「人間中心のデジタル化」研究会ケーススタディ――人間の安全保障からの視座
JICA緒方研究所について
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JICA緒方研究所では、2024年4月より「人間中心のデジタル化」研究会
を開催し、研究所内外の国際協力関係者とともに、人間の安全保障の観点から今日のデジタル化の在り方について検討を行ってきました。この研究会の成果の一つである、本ケーススタディでは、学術的な分析を基に人間の安全保障の視点から、デジタル公共基盤(Digital Public Infrastructure: DPI)、保健、教育、生活インフラの4つのセクターに着目しました。
人びとの生活に直結するサービスを支えるDPIでは、ID、決済、データ共有基盤の整備を官主導で進めたインド、民間のモバイル決済サービスの普及が先行したケニアを事例に考察しました。保健と教育は開発における重要なセクターですが、ダウンサイドリスクに目を向ける人間の安全保障の視点から危機下の対応に焦点を置き、保健では、インドとガーナにおけるデジタル技術を活用したコロナワクチン接種の取り組み、またコロナ禍のブータンとネパールにおける初中等教育を対象としたICT活用による教育継続について、それぞれ分析しました。生活インフラでは、ウガンダでのプリペイド式井戸料金回収システムとアフリカ5ヵ国の未電化地域におけるLEDランタン貸出サービスというコミュニティレベルでの画期的な取り組みを考察しました。
分析に用いる人間の安全保障の観点は、JICA緒方研究所レポート『今日の人間の安全保障』第2号概要版 に収録された、「恐怖からの自由、欠乏からの自由、尊厳をもち生きる自由」という3つの価値、「保護、エンパワメント、連帯」の3つの戦略、そして「人びと中心、包括性、文脈重視、予防」の4つの原則から成り立つフレームワークに基づきます。本ケーススタディでは、異なる4つのセクターにおけるデジタル化の事例を人間の安全保障の視点から再評価することを通じて、デジタル技術の負の影響を軽減しつつ、正の影響を高めるための教訓と必要な条件の提示を試みました。
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