知ってる? 世界の貧困対策に役立つ日本の知見

開発途上国の人々に学びの場を−世界寺子屋運動

日本の学校制度は、明治時代の1871年に始まり、小学校4年間の就学の義務化(1886年)や小学校教育の無償化(1900年)を経て、1920年頃には近代的な学校教育システムがほぼ完成しました。しかし、学校教育が制度化されるよりも以前の江戸時代にも、武士階級向けの藩校や私塾、庶民のための寺子屋といった学習機関が日本各地に存在しました。中でも寺子屋は、都市部だけでなく農村部にも普及しており、身分や年齢に関係なく誰もが、読み・書き・そろばんのほか実用的な生活技能も学ぶことができました。

この寺子屋のような学びの場を、現代の世界において教育の機会に恵まれない子どもや読み書きができない大人に提供しようと、日本ユネスコ協会連盟が実施しているのが「世界寺子屋運動」です。この運動を推進するため、日本ユネスコ協会連盟はJICAと協力して、草の根技術協力「北部山岳地域コミュニティー学習センター普及計画」(2003〜2005年:ベトナム)などを実施し、開発途上国のNGOや地方行政機関などによる識字教育を支援しています。

戦後日本を貧困から救った生活改善運動

第二次世界大戦後、日本は、食料不足や栄養不良、劣悪な衛生環境や健康の悪化といった、現在多くの開発途上国が抱えているような様々な問題に直面していました。そのような中、特に農家の生活を改善するため、農業改良助長法(1948年)に基づいて全国の農村に配置されたのが、生活改良普及員(以下、生改)です。当初女性のみで構成された生改は、改良かまどの導入や栄養改善のための調理指導といった知識や技術の伝達のみでなく、各農家を巡回して直接女性の声を聞き、生活全般の相談に乗るなど、献身的に務めました。生改の特徴は、農村女性自らが生活の中の問題を認識し、解決策を考えて実行する過程に主体的に関わることができるよう「ファシリテート」しつつ、確かな生活改善技術を指導する役割を担ったことです。

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集団研修「農村女性能力向上コース」で、生活改善実行グループリーダーから貴重な経験談を聞く研修員たち

生改による働きが、当時弱い立場にあった農家の若い女性たちのエンパワーメントに繋がり、その女性たちによる活動が、各家庭の生活改善にとどまらず村全体の活性化、日本の農村全体の発展に繋がりました。「生活改善活動」と呼ばれるこの活動から得た日本の知見が、現在のJICAの事業における様々な場面で活かされています。

5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)、カイゼンによる病院改善

日本の製造業で発展した総合的品質管理(Total Quality Management:TQM)の手法の一つである「5S」(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)やカイゼン(従業員参加型による問題解決)は、職場の環境整備に加え、従業員の意識改善や業務の効率化にメリットがあると考えられており、日本の医療現場でもサービスの質と安全性を向上させるために用いられています。JICAはこれらを段階的に導入する5S-KAIZEN-TQM手法を用いて、アフリカ15ヵ国を対象に「きれいな病院プログラム」を実施しています。

このプログラムでは、病院の管理職や保健省行政官を、日本と5S、カイゼン導入の成功体験を持つスリランカに招き、手法に関する講義や病院の視察を通じて5S-KAIZEN-TQMの理論や手法を取得し、帰国後に各国で広めてもらう取り組みを行っています。

アフリカの多くの病院は、医師や看護師等の人材、機材や医薬品、施設運営費や人件費等の予算が不足するなど、複数の難しい問題を抱えています。タンザニアにおいては、この手法を病院に導入した結果、整理整頓や無駄のない備品の在庫管理が徹底されました。また、病院スタッフが各自の業務の効率化や患者中心の医療サービスのために、様々なデータから問題を分析し、対策を自ら講じるようになりました。現在ではタンザニア国内の全病院での導入を目指し、国家ガイドラインも制定されています。

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乱雑だったカルテ棚(上)が、5Sの導入後、番号やラベルによって整然と管理されるようになった。(下)

人々をマラリアから守る日本企業の技術

マラリアは、「ハマダラカ」という蚊が媒介する感染症で、主に熱帯で蔓延しています。WHOの「World Malaria Report 2011」によると、世界全体における2010年のマラリアによる死亡者の数は65万5,000人、そのうち91%がアフリカの人々です。

マラリアの予防には薬剤処理した蚊帳が特に有効ですが、従来品は洗濯するたびに効果が薄れてしまうため、定期的に薬剤に浸さなければならないという手間とコストを要するものでした。そこで注目を集めているのが、住友化学株式会社が開発した蚊帳、「オリセットネット」です。この製品は、独自の技術により化学繊維に練りこんである殺虫剤の効果が5年以上持続する上、耐久性、通気性ともに優れているということで、WHOは使用を推奨しており、多くの開発途上国からもその普及が期待されています。JICAは、これまでにアフリカ諸国24ヵ国に蚊帳を供与し、マラリアの発生阻止に貢献しています。

「もったいない」を世界へ

急速に開発が進む開発途上国では、都市化や人口集中が加速し、廃棄物の散乱や無秩序投棄などの公衆衛生上・環境上の諸問題が急激に顕在化しています。こうした廃棄物問題への取り組みの一つとして、Reduce(廃棄物の発生抑制)、Reuse(再使用)、Recycle(再生利用)の「3R」があります。日本は、2004年のG8首脳会合において、地球規模での循環型社会の構築を目指す「3Rイニシアティブ」を提案しました。また、「21世紀環境立国戦略」(2007年)では戦略のひとつに「3Rを通じた持続可能な資源循環」を掲げ、2008年には3Rに関する国際協力を活性化するため、「新・ゴミゼロ国際化行動計画」(3Rを通じた循環型社会の構築を国際的に推進するための日本の行動計画)を策定しています。

この3Rに加え、日本語の「もったいない」という言葉が今世界で注目されています。環境分野で初のノーベル平和賞を受賞したケニアの元環境副大臣、ワンガリ・マータイ(故人)さんは、3Rを端的に表現し、地球資源を大切にしようとする気持ちが込められているこの言葉に感銘を受け、環境を守る共通語として「MOTTAINAI」を世界に広めることに尽力しました。

JICAは、フィジー「廃棄物減量化・資源化促進プロジェクト」(2008年10月〜2012年3月)において、同国にとって新たな概念である3Rのモデル(市町村の計画作り、住民への環境教育など)を構築するなど、開発途上国の廃棄物対策に協力しています。