【9月20日はバスの日】 信頼される日本のバスサービスが、アジアから東欧、アフリカへ広がる

2021年9月17日

日本で乗り合いバスの運行が始まったのが1903年9月20日。それを機に日本ではこの日を「バスの日」と制定しています。

地域生活に密着した交通手段のバスには、運行管理や車両メンテナンスなど、安全な運行のために数多くの技術が使われています。そんな日本の知見を活かしたJICAのバスサービス事業への協力は、アジア諸国からスタートし、近年は東欧やアフリカにも拡大。環境配慮やICT技術の活用など時代を反映したニーズの変化にも対応しながら、バスサービス事業の改善を図っています。

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2003年、日本からセルビア共和国・ベオグラード市に寄贈された“ヤパナッツ(日本バス)”は今も現役で市内を走ります

東欧のサラエボ、ベオグラードで、市民の足として親しまれるバスをもっと便利に

「日本では当たり前の安全性や、時間通りにバスが来るといったことが、途上国ではまだまだできていません。日本のバス事業者が持つ、きめ細やかなサービスや運営ノウハウを共有したいと考えています」

そう語るのは、現在、東欧サラエボとベオグラードで、バス事業の改善プロジェクトを担う八木貞幸専門家(アルメックVPI)です。ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボでは2020年10月から、公共交通のマネジメント能力の改善や、利便性向上などを通して、現地の公共交通利用の促進を目指すプロジェクトが始まっています。

サラエボのトラム。軌道整備の遅れや古い車両の整備不足など、現在は多くの課題があります

「サラエボ県はボスニア・ヘルツェゴビナで最大の県で、その公共交通機関はバス、トラム、トロリーバスなどで形作られています。しかし、車両や軌道の整備が十分に行われていないことや、公共交通全般の経営難によりサービスレベルが低下する問題を抱えています。サービス改善に向け、まず現地の交通データを把握分析し運行計画を策定、公共交通事業者の体制の見直し、さらには、車両位置情報システムの提案などを今後進めていく予定です」と八木専門家は述べます。

西洋と東洋の文明が融合した魅力的な都市サラエボには、新型コロナウィルス拡大前には、多数の観光客が訪れていました。そのため、将来的には、観光客が利用しやすい公共交通システムとなることも目指しています。複数の交通モードから最適なルートを検索し、一括決済が可能なMaaS(Mobility as a Service)など、利用者にとって便利なシステムの導入も今後検討していきます。

市内のバスの運行状況をモニターで確認するセルビア・ベオグラード市公共交通部職員とJICAプロジェクトチーム。ICT技術を活用し、モニタリングの効率化を図れないか、議論します

また、セルビア共和国の首都であるベオグラード市では、バス、トラム、トロリーバスが市民の重要な移動手段ですが、人口増加に対して交通・路線計画の整備が追いついていません。そのため、2020年11月から、「ベオグラード市公共交通改善プロジェクト」が始まりました。

まず、交通需要調査を実施して、乗客のニーズに応じた路線計画を作成します。必要に応じた車両や施設の整備を進めるためには運賃収入の確保も重要です。ベオグラード市の公共交通が抱える運賃収受の低さといった課題解決に取り組むと同時に、環境配慮型の公共交通の導入促進の協力を進めます。

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セルビア共和国・ベオグラード市を走るトロリーバス。路線計画の策定や運賃収受を確保するための計画づくりが進められています

始まりは東南アジアでの取り組み。整備後の運営協力が成功の鍵

JICAのバスサービス事業への協力が各国に拡大している背景には、東南アジアでの成功実績があります。

カンボジア・プノンペンのバス公社整備士に向けた車両維持管理トレーニングの様子。工具の適切な管理方法も指導します

ラオスのビエンチャンでは2011年に、大型バスの供与を行うとともにバスの運行改善に主眼を置いたプロジェクトを開始。バスを運行する公社の運営体制を強化するほか、運行ダイヤの最適化や路線計画、運賃制度の改善に関する施策を行い、市のバス事業収支の改善に成功しました。

カンボジアのプノンペンでは、2017年にバス車両80台を提供することを出発点に、GPSデータを活用してバスの利便性を高め、バス車両の維持管理手法の指導も実施しています。

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2017年、カンボジア・プノンペンに寄贈された日本のバス車両。アジア諸国での成功実績が東欧やアフリカへの拡大の原動力となっています

これらの東南アジアの事例で、日本の取り組みが評価されているのは、車両の供与やシステムの導入のみではなく、事業の運営にも協力を続けた点です。そのほか、市民へのヒアリングなどを通じて、利用者のニーズに応じた展開を続けたことも、高い評価につながっていったといえます。

このような、バスを中心とした公共交通の改善に向けた取り組みは、現在、アフリカにも広がっており、今後 ケニアのナイロビ市などでバスサービスの質の向上を目的とした協力が予定されています。

これまでさまざまなJICAのバスサービス改善に向けた事業を担当した関陽水専門家(アルメックVPI)は、「運輸交通分野における協力で日本に期待されていることの一つが、質の高いインフラ整備です。それは、単にバス車両の提供や路線の設置だけで達成されるものではありません。バス事業の運営までも含めた都市交通の総合的な改善が望まれているのです」と強調します。

都市や人口の規模に応じ、公共交通インフラを適切なタイミングで導入—バスが果たす役割とは

バスサービスの改善に向けた途上国からのニーズには、時代に対応した変化がみられます。今後の取り組みについて、社会基盤部運輸交通グループの中園美羽職員は、次のように話します。

「途上国の交通課題への協力は、都市や人口の規模に応じた公共交通インフラを適切なタイミングで導入することが重要です。例えば鉄道の整備には計画から開業まで何十年もの時間を要します。その間、途上国では日に日に人口や自動車は増え、交通渋滞は悪化していきます。自動車社会への転換をできる限り食い止めるためにも、多くの国で馴染みのあるバスのサービスを向上させて、市民に利用を促すことはとても大切です。また、最近は、途上国自身で、ICTやデジタル技術の活用や電気バスやCNGバスなどの新しい交通システムの検討を始める動きも出てきています。今後は日本や先進国を飛び越えて、途上国での経験や好事例が日本に逆輸入されるようなこともあるかもしれません」