“モンゴル×養蜂”が地方産業に新しい風をもたらす

皆さんは「ハチミツ」と聞いてどこの国を思い出しますか?国産はもちろん、中国、トルコ、ニュージーランド等、日本では様々な国の多様なハチミツを楽しむことができますよね。 今回は、大草原を有するモンゴルを舞台に、品質の良いハチミツを生産するための“養蜂”の技術移転と普及を行った、草の根技術協力事業「地方での生計維持を目指した養蜂振興プロジェクト」の取り組みと成果をご紹介します!

2023年1月23日

プロジェクトの背景 ~地方産業としての養蜂の可能性

【画像】モンゴルでは、人口や経済の首都一極集中は激しく、地方において、生活や所得を安定させ、かつ、限りある自然環境の保全につながる産業の開発が喫緊の課題となっています。他方、養蜂の主たる生産物であるハチミツは、食品として極めて安定した性質を持ち、その生産には特別なインフラ設備や機材を必要とせず、環境にも優しい産業と言えます。また、多くの植物はミツバチ等の昆虫によって花粉交配が行われており、その恩恵を受けるのは草原や農地も例外ではありません。こうした背景を考えるとき、地方での生計維持に貢献する持続的な産業として、養蜂は有望です。しかし、現在モンゴルでは、安価で品質の良いハチミツが大量に輸入されている上、粗悪な国産ハチミツが数多く市場に出回っており、国産ハチミツを量・質ともに安定させ、消費者にその価値を受け入れてもらうには、まだまだ厳しい環境にあります。養蜂の技術力を向上した上で、品質の良いハチミツを生産し、市場を拡大していく必要があります。

概要と成果 ~地方での生計維持を目指した養蜂振興プロジェクト~

「養蜂の手引書」

公益社団法人国際農林業協働協会(JAICAF)は、2018年4月に終了した先行事業(フェーズ1)「養蜂振興による所得向上プロジェクト」の成果を活用し、作成した飼育技術・品質管理マニュアルを検証しつつ、養蜂経営や流通といった分野を加えて、「養蜂の手引書」を発行することを目標としたフェーズ2「地方での生計維持を目指した養蜂振興プロジェクト」を実施しました(2019年3月~2022年12月)。
発行した手引書は、カウンターパートであるモンゴル農牧省畜産局のほか、農牧省食料農業研究開発センター(RDセンター)、生命科学大学等の教育機関、養蜂研修事業を担うNGO、養蜂家などに配布されました。また、今後はNGO等が行う養蜂家研修で使用される予定であり、すでに教科書として利用を始めた農業専門学校もあり、さらなる活用事例の拡大と波及効果が期待されます。
      

プロジェクト終了後を見据えて 

養蜂指導の様子

プロジェクトでは、単に「手引書」を印刷して配布するだけでなく、事業終了後も、モンゴル側で増刷・改訂できるよう、農牧省と手引書データの譲渡契約を取り交わし、普及部門を有するRDセンターがデータ管理や改訂を担うこととしました。さらに、モンゴルで今後も養蜂技術の開発普及が独自に継続されるよう、RDセンター職員に加え、養蜂家リーダーや養蜂関連NGOの幹部、獣医薬研究所ミツバチ研究室の研究員、獣医をトレーナー候補者として集め、相互研修を行うとともに、情報共有のグループを立ち上げました。彼らには、「手引書」の内容について議論、提言してもらい、「手引書」作成にも参加してもらいました。また、新しい技術の実証試験には、モンゴルの研究機関のほか養蜂家にも参加してもらい、その有用性や受入れやすさを確認しました。こうした活動は「手引書」の普及に役立ち、プロジェクト終了後の持続性確保につながるものと期待しています。

販売指導(展示会への参加)

新型コロナウイルス感染症の影響により、長期に渡り現地活動が著しく制限されたことにより、対象グループの技術向上も計画通りに進まない場面もありましたが、コロナ禍でも研修を継続できるよう動画を製作・配信したことにより、多くの養蜂家に研修機会を提供できました。25本の研修動画は「手引書」の付属教材と位置づけられ、技術への理解を深めるツールとなりました。活動制限を少しでも解消するため、他のドナーやJICA技術協力プロジェクト「農牧業バリューチェーンマスタープランプロジェクト」および「公務員獣医師及び民間獣医師実践能力強化プロジェクト」と連携し、ハチミツ生産工程管理の導入や輸出のための食品安全モニタリング体制の整備、また獣医師への養蜂分野研修を行う等、養蜂環境の整備に取り組んだことも、「手引書」のさらなる活用や定着に良い影響を与えてくれると思います。

これまで草の根技術協力事業で実施した2つのプロジェクトは、モンゴル養蜂産業の基盤を整備するものでした。プロジェクトを通じて、ミツバチ研究室や専門学校養蜂コースが活動を始め、獣医の養蜂への関与が確保され、養蜂の教科書となる「手引書」ができました。様々な組織やプロジェクトが養蜂産業に協力する環境も、整いつつあります。

養蜂産業が地方を豊かにする未来がすぐそこまで来ています。皆さんもぜひ、モンゴル養蜂関係者の頑張りを応援してください!
(プロジェクトのFacebookページから、これまでの活動風景やニュースレター等ご覧いただけます。)
   
報告者:JAICAF 西山 亜希代