文化が残っています。竹からできた紙は、精霊の世界と人間の世界を繋ぐ役割を持っていると考えられおり、おまじないなどの文章はこの紙に書かれます。

布を織る前に糸を干す(レンテン族)

竹から紙を作る(レンテン族)

家の中には精霊(左上)が祀られている(レンテン族)

おまじないが書かれた本(レンテン族)

●ボーテン国境税関

 ラオス中国鉄道にて、ビエンチャン駅から約3時間でラオス側終点のボーテン駅に到着しました。ボーテン駅に到着したところ、税関長含めCPの皆さんが温かく出迎えてくれました。

パーンマライ・ルアンスワン財務省ボーテン税関長:ボーテンにようこそ!ボーテン税関は、ラオスで2番目に関税収入が多い税関です。中国とラオス間の貿易だけでなく、タイと中国との保税輸送の手続きが多いのも特徴です。特に、2021年にラオス中国鉄道が完成してからは、貨物の取り扱いが急増しています。 

小林美弥子所長:JICAは「リスク管理を通じた通関手続き能力向上プロジェクト」(2021~2024) 「メコン川地域連携強化のための税関効率性強化プロジェクト」(2024~2028)等、ラオス財務省関税局と技術協力プロジェクトを実施してきました。ボーテン税関の業務に活用している点を教えてください。

パーンマライ税関長:JICAによる協力で開発したSelectivity Criteria System (SCS)は日々の業務で活用しています。SCSに、輸出入に係る運送業者や製品等の情報を登録することで、輸出入時におけるリスクを管理することができます。 
 また、現在実施中のプロジェクトを通じて、 AEO( Authorized Economic Operator) 制度に関する研修等を行っていただいています。 AEO制度は、セキュリティ管理と法令遵守の体制が整備された事業者を税関が認定することで、その事業者の通関手続の簡素化ができるものです。税関職員の業務の迅速化・効率化ができるだけでなく、通関に関わる企業の負担も減らすことができるようになります。この制度により企業が法律に則った手続きをすることの動機づけにもなると考えています。 

美弥子所長:技術協力の一環でラオス税関とともに開発したSCSが、ここルアンナムターでも実際に通関業務に役に立っているとお聞きし、大変うれしいです。 また、AEOに関する研修も活用いただき、本日カウンターパートの皆さんとのお話や現場視察から、全国的な展開を目で見て確認できました。今後とも、税関の効率性向上を目指し、税関の皆さんのリーダーシップのもと、JICAも協力を進めたいと思います。

ボーテンの街並み

通関を待つトラック

●ルアンナムター県副知事 訪問

 今回、ルアンナムター県副知事を表敬訪問し、ルアンナムター県におけるJICAの取り組みや、今後の開発計画・ニーズについて意見交換を行いました。

オーンチャン・カムパーウォン 副知事:JICAには、わが県でも教育、保健、ガバナンスの各分野における協力が広がっており、感謝します。2024年9月、台風ヤギにより大きな洪水被害が発生したときには、教科書が流されてしまった小学校に、JICAから迅速に算数の教科書を供与いただいたことを今も深く感謝しています。

美弥子所長:2024年の台風ヤギによる甚大な被害の報をうけ、大変心を痛めておりましたが、他の開発パートナーや教育・スポーツ省ともすぐに相談し、JICAが開発にかかわってきた算数の教科書を迅速に配布でき、子どもたちが学び続けられたとお聞きし、安堵しました。
 ルアンナムター県における開発の優先順位を教えていただけますか。 

オーンチャン副知事:ルアンナムター県は、面積の85%が山岳部となっており、17の少数民族が暮らしています。ラオスの中でも、少数民族の割合が多い県の1つです。多くの県民が農業に関わっており、県のGDPの55%は農業が占めます。一方で、農業に従事している住民の所得は少なく、貧困の問題を抱えています。そのため、農村部の開発が特に重要であると考えています。 

美弥子所長:農村開発について、2つの協力が考えられます。1つ目は、これから開始予定の「マルチステークホルダーとの連携によるフードバリューチェーン振興プロジェクト」(2026~2030) による協力です。本プロジェクトでは、市場価値・付加価値のある農作物栽培の技術向上支援を、ルアンナムター県を含めたラオス全土で行う予定です。このプロジェクトを通して、ルアンナムター県の作物がラオス国内、そして近い将来、タイや中国などの周辺国で販売できるように協力していきます。また、村落部における草の根の協力として、JICA海外協力隊があります。これまでルアンナムター県には15名のJICA海外協力隊員を派遣しており、約半数が農業セクターでの活動を行っていました。野菜・稲作などの農業技術向上の知識をもった隊員、あるいは一村一品開発といったコミュニティ開発の隊員を派遣することも可能です。

オーンチャン副知事:ルアンナムター県では、「カオ・プーンムアン」と呼ばれる伝統的な品種のお米を栽培しており、この中の品種で、北部の有名な麺料理であるカオソーイを作っています。JICAと協力して、農産品に付加価値をつけ、タイや中国などの近隣諸国へ展開できるようになれば、農村部の所得向上に大きく寄与すると確信します。 

ルアンナムター県中心部の街並み

カオソーイ(麺料理)

畑に向かう様子

アカ族の村

●ルアンナムター県裁判所

トンデン・シティソン裁判所長、ソンパン・ペンサワット副裁判所長 

 ルアンナムター県には、県裁判所と2つの郡裁判所があります。2025年は約300件の裁判が行われました。半数以上が刑事裁判で、違法薬物関連の犯罪事案が多いです。民事裁判においては、土地問題や離婚といった事案に多く対応しています。JICAの協力により起草され、2020年に施行された民法典がとても役に立っています(注1)。契約法や、家族法等、個々の法律の整合がとられ、民法典としてまとまったことは、公正公平な裁判に貢献しています。

 2022年には、当時の司法省副大臣とJICA専門家の方に、ルアンナムターまで来ていただき、民法についての研修を実施、法律の概念について理解を深めることができました。この研修で学んだことは、党幹部候補の研修で伝えたり、裁判所内での会議において、法解釈や法適用の意見交換を行ったりと、最大限活用しています。 民法の解釈は難解な部分があり、より理解を深める必要だと感じています。いまでも最高裁判所が主催する研修等で、JICAの技術協力を通じて、法解釈等を学んでいる関係者等からアップデートされた情報を学ぶように努めています。 

※注1:ラオス民法典(日本語・ラオス語・英語)が次のページからダウンロードできます。
ラオス | 事業について - JICA

●ルアンナムター県病院

ブンミー・シスパン病院長、 マライトン・クンラウォン看護部長 

 ラオスでは、JICAの技術協力を通じて看護師・助産師の免許制度が設立され、2021年に免許が初めて交付されました(注2)。現在は、「看護師・助産師の継続教育(CPD)制度整備プロジェクト 」 (2024~2027)の下、免許の更新制度が整備されつつあります。ルアンナムター県病院は、今年2月に保健省から看護師・助産師の免許更新認定施設として承認を受けました。今後、県病院職員の他、郡病院やヘルスセンターに勤務する看護師・助産師の免許更新に関わる研修を提供する予定です。

 ルアンナムター県病院では、5名の看護師が首都ビエンチャンで看護師研修カリキュラム(CTCN)のトレーナーになるための研修を受けました。その後、ルアンナムター県病院の指導病院となっているセタティラート病院とJICA専門家が実際に当病院を訪問、練習用の医療モデル人形などを提供し、その使用方法を指導してくれました。

 今年5月にルアンナムター県病院にてCTCNのトレーナー研修を開始します。この研修を修了すると免許更新に必要な単位を取得することができます。県病院のトレーナー5名と県保健局のトレーナー1名、合計6名が、県病院に勤務する看護師16名を対象に、3日間トレーニングをします。現在は、心臓マッサージなどの救命医療、創傷ケア、酸素投与等の実技、看護倫理や看護記録など研修準備を進めています。この研修を成功させて、2027年から予定されている郡病院とヘルスセンターの看護師・助産師へのトレーニングができるよう、トレーナーとしてのレベルを上げていきます。

 免許更新制度は、卒業したての看護師にとっては看護学校で学びきれなかった実技を学べ、ベテラン看護師にとっては新しい技術を学べる大切な機会になります。ルアンナムター県の保健医療の水準を上げられるよう一丸となって取り組んでいきます。

※注2:ラオス初の新人看護師免許が付与されました | ODA見える化サイト

●ルアンナムター県教員養成校

サイスリン・ラードゥアンシー小学校教員養成課程教官

 私は、ルアンナムター県教員養成校で小学校教員を目指す学生に算数の指導をしています。また、「ラオス国初等教育における算数指導力強化プロジェクト(iTeam2) 」のトレーナーとして、算数指導法の改善に取り組んでいます。ルアンナムター県教員養成校の代表として、JICAの協力により新しくなった算数教科書の使い方について、JICA専門家から知識を得るだけでなく、他の教員養成校や教員養成校付属小学校の教員と指導方法について議論し、新しい授業のアイデアを出し合っています。これらのアイデアを教員養成校の学生や付属小学校の教員にも還元し、ただ公式を暗記するだけなく、考えさせる授業の大切さを伝えています。 

 プロジェクトのモデル校となっている付属小学校の教員は、授業に必要な教材等を用意するなど準備に費やす時間を増やし、これまでは算数の授業が難しい、嫌いと言っていた児童が多かったのですが、最近では算数が好きという児童が増えてきました。このことが私たちにとって大変うれしく、モチベーションとなって、授業準備を続けることができています。本日見学していただいた教育実習生による授業では、私が指導した学生が、実際に児童たちに円錐や六角柱を作ってもらい、どのように紙を切れば良いか児童たちに考えてさせています。 

 引き続き、他の教員養成校のトレーナーとの意見交換をしながら、ルアンナムター県教員養成校での実践を通して、ラオスの算数教育の改善に取り組んでいきます。 

無償資金協力により付属学校が建築された

円錐を作成している様子

【美弥子所長から】

 ビエンチャンからラオス中国鉄道で3時間、ラオス北部終点のボーテンを初めて訪問しました。中国と国境を接する街と頭では理解していましたが、実際、ボーテンの中心街を歩くと、レストランを含め、中国語や中国の貨幣人民元が飛び交っており驚きました。このように中国の影響を強く受けている地域もありましたが、訪問した税関や学校、病院や裁判所含め、カウンターパートから「日本でJICAの研修に参加したことがあります」「JICA専門家にワークショップでお話伺いました」「以前、JICA海外協力隊の○○さんと一緒に働いていました」などの声もたくさん聞くことができ、ここルアンナムター県でもJICAの長年にわたる協力の成果を現場で見て、聞いて、実感することができました。ボーテンで飛び交う中国語を聞きながら、しみじみと「百聞は一見に如かず」と改めて感じた出張でした。

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
一覧ページへ