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JICA緒方研究所ディスカッションペーパー「マニラ首都圏に通勤/通学する女性の日常的な経験」が公開されました

#5 ジェンダー平等を実現しよう
SDGs

2024.10.25

「人間の安全保障」というと、紛争や災害などの大惨事を連想しがちですが、私たちの日常生活にも、「人間の安全保障」を脅かしている要素は多数あります。また、多くの研究が、移動しやすさ(モビリティ)の問題は持続可能な地域社会を実現するための中心的な課題であること、また社会規範に起因する行動の違いにより、日常生活の中で移動する際にも、ジェンダーに基づき、男性と女性では異なる経験をしていることを示しています。

フィリピンは、2030年までに都市人口の増加率が東南アジアの中でインドネシアに次ぎ、二番目に高くなると予想されています。マニラ首都圏には3つの地下鉄と1つの郊外線があり、現在他の沿線も建設中です。大通りではバスやジプニー、UVエクスプレスと呼ばれるバン、トライシクルが公共交通機関として使用されています。

しかし、2022年の調査では、フィリピンの経済・政治・教育の中心地であるマニラ首都圏の公共交通指数は、東南アジアの都市の中で最下位であり、都市の移動性(Urban Mobility readiness)の調査対象となった60都市中、58位でした。

本研究では、「マニラ首都圏の女性たちは、都市移動に伴う複合的な不安が存在している中、毎日の通勤/通学をどのように乗り越えているのか?」という問いに答えるため、マニラ首都圏に通勤/通学する30人の女性の日常的な経験を、フォトボイスという手法を用いて検証しました。フォトボイスとは、市民がそれぞれの視点や生活体験を表す写真を撮影し、それらを持ち寄って議論し共通テーマを見つける、写真を利用した参加型の問題提起手法です。

調査の結果、フォトボイスに参加した女性のうち、66.7%が日々の通勤/通学をネガティブに捉えていることが分かりました。彼女たちは、交通渋滞に関連した否定的な経験、 暑さ(または炎天下)による不快な状況、公共交通機関の待ち時間の長さ、 混雑、移動の遅れなどを指摘しました。

また安全性に関しては、常に周囲に注意を払わなければならないことや、タクシー運転手に通常よりも高額な料金を請求されること、男性からの不適切な視線、かばんのひったくり、痴漢、犯罪行為に巻き込まれるなどの被害にあっていることが報告されました。自衛のためにポケットナイフやペッパースプレーを持ち歩いたり、素早く行動するために小銭を崩したりといった備えをしている女性も多いようです。さらに、公共交通手段の不衛生さについて健康被害を懸念する声も上がりました。

女性たちはこうした通勤/通学環境の改善策として、エレベーターやエスカレーターなどのインフラ設備の向上、公共交通機関の収容人数の増強、ドライバーへの研修、クリーンエネルギーへの投資などをあげています。また、授乳室の設置、「女性に対する暴力」デスクの設立、トイレ内のオムツ替えステーションの設置など、女性の通勤/通学経験をより快適にするアイデアも提案されました。

本研究では、「人間の安全保障」の視点を取り入れたことで、女性が通勤/通学中に直面する困難の多くは、公共交通サービスの質の低さに関連するものであり、いくつもの課題が作用し合って複合化して、彼女たちの安全保障の問題を悪化させ、不必要な脆弱性にさらすものであることを明らかにしました。

研究に参加した一人の女性の言葉にあるように、「女性の通勤/通学者を男性もサポートすることが必要です。女性にとってより安全な道をつくることは、安全性の指標になります。」様々なグループの人々の経験、ニーズ、能力を考慮することによってのみ、公共通勤/通学の改善に繋がります。

ディスカッションペーパー全文(英語のみ)をご覧になりたい方は以下のリンクをクリック。

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