高校生と“多文化共生”を考えたい!~SDGs研修をいかした実践授業~

最近何かと耳にすることの多い多文化共生という言葉。でもそれはどのようなものか、説明できますか?そんな“多文化共生”を高校生と考える授業を実践した板橋有徳高校の遠藤先生の授業をインターンの岡本がご紹介します。

2023年2月3日

多文化共生のためにはどのような工夫が必要ですか? 

板橋祐徳高校での遠藤先生による授業

この授業の始まりに遠藤先生は生徒に「多文化共生のためにどのような工夫が必要ですか?思いつくことを書いてみてください。」と呼びかけます。みなさんはこの問い、すぐ自分なりの答えを用意できますか?私もぼんやりとは思いついても、はっきりと答えを出せるかというと出せません。
周りの生徒を見渡すと、生徒も同じようになかなか筆が進まない様子。多文化共生という言葉のイメージはできても、実際に言葉にするのは難しいようです。この後実際の事例を学びながら考えると、ぼんやりとした“多文化共生”が、少しずつ、高校生の中に形作られていきました。

外国人集住団地 芝園団地の事例を考える

埼玉県の川口市の芝園団地は1978年にできた賃貸住宅。高齢化で日本人住民が減少する中、現在の住民の半数以上が子育て世代の在住外国人という団地で、かつてこの団地では騒音問題やごみ問題など多くの課題が生じていました。今年度の「教員のためのSDGs研修」では、実際に芝園団地を訪れ、自治会長として課題の解決に取り組まれる岡崎さんの話を伺いました。「多文化共生という言葉は決して、外国人と日本人を対象にした言葉ではありません。日本人同士だって共生できていますか?」と話をされる岡崎さん。在住外国人と在住日本人との間で多くの課題に取り組んできた岡崎さんの言葉は、多文化共生を考えるヒントを私たちに与えてくれました。

この授業は岡崎さんの研修でのお話と著書を基に、芝園団地で実際に起きた3つの課題「ごみ問題」「騒音問題」「臭い問題」について考えていく授業を展開しました。

クラスを小さな班に分けそれぞれ担当する問題について、岡崎さんの著書から情報を得て話し合っていきます。
分別がされていないごみや粗大ごみがそのまま放っておかれて迷惑だという声。
住民の話し声がうるさい、特に中国人の話し声はうるさいという声。
夜遅くまで子どもが遊び、叫び声や足音がうるさくて耐えられないという声。
エスニックな臭いが換気扇から臭うと嫌になる、気分が悪くなるという声。

芝園団地での問題を話し合う生徒たち

実際の芝園団地でおきた事例を生徒たちは話し合います。
「郷に入っては郷に従え だから外国人はルールを守るべきだ。」
「日本のごみの捨て方は、非常に難しいと思う。外国人にわかるのかな?だれか教えるのかな?」
「子どもの遊び声がうるさいのは、子育て世代が多いからだろう、それって外国人だということと関係あるの?」
「中国語はうるさいっていうけれど、発音やアクセントが違ったりすることも原因?」
「エスニックな臭いは毎日嗅いだら気分が悪くなるかもなあ、換気扇の位置は適切なの?」

問題の話し合いを通じて、生徒たちに問題の対立構造まで考えられる生徒が見られます。
中国語がうるさく聞こえるのは、「言語文化」の違いから生じているから、まずそこを知ってから対処するほうがいいと話す生徒や、騒音問題は必ずしも、日本人-外国人という問題ではなくて子育て世代とそうでない世代の感じ方の違い、つまり互いの「境遇」の違いから生まれるのではと考える子も。お互いに話し合うまでは、芝園団地の問題は日本人-外国人という認識だった生徒も、「文化」や「境遇」の違いによって生まれる問題であると考え始めます。
岡崎さんが話される「日本人と外国人という概念を超えた、『良いお隣さん』としての共生を目指す」というゴールに大切な視点が培われる授業になったようです。
この授業の最後に遠藤先生は「多文化共生のためにどのような工夫が必要ですか?思いつくことを書いてみてください。」と授業の最初と同じ問いを生徒に与えます。すると多くの生徒がすぐにワークシートに自分なりの意見を書くことができていて、授業を通じて自分なりの“多文化共生”が高校生たちの心に生まれたようでした。

生徒の通う板橋区でも“多文化共生”を

実際の授業での生徒の記述。段々と“多文化共生”を考えられるようになっている様子が伺えます

授業で芝園団地の事例を考えることを通じ、異なる文化や相手の立場への想像力を膨らませた生徒たち。その問題へ対応するためのアイデアを考え、発表する活動に繋がっていきます。生徒が通う板橋区も在住外国人が多い地域として知られています。この授業を行った遠藤先生は「高校生はもうすぐ社会に出て一人で歩きだしますよね。その時に壁にぶつかることもあると思っていて、その一つが『異文化』だと思います。職場や地域で異文化を理解できないと日本社会が発展していきません。だから異文化を理解することが大切だと思い、多文化共生をテーマにして授業にしたんです。」と話をされていました。

研修の中で岡崎さんは「郷に入っては郷に従え、というが、その郷を日本人は明確に理解して、説明ができるのでしょうか?」と話されていました。今後増加が予想される在住外国人に、『郷』のルールを押し付ける前に、私たちが『郷』について理解するとともに、在住外国人が持つ文化や境遇も理解し、一緒に『郷』を作っていくこと。それが多文化共生社会といえるのかもしれないと思いました

報告者
JICA東京市民参加協力第一課 インターン 岡本祥平