日越外交関係樹立50周年記念 ハイレベル経済セミナー -未来に向けた日越経済関係の新しい可能性- 基調講演 「ODAを活用した日越協力の発展可能性」

日越外交関係樹立50周年を心よりお慶び申し上げます。JICAを代表し、皆様にお話しする機会を頂き、大変うれしく思います。

ベトナムは1986年にドイモイを開始し市場経済化を開始しました。1992年には日本の国際協力が再開し、以降、日本のODAは右肩上がりに増加しました。OECD加盟国の中で、日本はベトナムに対する最大の支援国で、対越ODA協力全体の3割以上を占め、日本の対越ODA累計総額は3兆円を超えます。JICAがベトナムの社会経済発展に向け、継続的に協力してきたことを光栄に思うと共に、それを支えて頂いた両国関係者の皆様に深く感謝申し上げます。

私は、昨年4月にJICA理事長に就任しましたが、2012年から2015年にもJICA理事長を務め、2013年と2014年の2回、ベトナムを訪問する機会がありました。
今回、理事長としてのベトナム訪問は9年ぶりです。一昨晩ハノイに到着し、2013年の訪問時に建設中だったノイバイ空港第二ターミナルに降り立ち、当時建設中の高速道路やニャッタン橋を利用しハノイ市内までスムーズに移動ができました。改めて日本のODAによるインフラ整備の成果を実感できました。また、市内の発展も著しく、ベトナムの着実な成長に強い印象を受けました。

さて、新型コロナウイルスやウクライナ情勢等は、世界経済に大きな打撃を与えています。加えて、地球温暖化に伴い、自然災害は頻度の増加や被害が激甚化するなど、成長への足かせとなっています。このような複合的な危機は、開発途上国の経済社会、とりわけ貧困層など最も脆弱な人々に甚大な影響を与え、持続可能な開発目標(SDGs)の達成も危ぶまれています。

しかし、ベトナムはこのような環境の中、コロナ禍でもASEAN域内で唯一のプラス成長率を維持しました。東南アジア地域の安定的な成長は世界経済をけん引しており、中でもベトナムの安定した成長は、地域に加え、世界経済に貢献しています。

約30年前、日本の対越ODA再開当初の1992年は、ベトナムの一人当たりGNIが130ドルでしたが、今や3,500ドルを超え、近い将来には高中所得国になる見込みです。ベトナム政府、そして、ベトナムの国民の皆さんが達成した素晴らしい成果をお祝いしたいと思います。

JICAは、国際社会の平和と安定および繁栄を確保するために、「信頼で世界を繋ぐ」とのビジョンの下、「人間の安全保障」と「質の高い成長」を両輪に国際社会の各パートナーと協調、協力を進めています。中でも、普遍的価値やルールに基づく国際秩序の維持・強化のため、外交政策の柱である「自由で開かれたインド太平洋(FOIP:Free and Open Indo-Pacific)」の実現に力を入れています。
具体的には、ベトナムでは、これまで空港や港湾といった国際玄関口の整備、高速道路や国道などの物流網整備、工業化に必要な電力整備など、「陸・海・空」の連結性確保や強化を、インフラ整備及び人材育成の両面から支援してきました。

また、巡視船整備や海上警察などの海上法執行機関向け研修の実施など、航行の自由の確保に協力しています。加えて、市場経済化に不可欠な法整備支援を始め、チン首相が共産党中央組織委員長当時に要請のあった共産党幹部や地方都市リーダー向け研修による人材育成などを進め、良好な日越関係の発展に寄与しています。
JICAは、協力にあたり、人と人、心と心の結び付きを目指してきました。その象徴的な事例の一つが海外協力隊事業です。1995年から700名弱のボランティアがベトナムの都市や農村で、ベトナムの人々と共に汗を流してきました。

この日越外交関係樹立50周年に際し、JICAがベトナムの友人として、その輝かしい開発と共に歩み続けることができたことを心より誇りに思います。

両国が今後も持続的な成長を共に続けられるよう、JICAがすべきことは何でしょうか。私は、両国の次世代に繋げるより良い未来の創造を次の3点を通じて促進することを提案します。

第一は、グリーンな国造りです。
日本とベトナムの経済関係は日に日に強固なものになっています。コロナ禍を経て、様々な企業の生産拠点が中国からベトナムを始めとする周辺国に移転し、ベトナムでは半導体産業をはじめ、先端的な産業への投資も急速に進展しています。工業団地や物流拠点などの整備を通じたグローバルサプライチェーンとの連結性強化により、ベトナムへの更なる投資拡大が期待されています。同時に、ベトナムでは急速な都市化が続く見込みです。

そのような中、JICAは都市鉄道を始めとする公共交通網の整備や基幹道路などの物流網の拡充・強化を通じ、渋滞緩和による炭素排出量軽減など、環境にやさしいインフラ網整備や、より良い都市環境の実現に協力していきます。
また、DX技術の活用による効率的な輸送の実現やエネルギーロスの低減も重要です。JICAの協力が触媒となる、両国の民間協力や投資関係の促進を目指します。

第二は強靭な社会造りです。
JICAは、長年に亘りチョーライ病院、バックマイ病院、フエ中央病院の3拠点病院を核とした医療体制を強化してきました。ベトナムは、SARSや鳥インフルエンザなどの経験を踏まえ、コロナ禍も初期の封じ込めに成功しました。JICAは、このようなベトナムの成功体験を他国に「世界保健医療イニシアティブ」として展開しています。

また、昨今、ベトナムでは、死亡者に占める非感染性疾患の割合が増加しています。JICAは、今後の社会の在り方を見据えて必要となる対応策強化など、協力の方向を転換していきます。その際、DXを積極的に活用し、遠隔技術による医療人材育成や診断の促進など、都市部と地方の格差が是正できるような取り組みも進めます。
さらに、衛星情報の積極活用を通じた自然災害リスクの把握や事前防災インフラ投資の推進も、両国が更に協力を促進できる領域です。「より良い復興(Build Back Better)」を推進し、災害等の危機により経済成長が停滞しないよう協力を進めていきます。

第三は、未来に繋げる双方向の人造りです。
JICAは、ODA再開後、日越共同研究として一橋大学石川名誉教授の名を冠した「石川プロジェクト」と呼ばれる市場経済化支援を進め、ベトナム政府・共産党幹部と共に、ベトナムの持続的で長期的な経済開発計画策定に協力してきました。このモデルは、インドネシアやラオス、エチオピアへの協力にも応用されています。

世界は様々な変化により不透明性を増し、新たな課題に直面していますが、同時に機会にも満ちています。JICAは、より良い未来を次世代に託せるよう、これまで以上に様々な分野で新しい課題に対応し、人材育成や組織体制の強化を進めます。
例えば、アジアのハーバードを目指す「日越大学」は、重要な取り組みです。大学の整備や魅力的な教育プログラムの提供により、次世代リーダーの育成を促進すると共に、卒業後の本邦企業への就業マッチング強化により、日越ビジネスを促進します。更に、ベトナムで日本への理解を促進するほか、日本への留学機会提供や本邦大学との共同研究促進など、新たな知見・技術の創造を進めます。

日越関係は外交関係樹立から50年を経て、かつてないほど良好です。ベトナムは過去30年の国際協力を通じ、経済成長と貧困削減を同時に達成するなど、他国へのモデル国としても評価されてきました。

JICAの使命は、これまで強化されてきた両国のパートナーシップを礎に、次の50年間の関係を更に堅固なものとすることです。より良い未来の実現には、共に英知を集め、解決策を検討し、それを大胆に実践することが必要です。日本がベトナムから、ベトナムが日本から学び、そして両国が相補いながら、地域の発展と安定という共通目標に共に貢献することが重要です。
そのために、私は両国政府、企業、そして人々の間で友情と信頼を更に強化することが必要だと考えます。JICAは、友情と信頼を更に深められるよう、これからも全力を尽くします。引き続きご協力を賜れますと幸いです。
ご清聴ありがとうございました。