気候変動に伴う水災害対策プロジェクト(HyDEPP)の最終成果として、科学的根拠に基づいた政策の重要性を提言しました
2025.12.19
「気候変動下での持続的な地域経済発展への政策立案のためのハイブリッド型水災害リスク評価の活用プロジェクト(HyDEPP)」のワークショップと第9回合同調整委員会(JCC)が2025年11月12日、フィリピンのマニラ⾸都圏にあるケソン市で同時開催されました。今回で最終回となるJCCには、日本とフィリピンの研究者や政策立案者が一堂に会しました。会議ではHyDEPPの主要な結果として、マニラ首都圏近郊のパンパンガ川流域及びパッシグ・マリキナ川とラグナ湖流域での気候変動による影響が、洪水や干ばつといった災害リスクを増大させるだけでなく、地域経済に影響を与えることなどが発表されました。
HyDEPP
は、国際協力機構(JICA)と科学技術振興機構(JST)による地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)
として実施されました。フィリピン大学ロスバニョス校が主導し、日本側からは東京大学と土木研究所 水災害・リスクマネジメント国際センターが協力し、本プロジェクトを推進しています。フィリピン側の主要パートナー機関として、科学技術省(DOST)、公共事業道路省(DPWH)、マニラ首都圏開発庁(MMDA)、ラグナ湖開発庁(LLDA)、経済企画開発省(DEPDev)、農業省(DA)、人間居住都市開発省(DHSUD)、気象天文庁(PAGASA)が参画しています。
HyDEPPは、気候・自然災害対策の政策立案を支援するため、「科学的根拠に基づいたツール」を開発するという目標を達成しました。4年以上にわたる研究の集大成として、気候、水文、農業、社会経済の各モデルを統合した「ハイブリッド・リスク評価モデル」を構築し、具体的な政策提言をまとめました。JICAは本プロジェクトを通じ、科学研究を政策立案と繋ぎ、データに基づく自然や気象災害管理ができるよう現地機関の能力強化を支援してきました。これらは全て、より包摂的(インクルーシブ)で、安全かつ強靭(レジリエント)なフィリピンを実現するための取り組みです。
今回のJCCでは、一連の研究に基づく政策提言と統合報告書が共有されました。議論の中心となったのは、モデリング結果やデータ分析の成果を、いかにして地方や国レベルの「気候・災害レジリエンス計画」に具体的に組み込んでいくかという今後のステップについてでした。
パンパンガ川流域の統合報告書に基づくシミュレーションでは、異常降雨だけでなく長期に及ぶ日照りがより頻繁に発生し、洪水と干ばつの双方のリスクが増大すると予測されています。報告書では、将来の気候予測に基づいた土地利用やインフラ計画に更新することで、将来の洪水・干ばつ事象に伴うリスクを軽減すること、また気候変動に対応した流域計画とその管理を推進することを提言しました。
一方、パッシグ・マリキナ川およびラグナ湖流域に関する報告結果は、より深刻な浸水被害と湖への土砂流入量の増加を示唆しており、湖沿岸コミュニティでの浸水害の悪化や、湖の水質への悪影響が懸念されます。報告書では、雨水排水システムの強化、上流域におけるコミュニティ開発と生計手段の多様化、そして降雨によってどのように土砂が発生し湖へ流入するのかメカニズムの解明が急務だと訴えました。
同時開催されたワークショップでは、気候変動予測、洪水・干ばつ評価、災害への強靭性や社会経済的分析、行政機関の意思決定支援へのビッグデータ活用など、プロジェクトの幅広い研究成果が紹介されました。また、パンパンガ州とラグナ州で行われた現地協議での、国の政策や適応計画の策定に役立つようなコミュニティの経験や知見を反映したフィードバックも取り入れられました。
研究だけでなく、HyDEPP
は
日本とフィリピンの両国で研修も開催し、日本発のモデルや技術を用いた気候や水文データ分析に対するフィリピン人研究者やパートナー機関の技術的な能力強化に取り組みました。また、フィリピン大学ロスバニョス校に対しノートパソコン、データサーバー、湖や河川の観測機器などの機材を供与し、継続的なモニタリング、分析、データに基づく政策支援を行うための能力を強化しました。
HyDEPPは終了を迎えますが、構築されたリスク評価モデルや政策提言が実際に社会で活用されてこそ、その真価が発揮されます。JICAは科学的根拠に基づく取り組みを重視し、気候変動という地球規模課題に具体的な対策を提供できるよう、引き続き取り組んでいきます。
scroll