さらなる飛躍に向けて:JICA筑波、40年目の挑戦(後編)

2021年3月19日

刻々と変化する地球・世界・途上国の状況と課題に対し、JICA筑波が果たすべき役割とは?日々、この問いを胸に、新たな国際協力の姿を模索するJICA筑波。前編に引き続き、新たな取り組みにJICA筑波とともに関わるお3方に、今後の目標、JICA筑波への期待をお寄せいただきました。JICA筑波所長の結びのメッセージとともに、40周年記念連載を締めくくります。

【メッセージをお寄せいただいた方々】
山口浩司(やまぐち こうじ)さん(NPO法人国際農民参加型ネットワーク)
荒川英孝(あらかわ ふさたか)さん(株式会社三祐コンサルタンツ)
野口伸一(のぐち しんいち)JICA経済開発部課長

(注)お3方の略歴は前編でご紹介しています。

開発途上国の課題解決と日本企業の海外展開をWIN-WINで後押しできるJICA筑波:可能性は広がる

山口:

私が担当するアフリカ地域の技術者・行政官を対象とした「アフリカ地域農業機械化促進」研修は、2020年度、初めて完全オンライン形式で実施しました。東西アフリカの時差の関係で、研修を日本時間の18~21時に設定したり、良好なインターネット環境を得るため、各国のJICA海外オフィスに支援を求めたり、といった試行錯誤の連続でしたが、なんとか滞りなく研修を終えることができました。

研修では、アフリカで農機販売実績を有する企業以外にも、自社製品のアフリカでの運用可能性を検討中の日本の農機メーカーにも登壇いただきました。参加企業からは、「現地に行かなくても、アフリカ各国の農作業状況を知ることができ、関係者に製品紹介もできる!」というポジティブな感想をいただきました。JICA筑波の研修施設では、稲作(水稲・陸稲)、野菜栽培に関する研修が実施され、耕うん、整地、播種あるいは移植、収穫調製作業などでは日本の農業機械が使われています。海外進出を検討する企業にとっては、途上国の現場に足を運ばなくても、研修をビジネスマッチングの場として活用できることは魅力なのでは、と思いました。

JICA筑波には、機械性能の実証・実験が可能な施設・圃場を存分に活用し、日本の農業機械メーカーなど民間セクターの海外進出と、途上国の農業の課題解決をWIN-WINで後押ししていただくことを期待します。私も、このような新たな潮流を取り込み、よりよい研修を企画・実施することに貢献していきたいです。

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実習をオンライン中継するための撮影準備。手元が明るくなるように照明を工夫

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研修内で、農機メーカーが自社製品を、アフリカの研修員に紹介している場面

ポスト/ウィズコロナの国際協力-JICA筑波の「強み」を生かすことで多様な農業人材の育成に繋げてほしい

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開発途上国の現場で活躍する農業分野の専門家を対象にした研修の様子(JICA筑波との共催)。複数の「病害診断アプリ」を試行しました。

荒川:

アグリテック(農業とテクノロジーの組み合わせ)の普及について(注:前編参照)、「インフラが整っていない開発途上国の農村地域でデジタル技術を活用するのはハードルが高いのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし開発途上国では、新しい技術やサービスが、過去の手法や先進国が歩んだ開発プロセスを一足飛びに飛び越え、課題解決につながる「リープフロッグ現象」と呼ばれる事例が起きています。また、最初は開発途上国で生み出された技術・サービスが、数年後に先進国で活用される「リバース・イノベーション」という事例も出始めています。

私自身も、ICTを使って、農業経験は少ないけれど地域の発展を志す開発途上国の若者たちに、遠隔で農業指導をしてみたいと思っています。いずれは、日本の農業経営者と開発途上国の農業者をオンラインで繋ぎ、農業技術支援をプロデュースするようなことをしてみたいですね。

「食の安全」や環境に配慮した「持続可能な農業」が重要だということが、国や業種を超え認識され始めてきた昨今。2020年からのコロナ禍の影響で、生産品だけでなく農業・農村開発に携わる人々の交流も分断されてしまいました。今後は、ポスト/ウィズコロナを見据えた新しい国際協力の構築が求められるのだと思います。このような変革期だからこそ、JICA筑波には、新しい技術や人材育成のプラットフォームの役割を担ってほしいと思います。実践的な研修が可能な施設、長年積み重ねられた研修事業のノウハウ、そして研究学園都市(つくば市)と農業県(茨城県)という立地、といった「強み」があると思います。新たな農業人材を育成し、既存技術と新技術をベストミックスできる拠点であり続けてほしいです。私たち開発コンサルタントも、現場のニーズに基づき、新しい技術にキャッチアップし続け、協力していきたいと思います。

「日本の民間企業×アフリカの農業、JICAが橋渡し役を!」

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農業機械の導入は各国で進んでいるが、課題も山積(写真はギニア)

野口:

JICAとしても、アフリカの農村開発事業では、日本の民間企業にぜひ活躍いただきたいと思っているところです。特に、荒川さんがご指摘の「農業におけるデジタル化の推進」は重要です。アフリカでもスマートフォン普及率が60%を超える国が出てきているので、生産者が使いやすく、買い手もアクセスしやすい電子商取引ができる基盤(プラットフォーム)を構築できないかと考えています。また、山口さんが進めてくださっているような「農業の機械化促進」も必要です。サブサハラアフリカ地域の人口は急激に増加していますが、穀物自給率は逆に低下しており、土地や農村の労働力にも限りがあります。この課題の解決策として考えられるのが機械化です。JICAは日本の企業とタッグを組み、日本の農業機械による生産振興を進めるプロジェクトを実施しています。

とはいえ、正直なところ、「アフリカ進出のハードルは高い」と民間企業の方々に言われることも多くあります。このような民間企業の声に対し、必要な情報を適時に提供し、橋渡しをすることがJICAの担うべき部分と考え、現在「日本・アフリカ農業イノベーションセンター(仮称)」の設置を検討しています。このセンターが機能するために、JICA筑波との連携は欠かすことができません。イノベーションセンターで得た情報を、JICA筑波を通じて日本の民間企業へ伝え、逆にJICA筑波を中心に集約した日本企業の情報を、イノベーションセンターを通じて現地に提供する、という仕組みを考えているからです。また、実際にアフリカのイノベーションセンターで把握したニーズ・実情に合わせ、JICA筑波で研修を実施し、日本の企業と研修員の接点を設けることもできれば、と考えています。40周年の節目を迎え脂ののったJICA筑波には、ますます世界との橋渡し役を期待しており、協働をより強化したいと思っています。

40周年記念連載締めくくりに寄せて(JICA筑波所長)

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渡邉所長と40周年記念連載企画メンバー(2021年3月・JICA筑波にて)

JICA筑波は、40年間の実践的農業研修の歴史を踏まえつつ、同時に時代のニーズに応じて民間セクターとの連携強化やICT、DXの活用に努めています。コロナ禍は続きますが、危機をチャンスととらえ、研修員や留学生、これまでJICA事業に参加してくださった人々を繋げられる新たなプラットフォーム構築の可能性を広げたい、と考えています。

今回の連載を通じ、JICA筑波40年を支えてくださった方々からいただいたアイデア、ご意見を生かし、「農」を核とし、日本の地域と途上国をつなげ、広げる取り組みを続けてまいります。

これからもJICA筑波へのご支援をどうぞよろしくお願いいたします。

参考リンク