フィリピン紛争影響地域の離島で母子の命と健康を守る―国際移住機関(IOM)と連携し、母子保健サービスを強化―
2026.01.26
G/A署名の様子(中央左:馬場隆JICAフィリピン事務所長、中央右:トリスタン・バーネットIOMフィリピン事務所代表)
独立行政法人国際協力機構(JICA)は、フィリピン共和国南部ミンダナオ島の紛争影響地域において、母子保健サービスの改善を通じて母子の命と健康を守るため、国際移住機関(
IOM
)と連携した無償資金協力「紛争影響地域の離島における国内避難民のための母子保健サービス強化計画」に関する贈与契約(Grant Agreement:G/A)に署名しました。
本事業は、フィリピン南部ミンダナオ地域のうち、島嶼部であるバシラン州、スールー州、タウィタウィ州(通称、バスルタ地方)を対象に、妊産婦や新生児・乳幼児が
十分な医療サービスを受けられる体制を整えることを目的としています。
署名式には、馬場隆JICAフィリピン事務所長、トリスタン・バーネットIOMフィリピン事務所代表の他、バンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治地域(BARMM)のシノリンディンBARMM保健省大臣や、BARMM計画開発庁、フィリピン政府保健省、和平・和解・統合担当大統領顧問室の関係者が立ち会いました。
ミンダナオ地域では、長年の紛争や不安定な治安状況の影響により、医療施設や医療人材の不足が続いています。特に島嶼部であるバスルタ地方では、妊産婦や新生児・乳幼児が必要な医療を受けられず、妊産婦死亡率や乳児死亡率がミンダナオ地域でも高い水準にあります。また、紛争や貧困を背景に住む場所を追われた国内避難民も多く、妊娠中・出産前後に十分なケアを受けることが難しい状況に置かれています。
本事業では、以下の取組を一体的に進め、妊娠・出産に伴うリスクの軽減と、母子の命・健康を守る体制の強化を目指します。
①医療施設の改修・機材整備
②医療従事者の能力強化
③公的医療保険(PhilHealth)の認証取得・活用支援
④地域住民への啓発活動
対象地域は治安上の制約も多く、日本人関係者の渡航による事業実施が難しい地域のため、本事業は、現地に強固な活動基盤を持つIOMと連携して実施します。紛争影響地域や移住を強いられた人々への支援について豊富な経験を有しているIOMとの連携によって、事業効果の最大化を図ります。
また、本事業は、JICAが2025年11月から開始した技術協力「バンサモロ母子保健サービス・栄養改善プロジェクト」と連携しながら進められます。同技術協力では、BARMMの中心地域(コタバト市・北マギンダナオ州・南マギンダナオ州)において、母子保健サービスや栄養改善に関する行政能力強化や医療人材育成を進めています。本無償資金協力は、治安上の制約から日本人関係者が直接活動することが難しい島嶼部にも支援を広げるものであり、BARMM
地域全体で切れ目のない母子保健サービスの強化を図ります。
ミンダナオ地域は、長年にわたる紛争や不安定な治安状況の影響により、医療や教育といった基礎的な公共サービスの整備が大きく立ち遅れてきました。特に妊産婦や新生児・乳幼児を対象とする母子保健分野では、必要な医療を受けられないまま命の危険にさらされる状況が続いており、こうした状況は住民の将来に対する不安を助長する一因ともなっています。
母子保健サービスの強化は、単に健康指標を改善することにとどまらず、住民が日常生活の中で「平和の配当」を実感できる重要な取組であり、社会の安定と信頼の回復に寄与します。特に女性が安心して妊娠・出産できる環境を整えることは、次世代を担う子どもたちが健やかに成長する基盤を築くことになります。さらに、和平プロセスの途上にあるBARMMでは、自治政府が住民に対して具体的な行政サービスを提供できるかどうかが、平和の定着を左右する重要な要素となっています。JICAは本事業を通じて、ミンダナオ地域の平和と安定、そして人間の安全保障に貢献します。
馬場隆JICAフィリピン事務所長は、「母親、乳幼児、子どもたち。最も守るべき人々が健やかに暮らせる地域社会こそ、平和で安定したBARMMの未来をつくる基盤です。母親と子どもが安心して互いを慈しみ、健康に地域社会に参加できる環境づくりを、JICAはこれからも揺るぎなく支援していきます。」と述べました。またトリスタン・バーネットIOMフィリピン事務所代表は、「本プロジェクトは、日本政府によるミンダナオの平和と開発への長年の貢献、JICA の強靭な保健システム構築における主導的役割、そして フィリピン政府保健省、BARMM保健省、地方自治体、地域の医療従事者の献身に根ざした、数十年にわたる協力関係の上に築かれています。IOM は、健康とモビリティに関する技術的専門性を提供する架け橋として、このパートナーシップに参加できることを光栄に思います。」と述べました。シノリンディンBARMM保健省大臣は、「このパートナーシップにより、これまでサービスの提供が困難だった地域にも明るい未来が見えてきました。このプロジェクトは日本の皆さまとの『長く続く友情と信頼の贈り物』です。『日出づる国』から届けられた、思いやりと愛の象徴であり、その温かさはBARMM内の最も孤立した地域にまで届くことでしょう。」と感謝の言葉を述べました。
案件名:紛争影響地域の離島における国内避難民のための母子保健サービス強化計画(IOM連携)
対象地域:ミンダナオ島嶼部のバシラン州、スールー州、タウィタウィ州の6つの地方保健局(RHUs)
実施機関:国際移住機関(IOM)、6つのRHUs、BARMM保健省、地域保健事務局(IPHO)、フィリピン政府保健省地域9事務所等
事業期間:2026年1月~2028年6月(計30か月)
総事業費:5.16億円(350万米ドル)
事業目的:バシラン州、スールー州、タウィタウィ州の地方保健局において、医療施設の整備、医療従事者等に対する能力強化研修、医療施設の公的医療保険における母子保健関連認証取得支援及びコミュニティに対する啓発活動を行うことにより、国内避難民等に対する母子保健サービス提供体制の強化を図り、もって脆弱な市民の健康状態の改善を通じたミンダナオ紛争影響地域における平和の配当としての開発に寄与する。
関連リンク:
ミンダナオ地域の母子保健サービスの改善・提供能力強化に関する技術プロジェクトを開始します。 | 海外での取り組み - JICA
ミンダナオ和平への取り組み | 海外での取り組み - JICA
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