【STORY6】国際協力と地域の活性化を担う人材は「協働」から生まれる 羽賀友信さん(長岡市国際交流センター「地球広場」センター長)

2023年5月22日

-「わたしらしく」生きていると思えるのはどんなときですか?-
ありのままの自分で生きているとき、人を生かすことが自分を生かすことにつながっていると思うとき。

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(注)感染防止対策を施したうえで取材を行っています。

国外での国際協力活動や緊急援助隊に幾度となく参加し、2004年と07年に中越地域で起こった地震の際には、ボランティアの中心となって新潟県長岡市の市民の方々とともにまちの復興に奔走した羽賀友信さん。“長岡発、地球行き”のコンセプトのもと、現在も同地域の活性化に奮闘する羽賀さんのその心に貫くものについて伺いました。

長岡から国際協力を推進していく

新潟県長岡市には「地球広場」(注1)という、JICA地球ひろばが開設される際に参考にした施設があります。その地球広場のセンター長を務めているのが羽賀友信さんです。羽賀さんは大学で動物医学を学び、イスラエルでテロの混乱に巻き込まれ拘束されるも空手の腕を見込まれて特殊部隊の教官に就任したり、カンボジアで国際的な緊急援助活動に参加したときには、仲間を亡くしたり自らも負傷したりと壮絶な体験をしました。その後、長岡では子どもたちのための自然塾を立ち上げたりと、激動の経験をしてきましたが、現在は生まれ故郷の長岡で、国際協力と地域の活性化に力を注いでいます。

「世界のつながりとは、ローカルとローカルがつながることです。大都市である必要はありません。人と人がつながるから支援ができるんです」と言う羽賀さん。世界は人と人との関係性で成り立っているという自身の国際協力のコンセプトのもと、“長岡発、地球行き”を実践してきました。国際協力を通じて多様な文化を理解することは、地域の活性化において大きな力になると羽賀さんは言います。「国際協力は相手の価値観を理解しなければなりません。活動を行ううちに、日本はどう見られているかを自らも体験することになります。さらには、僕らの当たり前が、相手にとっては当たり前でないことに気づくことになり、そうすると多様性が当たり前になってきます。なにより、新しい視点を持てるようになることが地域の活性化、そして地域おこしのキモとなります」。

さらに、「活動する年齢層が固まっていては、月日を重ねると高齢化して消滅してしまいます。学ぶ世代をはじめ、多様な人とその意見を取り込み、主体性を持って参加してもらうことが重要」と、交流にとどまることなく、市民自らが中心となって、生活への支援、次世代教育、そして国際協力を実施していく場づくりを行いました。そして、子どもは大切な“未来市民”であるとして、未来市民が参加できる場や機会を増やしていきました。「市民の理解がなければ、地域循環エネルギーは生まれない」と、行政がすべてを進めるのではなく、市役所内に市民が運営する「ながおか市民協働センター」を設立して、運営にも深く携わっています。

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長岡市国際交流センター「地球広場」。“出会いから交流、そして協力へ”をコンセプトにした交流スペースで、さまざまな文化を背景とする人々がたがいに理解し合う「多文化共生」のまちづくりを目指しています。国際協力には地域の活性化を行うヒントがたくさん含まれています。「地域で活躍できる人は世界でも活躍できる」と、国際感覚を持つ人材の育成を行っています。

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ながおか市民協働センター(注2)は、市役所もある「アオーレ長岡」の中にあり、市民ボランティアで運営されています。“町を元気にしたい”“だれかの役に立ちたい”“何か面白いことをしたい”気持ちを応援する市民協働・交流の拠点です。市民の中から多くの活動が生まれ、現在、71団体もの(長岡市内の特定非営利活動法人。2023年2月7日時点)NPOが登録されており、市民の方々の意識と主体性の高さがうかがわれます。

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人間らしく生きるための共感力

羽賀さんとJICAとの関係は、1980年の日本によるカンボジア難民救援医療プジェクトにさかのぼります。一般公募で採用された羽賀さんは、「外務省もJICAも一般公募で入ってきた僕を『若造が』なんていじめないで、おまえしかいないんだからと育ててもらった」と言います。いまでは、より良い国際協力のためにJICAとどう協力するべきかを考え、地方はJICAと連携することが世界とつながっていくことにもなると、密な連携をしています。

また、「国際協力は魚をあげるのではなく、魚を捕まえる網の使い方を教えるということ」を学んだ羽賀さんは、同情ではなく、共感が大事だと力説します。共感するからこそ主体性が生まれる。それは地域の活性化も同じ。そうした共感力が成熟した市民社会をつくり、なにより主体性を持った市民の住む町となって、自治体が活性化していくことになると言います。

「ITが発達してAIを導入したとしても、AIに共感はできない。人は共感ができるから、人なんです。共感力がなければ、人間になれない。ただ一方で、共感しすぎるとプロになれないし、奈落までいっしょに落ちてしまう。その線引きは難民キャンプで学んだ」といいます。高学歴でIQが高くてもEQ(心の知能指数)が低ければ、知識が凶器になるおそれもあります。人間としての考え方を持っているか、共感力という物差しがあるか、そして自分の中にコンセプトや哲学を持っているということが大切であると、羽賀さんは力を込めます。「現実は、矛盾と不条理で成り立っています。それを乗り越えることが生きるってことだと気がついたんです。そのときに『大事にすべきことは何か』とポイントだけ押さえておけば、矛盾と不条理はおいておけばいい」。その大事にすべきことこそ、EQであり、共感したり人を理解したり、相手の立場で考えたりすること。そしてさらに、心を自由にし、自分を客観的に評価できるかということも意識したいと言います。

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羽賀さんは、共感力こそが市民を協「働」に参加させ、無関心な人から成熟した高度人材へと成長させることができると言います。

「羽賀さん」の行動の根源にあるもの

「昔、新聞記者に『アクティビスト(活動家)ですね』と言われたことがあるんです」と笑う羽賀さんですが、「英雄が必要なんじゃない。いろんな人に支えられて、一緒に動いていくことが大事です。自分ひとりで何かを成し得ているわけではなく、みんなで行っているんです。力や才能のある人を応援すると、自分にも良いフィードバックがあるんですよ」と、自身のことを、周りを引き立てるファシリテーター(会議などで発言をうながす人)だと言います。

そんな羽賀さんを同僚の方々は「先生とかセンター長とか言われるのを嫌がるし、すごい人である羽賀さんに向かって、若者が親しく名前を呼ぶと周りの大人はハラハラするのに、本人はニコニコとほほ笑んでいる」とその人柄を話します。

羽賀さんは、中学生のときに人を介して永六輔さんに会ったことがあるそうです。そのとき「マルチタレントですが肩書きは作詞家ですか、何ですかと尋ねました。すると中学生の僕に向かって、『羽賀君、僕は永六輔です。永六輔があれもやり、これもやるんです。君も固有名詞で生きられる人間になってください』と言われたんです。グサッと心にきました。それから、それを大事に生きているんです」。その言葉通り羽賀さんは、相手の肩書きにこだわらずその人の本質を重視して主体性を持って取り組む人たちを、二つ返事でサポートしています。

羽賀さんは現在、センター長のほかにもたくさんの顔を持っています。国際活動家、教育者、NPO代表。「誰もやりたがらないから、やってるんです」と笑います。子どものころは、「人を見下すようなことをすごく嫌ったし、多様な文化を受け入れていた」という両親のもとで育ち、特に母親から大きな影響を受けたそうです。「なんとかなる」というのが口癖で、「できない理由を考えない癖がついたし、どうしたらできるかという哲学ができて、それしか考えなくなった」と言います。
子どものころから好奇心旺盛だった羽賀さんは、「意欲のある人をサポートすると、才能に火がつき進化していくことがあります。そこには自分にはない新鮮さがいっぱいあるんです。たとえば、佐竹直子さん(後出)のように進化していく人に驚くことは、私の原動力。その人が成長すると同時に周りも幸せになるし、そういう人と活動できることをとても幸せに思います」とほほ笑みます。個人という存在は社会とつながっていて、社会が機能するためには、個人の才能が発揮される場所が必要だと言う羽賀さん。市民が協働して主体的に動けるように、羽賀さんは今日も力を尽くしています。

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佐竹直子さん(蔵王のもりこども園園長、長岡市立北中学校CSディレクター、新町みんな食堂世話人代表ほか、評議員や市民活動の代表、理事など役務多数)
羽賀さんと出会ったことがきっかけで国際協力の場に足を踏み入れた佐竹さん。羽賀さんとともに活動する中で共感力を身につけ、いまでは長岡にとってなくてはならない地域の活性化の担い手として活躍しています。写真:「地球広場」の壁に描かれた絵。

知り合って30年以上になります。何か国語もしゃべれて、動物の扱いがめちゃくちゃうまくて、いろんなことに意欲的です。それでいてとても勉強家です。30年前も今もとてもおいそがしいはずなのに、いろんな相談事を受けていらっしゃって、24時間にどれほど対応しているかわからないくらい面倒見がいいですね。一緒に活動していて、表面的な物事にとらわれずに本質を見極めることや、思考の道すじの立て方を鍛えられました。唯一無二の存在で、師匠であり、お兄さんみたいな存在であり、夫ではないけれど仕事上のパートナーであり、厳かな方であるにもかかわらず『羽賀さん』って呼べと、親しみやすい関係をつくってくれる方です。

プロフィール

羽賀友信 はが・とものぶ

JICA地球ひろばの設立に大いに貢献し、JICAと連携した事業展開や「にいがた青年海外協力隊を育てる会」会長を務めるなどJICAとの関わりも深い。2008年「JICA理事長(緒方貞子)賞」受賞、「地域づくり総務大臣表彰」など数多くの賞を受賞。カンボジア難民救援医療プロジェクト後も、パレスチナ、アフガニスタン、アセアン、ブータン、ヨルダンなどで国際協力に携わりながら、生まれ故郷長岡の地域の活性化に向けた取り組みに奮闘している。空手道新武会会長も務めている。