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巨大IT企業Googleのスタートアップ支援プログラムをJICAがサポートした。起業家の事業成長を助け、スタートアップを支援するCrewwと連携して、持続可能な発展に向けたイノベーションの創出を目指すこの「Global Sustainability Accelerator」*プログラムは、どんな成果や気づきを生み出したのか。プログラムの主催者、JICA、そして参加したスタートアップ2社、それぞれの視点から探る。
*Global Sustainability Accelerator
サステナビリティを推進する日本のスタートアップのグローバル展開を支える6カ月間のアクセラレータープログラム。Googleのスタートアップ支援部門Google for Startupsと、国内最大級のオープンイノベーションプラットフォームを運営するCreww株式会社が主催し、JICAが後援した。第1回となる今回のプログラムは、2023年3月~8月にかけて開催された。
Global Sustainability Accelerator (creww.me)
それぞれ異なる立場からGlobal Sustainability Acceleratorについて振り返った。(上段左から時計回りに) JICA地球環境部大塚高弘さん、Creww株式会社加藤健太さん、株式会社Sunda Technology Global坪井彩さん、株式会社イノカ竹内四季さん
参加者紹介
加藤 健太
Creww株式会社 社長室 Director
Global Sustainability Acceleratorの運営を統括
Creww(クルー) - 大挑戦時代をつくる。
坪井 彩
株式会社Sunda Technology Global 代表取締役 CEO
Global Sustainability Accelerator参加スタートアップ
井戸の維持管理を可能にする料金回収システムを製造・販売
SUNDA|アフリカの水問題をものづくりで解決する会社
竹内 四季
株式会社イノカ Chief Operating Officer
Global Sustainability Accelerator参加スタートアップ
都市空間で海や川の研究ができるように「環境移送技術」を研究開発
株式会社イノカ 環境移送企業 -自然の価値を、人々に届ける
大塚 高弘
JICA地球環境部水資源グループ
Global Sustainability Acceleratorで、水資源・水供給分野に参加したスタートアップの取り組みを支援
途上国での課題解決もターゲットに。類を見ない取り組みだ
大塚
JICAがGoogle、そしてスタートアップを支援するCrewwと連携、と聞くと意外に思う方もいるかもしれません。JICAはさまざまなパートナーと共創する中、今回は、Google for Startups とCrewwが主催したスタートアップ支援プログラム「Global Sustainability Accelerator」をサポートしました。まずは、Crewwの加藤さんに、あらためてプログラムが始まった経緯について伺います。
加藤
Crewwは、「大挑戦時代をつくる。」というビジョンを掲げ、主にスタートアップを支援するアクセラレータープログラムの運営事業を行っています。今からちょうど2年ほど前、グローバルな活躍を目指す日本のスタートアップへの支援を強化したいというGoogle for Startupsと一緒に、新たなアクセラレータープログラムを展開することになりました。支援するスタートップの活動領域をESG(環境・社会・ガバナンス)分野に絞り込む中、「途上国もターゲットに社会課題を解決できるスタートアップを対象にしよう」という方向性になったのです。当時、ESGの分野でグローバル展開を目指すスタートアップを支援するアクセラレータープログラムは、国内では非常に少ない印象を受けていました。
「このプログラムを始めた当時、Crewwは日本で唯一のGoogle for Startupsのパートナー企業でした」と言う加藤さん。
大塚
収益性の確保やサステナビリティの観点から、事業の展開先を途上国とするのはハードルが高い面があるかと思います。プログラムを設計する中で、CrewwとGoogle、どちらも懸念はなかったのですか。
加藤
途上国も攻めていきたいという思いは、我々もGoogle for Startupsも持っていたのですが、これまで途上国で事業を展開するスタートアップとの連携事例がほとんどなく、ネットワークもありませんでした。そこで、途上国での事業経験が豊富なJICAとの連携を考えたのです。プログラムに参加するスタートアップの事業分野においても、JICAが強みを持つ分野を念頭に、「電力」「食料保全」「水資源・水供給」の3つとその他にテーマを絞り込みました。
大塚
まさしくJICAが行っている主要な開発協力分野です。JICAは139の国と地域(2022年度)で約1700件の開発協力プロジェクトを実施しています。そのネットワークをスタートアップのみなさんにも活用してもらいたいという思いを持っているので、今回の連携はJICAにとってもぜひ挑戦したいことでした。
加藤
6カ月間のこのアクセラレータープログラムでは、選考を経て参加したスタートアップ10社が海外の企業や自治体と契約を締結できることを目的としていました。ワークショップや海外での事業導入先の開拓などを支援し、結果として、16カ国・地域で、地方自治体など27の現地パートナーや、現地企業20社にリーチすることができました。そして、実際に4地域で事業契約が締結され、現在も6地域で協議が継続されています。またプログラム期間内に資金調達を行ったスタートアップは10社のうち、7社も生まれており、その支援活動も一部行っていました。JICAの現地事務所にもさまざまにサポートしてもらいました。
「Global Sustainability Accelerator」プログラムの成果を発表するDemo Dayに参加したスタートアップのメンバーら
グローバル展開に向けた大きな一歩に
大塚
次に、参加したスタートアップの立場から、プログラムを振り返ってもらいましょう。今回は「水資源・水供給」の分野で事業を展開する2社に来ていただきました。まず、イノカの竹内さん、プログラムに参加した経緯や手ごたえを教えて下さい。
竹内
イノカは、「環境移送ベンチャー」です。普段見ることができない海の中の海洋生態系を陸上の水槽の中で再現する「環境移送技術」を用い、さまざまな研究開発や教育事業を展開しています。我々が取り組んでいる大きなテーマの一つが東南アジアで深刻化しているサンゴ礁の生態系保全です。フィリピンやインドネシアなどを中心とした海洋エリアは「コーラル・トライアングル」と呼ばれ、地球上の半分以上の種類のサンゴが生息しています。
生態系の保全に向け、例えば、ある薬剤が有効かどうかを調べたくても、いきなり海に投入はできない。取り返しがつかないことになる可能性があるからです。そんな時、まったく同じ生態系を再現した水槽の中で効果を試すことができます。このような我々の技術を活用した事業を東南アジアで展開していきたい、そのための一歩に向け、今回のプログラムに参加しました。
投資家への英語でのプレゼンテーションに向けた準備から、欧米やアジアの多国籍企業に向けたアプローチまで、こんなに丁寧に指導してもらえるとは思っていませんでした。JICAのインドネシア事務所には現地の研究機関や政府が海洋生物多様性についてどのような取り組みをしているのかといった情報をもらい、グローバルに展開するための基礎固めができました。実は今年、マレーシアを拠点にイノカ・アジアを設立する予定です。
イノカの環境移送技術を用いて、水槽の中で再現されたサンゴ礁の生態系。
加藤
プログラムを経てそこまで事業を進めているとは。本当に嬉しいです。
竹内
また、太平洋に浮かぶ島国パラオでは、海洋生物多様性に注力する中、日焼け止めクリームの使用規制があります。我々の技術でさらに科学的なデータを示すことができればとパラオ政府との取り組みを模索しています。JICA現地事務所とも連携して進めていければと考えています。
生態系を再現したラボでさまざまな取り組みができることは、海洋生物多様性における課題の解決策を探る近道になると語る竹内さん。企業や研究者をつないで社会課題の解決を図る役割を果たしていきたいと意気込みを述べる。
資金調達にもつながった
大塚
次に、もう1社のプログラム参加者、ウガンダで安全な水へのアクセス向上に向け、持続可能な井戸の管理に向けたプリペイド式自動料金回収システムを製造・販売するSunda Technology Globalの坪井さん、プログラムの振り返りをお願いします。
坪井
ウガンダの農村部では、ハンドポンプ式の井戸が重要な水源なのですが、多くが故障したまま使用できなくなっています。それは、井戸の修理費を公平にきちんと集めることが難しいからです。そこで私たちは、プリペイド式・従量課金型の自動井戸水料金回収システム「SUNDA (スンダ)」を考案しました。既存の井戸にSUNDA装置を取り付け、井戸を使用する際は、家庭ごとに配布されたIDタグを挿入すると、事前にチャージした料金の分だけ水をくめるという仕組みです。これで公平に修理費を蓄えておくことができます。ウガンダでも普及しているモバイルマネーを活用しています。
プログラムが始まる前(2023年3月時点)、ウガンダ国内に150基のSUNDA装置を設置しました。このトライアルの段階からウガンダ以外の国でも事業を展開する段階へと、資金調達に奮闘していた時、今回のプログラムを知りました。事業拡大に向けた知識も必要と感じ、アクセラレータープログラムが有効なのではと考えていた所でした。
SUNDA装置が取り付けらえたハンドポンプ式井戸。オレンジ色の箱に、各家庭に配布されたIDタグを入れると井戸が稼働し水がくめる仕組みだ。中央が坪井さん。
加藤
ちょうどタイミングが合ったのですね。坪井さんは、プログラム期間中に、資金調達にも成功しました。
坪井
資金調達に向けたプレゼンテーションなどでは、いろんな意見をもらえたことも事業内容のブラッシュアップに役立ちました。JICAのウガンダ事務所だけでなく、他国のJICA事務所の方々も参加してもらい、SUNDAを知ってもらう機会にもなったかと思います。今後もそのネットワークを活用していきたいです。
JICA海外協力隊員としてウガンダで活動したことがきっかけで、この事業を始めた坪井さん。今後10年でアフリカ全土の50%にリーチし、35万基のSUNDA装置の設置を目指す。
共に新しい価値を生み出す
大塚
JICAとしても、これまで手を付けることが難しかった課題にスタートアップと一緒に挑戦できることは本当に意義があります。このようなプログラムをきっかけに、いろんなアクターと共に新しい価値を生み出していければと考えています。
スタートアップと連携することで、難しい課題の解決に向け、新しい切り口へのヒントを得ることができる。大塚さんはJICAがこのプログラムに参加して得た気づきについて、そう語る。
坪井
参加した他のスタートアップとの横の連携を図ったり、情報交換できたりするのも財産になりました。みんなそれぞれ本気で社会課題の解決を図ることを目指しているのでマインドも似ています。
竹内
実は、坪井さんにぜひ聞いてみたいことがあります。今後、事業を他国で展開する際、現在のウガンダのやり方をそのまま横展開するようなイメージですか。
坪井
基本的な事業コンセプトは同じですが、やはり国ごとに規制や行政の枠組みが異なります。そのため、情報収集は大切です。現地のことを理解する上で、アフリカ各国のJICA事務所と情報交換できるのは有難いです。
竹内
政治や行政と紐付けて事業を展開するには、JICAとの連携は大きな意味があるのですね。
坪井
一国の政府が、身元もよくわからない小さなスタートアップを相手にはしてくれません。(笑)。最初の入り込みは本当に難しい。そんな時、「JICAから紹介された企業です」と言うと、全然違うんです。もう雲泥の差です。これまでJICAにはいろんな人につないでもらいました。
竹内
参考になります。今後、行政だけでなく、その先のネットワーク作りにも、ぜひJICAとの関係を活用していきたいです。
大塚
日本のODA (政府開発援助) は今年2024年に開始から70年を迎えました。その積み重ねが途上国でのJICAへの信頼を築いてきました。この信頼をもとに構築してきたネットワークを公共財としてこれからもスタートアップのみなさんに提供していきたいです。さて加藤さん、このプログラムは今後も継続されるのでしょうか。
加藤
今年中には第2回目のプログラムを開催する予定です。投資家へのアプローチの仕方といったレクチャーと同時に、さまざまな関係者へのつなぎをさらに強化し、より密度の高い内容にしていきたいと考えています。
大塚
JICAとしても、スタートアップの成長を支援するプログラムに参加するというのは新しい開発協力の形であり、引き続き一緒に取り組んでいけたらと考えています。また、JICAでは、「JICA DXLab」というODAのプロジェクトを基盤に、社会課題の解決に向け、スタートアップと迅速に連携する取り組みにも力を入れています。これからも、よりスタートアップ側に寄り添い、一緒に走っていきたいです。
坪井
基本的にスタートアップは、人材も資金も足りません。あるのは技術だけっていう場合も多いです。だから初期の立ち上げから伴走してもらえることほど心強いことはありません。
竹内
グローバルに展開する際、スタートアップ側に足りないのは情報です。その国特有の戦略を練るためにも、現地の事業に精通しているJICAと一緒に動けたら有難いです。
大塚
ぜひこれからも、みなさんの事業現場にあるJICAの現地事務所に足を運んでください。何か新しいきっかけにつながることもあり、役に立てるかもしれません。JICAはこれからも日本のスタートアップのみなさんが輝ける場を、多くのパートナーと共に創っていきます。
インタビューを終え、今後もぜひ連携していきましょう、と口をそろえて語る。
(取材: 2024年3月)
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