モンゴルにおける地方教員の質の向上—ICTを活用した地域に根ざしたSTEM研修教材開発を通じて

モンゴルでは20年ほど前より、情報技術(ICT)教育が国を挙げて推進されてきています。コロナ禍でますますその重要性が高まっていますが、特に地方で働く教員への研修は十分ではありません。本草の根技術協力事業では、現地のニーズに合ったデジタル教員研修教材を開発し活用することで、地方中学校教員の授業における教授能力の向上を目指し、10年間にわたる取り組みが行われてきました。

2022年9月29日

教育活動におけるICTの効用

デジタル教材の活用事例の紹介(バヤンホンゴル県)

モンゴルでは、2000年前半より国家政策として、教育を含む公共サービスを包括的かつ効率的に提供するために、情報技術(ICT)の活用を推進してきました。
特に、近年の教育政策では、基礎教育の質の向上には、教員のICTスキルの向上が必要不可欠であるとされ、各教員へのノートパソコンの提供、学校のインターネット環境の改善といったインフラ整備に加え、教員研修の実施が強化されました。新型コロナウイルス禍では2020年1月に学校が閉鎖され、同年9月には教育活動がオンラインに移行される中、教員のICTスキルが教育機会の維持に重要な役割を果たしました。

本事業における教員研修活動

本事業で開発された教材の紹介(セレンゲ県)

本事業では、事業実施団体である東京工業大学、モンゴル国立教育大学、モンゴル国教育省の連携のもと、教員研修用デジタル教材を開発するための研修を2012年より実施しています。2012年から2016年には小学校教員を対象に、また、2018年から2022年には中学校教員を対象として、事業のパートナーである地方4県とウランバートル市において、教員チームがデジタル教員研修教材を開発し、オンラインで活用できる教材サイトとオフラインで使用できるビデオCDを全国の学校及び教育行政機関に配布しました。本事業を通じて小・中学校教員あわせて5,000名以上が教員研修に参加し、小学校教員用、中学校教員用にそれぞれ30種類のデジタル研修教材が開発されました。

事業成果モニタリングの実施

中学校教員への聞取り調査(ウランバートル市ソンギノハイルハン地区)

本事業に参加した小・中学校教員(バヤンホンゴル県)

2022年の8月から9月にかけて、本事業のモニタリング調査が実施されました。東京工業大学とモンゴル国立教育大学チームは、JICAモンゴル事務所との連携のもと、バヤンホンゴル県とセレンゲ県の13の中学校を訪問し、155名の教員、42名の学校管理職員への聞取り調査を実施しました。現地訪問では、教員によるデジタル教材の発表や多様な教育アプリケーションを活用した授業活用の事例が紹介されました。聞取り調査では、本事業の教材開発に参加した教員が、学校での教員研修の講師の役割を担っていることや、教員同士が協力して新しいアプリケーションツールについて学び、情報共有を行なっていることなど、教員の能力開発における変化が確認できました。また、多数の教員が、研修で学んだデジタル教材の開発の経験がコロナ禍のオンライン授業への移行に大変有用であったと名言しており、本事業が、まさに必要とされる時期に実施されたことがわかりました。JICAモンゴル事務所の専門家からは、長年教育現場で構築してきた活動が多くの成果につながっているとの評価をいただきました。

今後に向けて

現在、モンゴルではデジタルトランスフォーメーションが国家戦略として掲げられ、教育のデジタル化も急速に進められています。特に地方においては、教員がデジタル化に関する様々な知識やツールを活用することで、児童・生徒のみならず地域コミュニティ全体に伝える重要な役割を担うようになっています。本事業は、最終年を迎えるにあたり、事業の成果を多方面から分析すべく、多くのステークホルダーへの聞き取り調査を進めています。これまでの10年間の支援を通じてモンゴルの基礎教育にどのように貢献したかを分析し、今後さらに教員研修の質の向上を推進していくことができるかを、より多くの方に伝えていけるよう努めていきたいと思います。