世界から人身取引の被害者が無くなる日を目指して:課題別研修「アセアン諸国における人身取引対策協力促進」

2021年2月8日

人身取引被害者を支援するためのネットワーク作りを支援

過去の来日研修の様子

 「人身取引」とは、暴力や脅しによって弱い立場にある人々を支配下に置き、性的サービスや労働などを強要する犯罪であり、重大な人権侵害です。一国内だけではなく、国境を越えた犯罪としても認識されており、国々が協力して取り組まなければいけない広域的課題の一つです。
JICAでは2012年からアセアン諸国で人身取引対策を担当する行政官やNGO職員を対象とした研修を実施してきており、これまでに116人が来日しました。
 この研修は、人身取引に対する対策の枠組みの4分野*のうち「人身取引の予防」と「被害者の保護・社会復帰」をテーマとしています。参加各国の警察官やソーシャルワーカーといった関係者が集まり、意見を交換しながら被害者の置かれた状況や社会復帰までの課題について理解を深め、関係機関が協働するネットワークを築くことを目的としています。

*人身取引対策に対する国際的な枠組みは「政策(Policy)」、「加害者処罰(Prosecution)、「予防(Prevention)」、「保護・社会復帰Protection and Social reintegration)」の4分野を指し「4P」と言われている。これに「Partnership」を加えて「5P」と示されることもある。

帰国研修員を対象としたオンラインセミナーを実施しました

【画像】 今年度は、コロナ禍により来日が叶わないため、過去に本研修を受けた22名を対象とするセミナーをオンラインで実施しました。
 オンラインでは、人数の制約がない利点を生かし、JICAの技術協力プロジェクト*の専門家や現地の関係者の参加に加え、昨年まで研修員が日本で訪れた電話相談所、民間支援団体、移住労働者の相談団体等からも参加いただきました。さらに6か国語(カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナム、日本)の通訳も入り、従来の来日研修(英語で実施)では参加が難しかった方々も含め、総勢70名の参加がありました。

(*)JICAの技術協力プロジェクト:下記の関連リンクをご覧ください。
   タイも2021年4月からプロジェクトが開始される予定です。

コロナ禍の人身取引の状況の共有

 新型コロナの世界的流行は、人身取引被害の状況を一層深刻化させています。
 2日間のセミナーでは、初日に各国からのコロナ禍における人身取引被害の傾向や、被害の事例共有、対策について発表があり、女性や子どもが犠牲となっている事例が報告されました。移住労働者についても、コロナ禍で仕事もなくなり生活に困窮している状況や、法の網の目から落ちてしまい、救済手段がなく困窮する状況が報告されました。
 2日目は、参加者の関心が高いインターネット上の子どもの性的搾取等をテーマに、タイ警察と日本や海外のNGOをゲストに迎え、取り組み事例の紹介と、意見交換を行いました。ブレイクアウトセッションでは各国別にディスカッションを行い、最後に研修成果の発表を行いました。
 人身取引の被害者支援を行っている各国の仲間が、コロナ禍でもオンライン研修を通して再会し、知識や情報を更新できたことは非常に有意義でした。
SDGsのスローガンである「誰一人取り残さない-No one will be left behind」に向かってアセアンの仲間達は邁進しています。



JICA東京 産業開発・公共政策 阿部 亮子