長岡の醸造文化に触れよう!

2022年11月4日(金)~11月5日(土)、JICA留学生が新潟県長岡市を訪れ、日本酒造りや日本文化を学びました。

2022年11月15日

長岡の地域理解プログラムについて  

 日本海と山々に囲まれ、冬場は一面の雪景色となる、新潟県長岡市は日本有数の酒蔵数があり、「発酵・醸造のまち」として知られています。地域の自然環境や資源を生かした産業、酒造りを留学生に紹介することを目的として、1泊2日の「地域理解プログラム」を開催しました。
 8カ国11名のJICA留学生及び4カ国5名の長岡技術科学大学と長岡大学の留学生(初日のみ)が参加し、日本の伝統文化であり高度な発酵技術を用いた飲料である日本酒について、醸造技術のみならず、地域にある資源をベースに人々がいかに技術の継承と発展をさせてきたかについて学びました。
 また、長引くコロナ禍で活動範囲が制限される中で学業を続ける留学生が多く日本文化理解や留学生同士交流する機会が限られていることから、宿坊に宿泊し、米国人僧侶による説法・修行体験・瞑想・精進料理等体験も組み込みました。2日目には、江戸時代から続く醸造の町「摂田屋」散策を通じ、中越地震後に摂田屋が取り組む地域活性化の取り組みも学ぶ機会となりました。

長岡の歴史と文化を学ぶ

プログラムオリエンテーション時の自己紹介の一コマ

 プログラムオリエンテーションでは、主催者(JICA東京)より、長岡での日本酒製造発展の背景として、湿地帯改善や大河津分水建設をはじめとした信濃川氾濫による洪水克服により良質なコメ栽培が出来るようになったこと、三国街道の宿場町の一つであり人の往来が多かったことについて、説明を行いました。
 加えて、長岡における基本理念である、小林虎三郎による「米百俵」思想(幕末期に旧体制側についた長岡藩は全てを失ったものの、食べ物(米)ではなく教育への投資を図った)の紹介、また第二次世界大戦時の長岡空襲からの復興や2004年の新潟県中越地震後の再興を踏まえ「フェニックス(不死鳥)」の市章をシンボルとしていることを紹介しました。
 留学生より、「災害から復興しようと努力した長岡の人々のレジリエンスのマインドに心を打たれた」「長岡に倣って自国も発展できると感じた」といった感想があり、企画の背景理解に繋がる場となりました。

企業訪問~朝日酒造株式会社~  

ボトリング工場について次々に質問を投げかける留学生の様子。

 朝日酒造株式会社を訪問しました。会社概要・歴史、ボトリング工場見学、日本酒の製造工程説明(精米歩合の異なる酒米比較、甘酒試飲)、その後酒蔵へ移動し発酵中のタンクを見学しました。
 ボトリング工場見学では、不純物を機械と人でダブルチェックを行っているとの説明があり、機械に100%頼らず人を配置している体制等について留学生から多数質問がありました。酒蔵では白衣、帽子を着用し入室。酒蔵特有の香りが漂う中、泡が立つもろみの観察や記録管理(温度、状態の記録)等、説明を受けました。留学生からは企業の従業員数、お米の産地、熟成の有無等、幅広い質問がでました。

護摩焚き行事~竹之高地不動神社~

護摩焚き行事の様子

 企業訪問の後、留学生たちは竹之高地不動社での護摩焚き行事に参加しました。留学生には護摩木が一人一本配られ、各々願い事を書き御護摩焚き・御祈祷に参加すると共に、不動社よりお神酒を配布いただきました。
 留学生より、「御祈祷や炎を使った儀式は忘れられない経験となった」「不動社が外国人にも儀式を共有してくれた寛容さに感謝したい」「儀式の合間に見せた宮司のお人柄が温かく楽しめた」といった声が上がり、非常に印象深いものとなりました。

宿坊体験~慶覺寺~ 

坐禅の様子

集合写真

 留学生の宿泊先は蓬平町にある「慶覺寺(けいがくじ)」です。慶覺寺の僧侶ガーヴィー春龍氏(米国人)から坐禅の作法を学びつつ、朝晩の坐禅(暁天坐禅)を行いました。
 説法では、日々人々がいかにものごとに囚われているか、一旦手放すことで精神的に楽になる等のお話がありました。また、朝は寺の掃除を体験しました。
 参加者からは、瞑想の大切さや手放すこと、執着しないという教えに共感したとの声がありました。また、ガーヴィー氏より、過疎化が進む長岡において地域活性化のために外国人を受入れ、日本と外国を繋ぐことが自身の役割であり今次企画に感謝するとのコメントをいただきました。

高龍神社

急な階段を上っていく様子

参拝後に記念撮影

朝の御勤めの後、秋の紅葉を楽しみつつ蓬平町を散策、高龍神社を参拝しました。
高龍神社は、蓬平町にある商売繁盛で有名な神社です。
留学生たちは、過去の参拝者が願掛けとして名刺を置いて行っていることなど興味深く説明を受けていました。

新潟県立歴史博物館 

雪下ろしを興味深く見ている留学生

 新潟県立歴史博物館では、「新潟県のあゆみ」「雪とくらし」「米づくり」「縄文人の世界」「縄文文化を探る」の展示を見学。ジオラマや音響を使いリアルに表現され、「雪とくらし」では、豪雪地帯の雪下ろしの様子を身近に感じることができました。

醸造の町「摂田屋」周辺散策       

蔵を見学している様子

 このプログラムの締めくくりとして、醸造の町「摂田屋」を訪問。摂田屋地区では、留学生たちが、吉乃川ミュージアムにて映像やデジタル技術も用いた酒造り体験ゲーム、展示スペースでは、酒造りの昔の道具等を見学、留学生が売店での試飲や「SAKEバー」を楽しむ様子もありました。
 売店では、吉乃川株式会社と地元企業のコラボ商品やグッズなども販売されており、酒造会社が現在、どのようにお客様にアプローチしているのか学ぶことができました。また、旧機那サフラン酒製造本舗では、東洋のフレスコ画ともよばれる“鏝絵”で飾られた蔵を見学、中越地震で被害を受けた後に地域の人々の協力により文化財として修復が進み、現在も地元の人々によりまちづくりが行われていることを学びました。

地域の歴史、文化、特性を学び、共に考える 

 コロナ禍の影響が長引いていることを踏まえ、今年度は視察中心、体験重視型のプログラムとし、また長岡の日本酒醸造の歴史のみならず日本文化に触れる機会を追加要素として加えました。実際に酒造会社を見学することで人と技術を組み合わせた製造の様子、テクノロジーを駆使した製造や企業規模による製造工程の違いを目の当たりにし、留学生の理解を促進、地域理解プログラムの目的を十分に達することができました。また、視察・散策した各所(不動社や神社)でお神酒として日本酒が捧げられており、日本酒が地域文化の柱として根付いていることを留学生にも実感いただける機会となったと思います。
 今後も地域の発展と長期研修事業を切り口とした協力の可能性を追求し、「長岡市の日本酒とその歴史」を題材とした本プログラムを洗練させていくと共に、今回の経験を他の地域理解プログラムにも活用し、留学生の地域理解の促進に繋げていきたいと考えています。

長期研修課 今沢 優子