近年、包摂的・公平なデジタルサービスの提供に向けて、デジタル公共インフラ(Digital Public Infrastructure：DPI)、及びデジタル公共財(Digital Public Goods：DPG)に注目が集まっています。DPI/DPGは、持続可能な開発を支えるオープン性・拡張性・信頼性を備えた相互運用可能なデジタル基盤・ソフトウェア等を指します。DPIは、一般的にデジタルID・デジタル決済・データ連携基盤を構成要素とし、JICAでは特にデータ連携基盤を注力分野としています。また、DPGは、オープンソースのソフトウェア、オープンデータ、オープン標準など、誰でも利用できるデジタルリソースを指し、開発途上国におけるデジタル格差の解消とSDGs達成のために重要であり、DPIのコア機能・コンポーネントでもあります。

JICAは、長年のインフラをはじめとする物理的アセット・社会サービスの支援により、公共データの把握・蓄積、データ連携に必要な産官学ステークホルダーとのネットワークなど、データ連携基盤の構築・展開に役立つ強みを有しています。これらを活用して、DPI/DPGに取組んでいます。

多くの開発途上国では、政府や公共機関、民間事業者、学術機関などがそれぞれ独自にデータを保有し、かつ連携が乏しいために、有用なデータが発見されず、アクセスしにくく、また活用しづらいのが実情です。これにより、政策立案に必要な情報の不足、民間企業や学術機関による公共データ活用機会の限定といった課題が生じています。JICAは、こうした状況を改善するため、データ連携基盤の導入を通じて、産官学・組織の垣根を越えたデータの利活用を促進しています。これにより、公共サービス提供の効率化やエビデンスに基づく政策検討、民間による新たな事業・価値創出等が可能となり、人々の生活を豊かにします。また、DPIのコア機能・コンポーネントをDPG化し、様々なセクター・国での横展開を行うことで、国・地域を跨いだ持続的なインパクトの創出を目指しています。

JICAでは現在、運輸交通・気候変動・農業・行政・保健医療・電力エネルギー・スマートシティ等をデータ連携における注力分野として定めています(今後拡大予定)。まずは現状どのような利活用可能なデータがあるかを整理したうえで、データ連携基盤に必要な機能やステークホルダーの役割を定めます。そのうえで、オープンソースなどを活用しながら重要なデータを繋ぎユースケースを試行する小規模・短期間のパイロットを行い、その導入効果を検証します。そして、政府・民間企業・学術機関・市民を広く巻き込みながら、データとユースケース双方の拡張を図り、データを中心としたイノベーション・エコシステムを形成していきます。これにより、公共サービスの改善や革新的なソリューションの社会実装を促し、産業・社会の発展に貢献します。

例えばインドでは、都市交通分野において、Transport Stackと呼ぶデータ連携基盤の構築・展開を進めています。これにより、デリーバス公社によるすべてのバスのリアルタイムな状況把握、複数の交通機関が有する交通データを組み合わせた最適な乗換・経路検索、基盤上のオープンデータを用いたスタートアップによる新規事業推進などが実現しています。さらに、データを活用した交通混雑対策の政策立案、アカデミアによる都市災害研究など、データ基盤を活用することで産官学での様々な革新的取組が進められています。また、交通データモデルや乗換・経路検索のアルゴリズムなど、コアとなる機能をDPG化もしています。他にもブータンでは、4つの主要な保健医療関連データバンクと国民IDを紐づけるデータ連携基盤事業を実施しており、エチオピアにおいては農業データの連携基盤(AgriStack)のユースケースを推進するなど、様々な地域・セクターにおいてデータ連携基盤の構築・展開を行っています。

これらのDPI/DPG領域におけるJICAの取組は、デジタルの中でも先進的な取組として国際社会から注目されています。今後は、構築したエコシステムの拡充や他産業・他地域への展開を進め、得られた知見を積極的に発信して、国際開発の知の深化にも貢献していきます。詳しくは下記のリンク集をご覧ください。