絆 ~パラグアイでソーシャルビジネスを立ち上げた日本人~

2022年6月1日

【画像】5月16日、東京都立千早高校のソーシャルビジネス探究クラスは、パラグアイの木工工房「パロサント・ミドリ」の立川夫妻の講義に熱心に耳を傾けていました。

等身大の起業家からまなぶ 

 英語とビジネスを重視している専門高校、都立千早高校の探究をデザインするのは、藤井宏之教諭。藤井先生は、2019年にJICA東京の教師海外研修パラグアイコースに参加しました。

【画像】 パラグアイは、約700万人の人口のうち1万人が日系人。多くの日系移住地があり、2世、3世の世代にも日本文化が継承されています。大豆やゴマといった基幹輸出農産物の生産など、様々な分野で多くの日系人が活躍しています。研修では、ラパス移住地の訪問、日本の国際協力の現場の訪問などを通じ、パラグアイに対する理解を深めました。訪問先のなかでも特に藤井先生の心をとらえたのが、パロ・サントという香木の端材を使った木工の工房「ミドリ」を主宰する立川夫妻の活躍でした。ソーシャルビジネスを起業することを夢見る千早高校の生徒たちに、是非、立川夫妻の生の声を届けたいと考えました。コロナ禍で帰国ができない日々を経て、やっと実現した講演では、等身大の起業家の言葉が高校生の心をとらえていました。

一番大切なのは絆

【画像】 立川さんがパラグアイに移住したのは2013年、長岡造形大学を卒業してすぐのことでした。2015年に結婚し、妻のいずみさんと共にパロサント・ミドリを立ち上げたのが2017年。苦難の時期もありましたが、常に最優先に考えてきたのが工房の仲間との絆、チームワークだと言います。工房のメンバーは、日系人のみならず様々なルーツを持つ仲間たちです。それぞれの考えや文化を理解し、尊重し、みんなが楽しく働ける方法を模索するうちに、安定した売り上げを出せるようになってきました。パロ・サントは成長が遅く、資材として使える大きさになるのに数百年かかっていることもある固くて重い貴重な木ですが、その端材は廃棄されていたところに立川さんは注目しました。最初に作ったのは日系社会にも需要のある箸。その後、パラグアイの人々の好みを研究し、パラグアイ伝統刺繍のニャンドゥティをあしらった扇子や、宗教絵画のモザイクなど様々なヒット商品を生み出しました。最近では産業展で大統領夫人の目に留まり、注文を受けるまでになったそうです。
 また、昨年からは大手設計会社の現地調整役を任され、パラグアイに日本的造園や建築をデザインしている他、日系ビジネスニュースの発行も手掛けています。

日本の伝統文化でパラグアイを表現したい 

 妻のいずみさんは、2018年から、パラグアイで最初の切り絵作家として活動しています。結婚して移住、慣れない土地で自分にできることを模索し、日本の伝統文化である切り絵を自主制作してきましたが、依頼制作も徐々に増え、展示会や、切り絵を紹介するワークショップを開催することもできるようになってきました。スペイン語もままならないまま移住してきたいずみさんを、パラグアイの人々は温かく迎え入れ、隣人としてサポートし続けてくれました。「大好きなパラグアイを切り絵で表現したい」と制作した作品が大手のファッションブランドの目に留まり、ドレスのデザインに採用されるまでになりました。 

夢をおいかけて

 「夢を追いかけて起業した人から、生のお話を聞けたのは初めてで、感動しました」「スペイン語を話せるようになるまでにも、リーダーとして人を動かせるようになるにも、きっとたくさんの大変なことを乗り越えてこられたと思うけれど、とても楽しそうに仕事をしていらっしゃるのが印象的でした」「自分もこれまで以上に周りの人を大切にしようと思った」「ミドリの製品も切り絵も繊細で素晴らしいデザインで、本当に素敵だと思った」「パラグアイはあまりよく知らない国だったけれど、日本と深いつながりがあることが分かった。いつかきっと行ってみたい」高校生の皆さんからは、あふれるような感想が寄せられました。
教師海外研修で生まれたつながりを、大切に育ててくださった藤井先生。今日の出会いが、将来の起業家たちの背中を押す力に、きっとなるかもしれない、そう感じることができた講演会でした。


<報告者>市民参加協力第一課 古賀聡子