【千葉県松戸市×ドミニカ共和国】奇跡のプロジェクト!インタビュー 第1回

日本の自治体が行う国際協力!現場の声とは?

2023年1月27日

千葉県松戸市の草の根技術協力プロジェクト

2021年からJICA草の根技術協力事業でドミニカ共和国にて「日本梨をラ・クラタ地区の特産品にする産地形成プロジェクト」を行っている松戸市。
JICA千葉デスクの木村が、プロジェクトを進める松戸市経済振興部国際推進課長の中村健二さんからお話を伺いました。

【画像】   
草の根技術協力を担当する松戸市 経済振興部 国際推進課のメンバーと、中村課長(左から2番目)、現地調整員の出沼さん(左から3番目)、日本梨専門家である田中さん(左から4番目)、通訳の米崎さん(一番右)

千葉県松戸市とドミニカ共和国の出会い

JICA千葉デスク・木村(以下、木村):
そもそも、ドミニカ共和国での梨栽培指導はどのようにはじまったのですか?

中村課長:
2015年に34か国の駐日大使館公使を招き、松戸市の魅力を伝える視察ツアーを開催しました。その時、ドミニカ共和国大使館公使が梨の味を気に入ったそうで、「ドミニカ共和国でも育てたい」とお声がけくださったのです。
最初はどれほどの温度感かがわからず戸惑いましたが、松戸市観光梨園組合の人たちと、ドミニカ共和国の気候や農作物のことを調べていくと、洋梨がなっていることがわかり、和梨もなるかもしれないことがわかったのです。それから話が進んでいき、ドミニカ共和国から梨栽培について研修員を受け入れたり、梨の専門家を派遣したりして、プロジェクトができていきました。
そしてこの関係から、松戸市が東京オリンピックのドミニカ共和国のホストタウンに登録されました。

木村:
梨がドミニカ共和国と松戸市を結んだのですね!ちなみに、自治体として取り組むにあたって、このプロジェクトは松戸市にとってどのような利点があるのでしょうか?

カウンターパート農地庁長官による梨狩り&試食

中村課長:
このプロジェクトは、ドミニカ共和国側と松戸市側、双方の課題解決の手段になりうると考えています。
松戸市では15年前は72あった梨園が、今では47園になっており、特産品の梨栽培技術の伝承に課題がありました。
ドミニカ共和国では、リゾート関連で働いている一部の人以外は収入が少ないと聞きました。
このプロジェクトでドミニカ共和国に梨栽培技術の伝承を行うことで、松戸の梨の美味しさや栽培技術を広められるとともに、現地農家さんの収入向上にもつながり、人々の繋がりも増え、win-winであると考えています。
日本式に土づくりから行い、実がなって、皆で「美味しいね」と言いながら食べることで、国を超えて人の繋がりも深まるといいな、という願いもあります。

草の根技術協力への申請に向けて

木村:
松戸市の技術を生かした国際協力でもあり、自治体の課題も解決できて、ぴったりですね。では、どのようにJICAの草の根技術協力に応募するに至ったのでしょう?

中村課長:
このプロジェクトは2016年に始まりました。
千葉大学園芸学部名誉教授の近藤悟先生や松戸市観光梨園組合連合会の髙橋会長をはじめとする多くの方々、そしてドミニカ共和国農地庁の方々に知恵を借りながら、ドミニカ共和国内での実証を行う地域選びや関係づくり、そして市内の梨園にてドミニカ共和国で育つ可能性の高い品種の選定を行い、2018年には現地に苗木を送り、植樹をしました。
年2~3回、専門家を現地に派遣し、育成状況の確認や指導を行った結果、2019年には5個、2020年には17個の梨を収穫することができました。
しかし、ドミニカ共和国では政権交代があると、役所や省庁の職員も変わってしまうため、協力者がいなくなってしまうこともありました。そのため、前回の視察では大丈夫だった苗木が、次の視察ではダメになってしまっていたり…。
そこで、政権に左右されない工夫が必要だと思い、外部要因の多い課外での事業に精通しているJICAの草の根技術協力事業に申請しようということになりました。
しかし、申請書を書くのは初めてですし、36か月のプロジェクトスケジュール作りも今思えば浅く、1回目の申請は不採択。
「草の根の申請は3回目までに合格できないと、今後も合格できない」という噂も聞き、次で絶対に合格するためにスタッフとともにJICAの研修やコンサルティングを受け、できることは何でもやりました。
これまでかかわっていただいた多くの皆様の協力があり、2年かけて準備し、2021年、2回目の申請で採択されました。

【画像】   
首都サントドミンゴの農地庁におけるキックオフミーティング。写真前列左から3番目が中村課長。

コロナ禍でのプロジェクト

木村:
新型コロナウイルス(以下、コロナ)による影響もあったかと思いますが、現在プロジェクトはどのような状況ですか?

中村課長:
コロナにより、現地に専門家を派遣できない期間が続きました。
その間は、市内観光梨園や日本・ドミニカ共和国友好親善協会、千葉大学園芸学部の方々と、机上でできることを進めていました。
また、現地とは写真や動画のやり取りで育成状況を確認・指導をしていました。その甲斐あって、コロナ禍でも梨は実をつけてくれていました。
そして状況も落ち着いてきた2022年5月からは長期で専門家を派遣し、現地に滞在し栽培指導を行っています。現地での指導については、専門家から生の声を聴いてみてください(part2)。

自治体ならではの問題と利点

木村:
順調に進んでいるようですね!では、プロジェクトを行っている中で自治体として大変なことはありますか?また、自治体だからこそやりやすいことなどはありますか?

中村課長:
自治体職員は、このプロジェクト専任ではないので、普段は別の業務も行っています。専任だったら素早く対応し集中的に対応できるけれど、そうはいきません。梨の専門家を現地に派遣するときも、公務の都合により毎回同行できないので、同行者を確保するのも大変です。
逆に、自治体ということで関係者探しは有利かと思います。本プロジェクトにも、多くの方に協力していただいています。また、市の広報紙があるため、それを通じて市民にも発信しやすいというのも利点だと思います。

木村:
確かに元々の業務の傍ら、プロジェクトも進めていき、海外出張をするのは大変ですね...。ただ、自治体だからこそ協力者も探しやすいという強みを生かし、専門家や現地調整員の方々に現場でのプロジェクトを進めてもらうというのは見事な連携です。インタビュー記事part2では、現地で直接梨栽培指導に当たる専門家や現地調整員の方にお話を伺いましょう。