• ホーム
  • JICA東北
  • トピックス
  • 2022年度
  • 【外国人材受入・多文化共生事業】知ることから始まる国際理解/国際協力セミナー「インドネシアと宮城の絆~これまでも・これからも~」レポート

【外国人材受入・多文化共生事業】知ることから始まる国際理解/国際協力セミナー「インドネシアと宮城の絆~これまでも・これからも~」レポート

2023年3月31日

「インドネシアと宮城の絆」をテーマに開催した2022年度国際協力セミナー

オープニングアクトとして披露された伝統的な仮面舞踊(写真提供:MIA)

 赤道にまたがる18,000もの島々で構成されるインドネシア。海に囲まれた海洋国であり、互いにアジアの民主国家である日本との共通点は多く、政治や経済における両国のつながりは緊密さを増しています。宮城県も漁業や水産業などを通じて同国と長年交流を深めており、現在県内に暮らすインドネシア人は技能実習生や留学生を中心に約1,200人にのぼります。また、ともに地震や津波による大規模災害を経験した宮城とインドネシアは、相互復興を通じて強い絆を結んできました。

 2023年2月19日に開催された国際協力セミナーは、そんな二つの地域の絆をテーマに掲げたものです。コロナ禍以来の対面形式となった今回は、仙台に会場を置きながらオンラインも活用し、総勢80名を超える参加者が集いました。冒頭では、東北大学国際交流オフィサーでインドネシア人ムスリム協会会長も務めるアンディ・ホリック・ラムダニさんがインドネシア西ジャワ州の伝統舞踊を披露。続く開会のあいさつでは、セミナーをJICA東北と共催する公益財団法人宮城県国際化協会(MIA)の三坂達也専務理事が両国のつながりに触れ、「この機会にインドネシアと宮城の絆についてより認識を深め、これからの国際協力と交流に役立ててほしい」と述べました。

それぞれの視点から語られた多彩な国際協力

仙台会場でクイズに答える参加者の皆さん

 セミナーには5名が登壇し、プレゼンテーションと講演を行いました。東北大学留学生のアミラ・アスタリ・アルフェルさんとMIAのンバイさんは「インドネシアってどんな国?」と題したプレゼンテーションで、地理や人口、食文化などインドネシアに関する豆知識をクイズ形式で出題。オープニングアクトも務めたアンディさんの講演ではこれをさらに掘り下げ、600を超える民族が共存する多民族国家であるインドネシアの歴史や宗教、国民性などを紹介したほか、インドネシア独立100周年に向けて日本とインドネシアの有識者が両国の協力体制のあり方を議論する『プロジェクト2045』についても取り上げました。

 JICAインドネシア事務所の小野望次長は現地からオンラインで参加し、両国間のさまざまな国際協力について講演。経済成長やインフラ開発、格差是正、環境保全など多分野にわたるJICAの支援事業や、スマトラ島沖地震やスラウェシ島地震の被災地と宮城県内の自治体・企業による災害復興や防災に関する連携事例を紹介しました。

「小さな町の国際交流」鹿折(ししおり)地区で育まれた技能実習生との絆

技能実習生と住民による国際交流の歩みを伝えた講演(写真提供:鹿折まちづくり協議会)

 気仙沼市からオンラインで登壇したのは、鹿折まちづくり協議会の熊谷英明会長です。鹿折地区では技能実習生と積極的な交流を続けており、その歴史は約20年前にさかのぼります。始まりは地域の運動会への参加でした。実習生の受け入れ企業に勤めていた熊谷会長の奥様が仲介役となり実現したこの小さな国際交流は、はじめこそ言葉の不安がありましたが、終わってみれば大好評。実習生たちは少子高齢化や若者の行事離れが進む同地区ににぎわいをもたらす存在となり、近隣自治体も参加を要望するほどだったそうです。

 その後、運動会はもちろん公園の植樹やバーベキュー大会、成人式とさまざまな行事に参加してきた実習生ですが、コロナ禍で機会は減少。そんな中、一昨年から参加するようになったのが地域の防災訓練です。きっかけとなったのは一人の地元中学生だといいます。この生徒はかねて地域の外国人に関心を抱いていたそうで、防災学習に取り組む中で「実習生も訓練に参加できないか」と考えるようになり、まちづくり協議会に相談を寄せたのです。これを機に2021年秋の訓練に初めて6名が参加。初回はコロナ禍も鑑みて少人数にとどめたものの、地域の一員として防災に参加する意義は大きく、翌2022年春には40名、同年秋には60名と人数を増やし、地元住民とともに避難場所の確認や避難所の初期設営訓練に取り組んだそうです。

技能実習生、企業、地域住民——3つの力で実現した国際交流

鹿折公民館からセミナーに参加してくれた皆さん(写真提供:鹿折まちづくり協議会)

 鹿折でこうした交流を実現できた理由について、熊谷会長は「実習生たちは地域住民にいつも気持ちのよいあいさつをして、良い関係を築いていました。それができたのは、受け入れ企業に地域の活動に対する理解や協力があったから。実習生を採用する際の人選や社員教育もしっかり行っているのでしょう。そしてまた地域住民にも実習生や企業の声を聞く力があった。実習生の努力、企業の努力、地域の聞く力。この3つが合致して実現したことだと思います」と話します。

 3つの力の事例として紹介したのが、実習生のために鹿折で開催する日本語教室です。気仙沼市内の別地区で日本語教室を開いていた地元女性が「日本語を学びたいが勤務時間の兼ね合いで鹿折地区からは通えない」という実習生の声を聞き、新たに立ち上げたというこの教室。なぜ実現できたのかと熊谷会長が女性に尋ねたところ、「自分がやりたいことと実習生が求めていることが結びついたから。それに、鹿折にはおせっかいなおばちゃんがたくさんいたからね」との答えが返ってきたそうです。

 この講演が行われた当日、鹿折公民館にはインドネシア人技能実習生25名を含む計30名以上の関係者が集まり、オンラインでセミナーに参加してくれました。画面越しの皆さんの笑顔は、講演通りの地域の温かい雰囲気を感じさせるものでした。

多文化共生社会における“お隣さん”としての外国人

セミナー後は、JICA東北プラザでワークショップを開催。会場にはパネル展示などで海外協力隊事業を紹介するコーナーも

ワークショップではインドネシア柄のしおりを作り、同国をより身近に感じてもらいました

 鹿折の取り組みは、多文化共生社会を目指す私たちにたくさんのヒントを与えてくれます。セミナーの終わりにはJICA東北の小林雪治所長から「日本の社会が変わって行く中で、外国人は普通の“お隣さん”になりつつある」との言葉がありましたが、鹿折にはまさに“お隣さん”として地域に溶け込む実習生の姿がありました。

 クイズや講演を通して、インドネシアをより近くに感じることができた今回のセミナー。開催後のアンケートでは「インドネシア人の性格を知り、日本人と一緒に過ごすために何が必要か考えさせられた」「地域住民と国際交流の実例を知りたい」などの声が寄せられました。今後もJICA東北では、身近な暮らしの中にもある国際協力に目を向けるきっかけを届けていきたいと考えています。



【本件に関するお問合せ先】
JICA東北 市民参加協力課
E-mail: thicjpp@jica.go.jp
TEL: 022-223-4772  FAX: 022-227-3090