TOKYO8グローバル 発表及び質疑応答

(1)TOKYO8グローバルとは

廃棄物のリサイクル技術に強みを持つ株式会社太陽油化(以下、太陽油化)とフランチャイズ等ビジネスモデルの知見に強みを持つ株式会社アセンティア・ホールディングス(以下、アセンティア・ホールディングス)の2社が連携し、TOKYO8グローバルを設立した。

現在、サブサハラ・アフリカの4ヵ国4社がTOKYO8フランチャイズモデルに賛同し活動中である。モザンビークでは日系企業が実証事業を行っており、ルワンダでは日系企業の支援を受けつつ現地企業が活動している。ジンバブエとマラウイはJICAのABEイニシアティブの卒業生(以下、ABE卒業生)が独力で実施している。その他にも複数の国でABE卒業生がTOKYO8を使用した実証実験に取り組んでいる。

TOKYO8は太陽油化が製造した微生物を用いた土壌改良剤であり、日本では2022年に有機JAS適合資材に登録されている。本剤をコカ・コーラのビジネスモデルを模したフランチャイズによりアフリカ等で現地生産を展開している。

本剤を使用した栽培実験では収穫量が1.5倍、収穫個体の大きさが2倍となったが見られたり、病害虫の防除の効果がみられたりと農業生産性を高める可能性があることから現地の農家から大きな関心が寄せられた。

TOKYO8は太陽油化の国内の汚泥処理のラインから生まれたものである。廃棄物処理技術に加え、処理後の物資を再利用する循環経済の構築を図っている。

(2)TOKYO8フランチャイズビジネスモデル構築までの紆余曲折

アセンティア・ホールディングスは、日本の様々なビジネスを知的財産化し付加価値をつけ世界に展開する事業を行ってきた。ASEAN、オセアニア、北米で事業を進めており、アフリカを次の展開先として定めた。

アフリカでの経験がなかったこともあり2017年からJETRO、JICA等のアフリカ向けのセミナーに積極的に参加した。同年JETROが開催したアフリカセミナーにブースを出したのがきっかけでABEイニシアティブ留学生(以下ABE生)と繋がりができ、アフリカの様々な課題、現実を知ることができた。その後、JETRO、JICA等が開催するセミナーやワーキングフェアに積極的に出展し、ABE生とのオンラインでの交流やインターンシップの積極的な受入、またインターン生には卒論の相談に乗る等、ネットワークを作り続けた。

1)最初の失敗 独りよがりのアフリカ展開計画

ABE生との交流により、ある程度アフリカの課題や現状を勉強したつもりでアフリカに乗り込んだが、これが大失敗に終わった。

TICAD7の前年(2018年)にJETROと外務省主催のTICAD7ビジネスダイアローグが開催され、そこで、日本のサービス業のビジネスをアフリカでフランチャイズ展開するアイデアを発表した。発表を聞いた何か国の在日大使から賞賛を受け、この勢いに乗り、TICAD7(2019年)において、約20名のABE生の協力も得て、様々なフランチャイズを紹介するためにブースを6つ設け、プレゼンを行った。その結果、アフリカの企業がTICAD7開催中に日本の店舗を訪問する等の大きな反響に手ごたえを感じ、同年の秋にはエチオピア、コンゴ民主共和国、ルワンダを訪問した。

ところが、現地に乗り込んだところ、状況は想定と大きく違っていた。より根深い問題が存在することを知り、ASEANでの経験の延長線上でフランチャイズ展開するというプランは崩れ去り、方向転換を余儀なくされた。

2)アフリカ各国訪問で知った現地の課題とは

各訪問国でABE卒業生に会う機会があった。日本で学んでいた時には、母国と日本の架け橋になるという夢と希望に満ちあふれていた彼/彼女らが母国において、日本で修得したことを生かす仕事に出会えていない現状を目の当たりにした。

また、アフリカの課題とはJICAの発表にもあった食料危機の問題や小規模農家の生産性の低さであることを実感し、これらを解決するビジネスモデルの設計支援にチャンスがあるのではという思いを胸に日本に戻った。

3)農業支援の商材を持つ太陽油化との出会い

2020年に太陽油化と知り合いになった。その当時、TOKYO8は有機JAS適合資材にも認定されておらず、現在のように肥料の価格高騰もなかったことから汚泥発酵肥料は注目されず、日本国内での売れ行きは良くなかった。

その一方、アフリカ各国訪問で各国が求めている農業生産性向上のニーズを実現する具体的な手段を探していた当社は、TOKYO8をアフリカで使用することに課題解決の可能性をあるのではと感じた。

そこで、ASEANでは既に飲食店のフランチャイズを展開しており、飲食店には農産物が付き物であることから、タイやインドネシアの農産物を扱っている企業とオンライン会議を行い、TOKYO8を紹介したところ、インドネシアの企業からTOKYO8を試してみたいとの反応があった。ABE生とのネットワークを築いた縁で当社にABE生をインターンシップで受け入れいた(そのABE生は現在、太陽油化に就職し、TOKYO8グローバルの第一線で活躍している)時に、アフリカ開発銀行のハイ・ファイブズのビジネスセッション(オンライン商談会)が開催され、そこで農業生産性向上をテーマに発表・議論をした。同セッションを通じ、アフリカをターゲットにする欧州の企業の考え等も知ることが出来、改めてアフリカの課題解決のために、農業生産性向上に寄与することを決定した。

4)母国でTOKYO8を用いたビジネス展開を希望するABE生のためのビジネスモデルの設計

このような動きを見て、太陽油化で長期インターンシップをしていたABE生が帰国後、TOKYO8を用いたビジネス展開を行いたいとの決意表明を出した。

そこで、ABE卒業生が独力で展開できるビジネスモデルを設計することにした。2つのフランチャイズを手本にした。1つ目がコカ・コーラ社である。米国から原液を各国に販売し、輸入した国は原液を希釈して販売する「(希釈)製法フランチャイズ」、もう1つがヤクルト・レディである。これもフランチャイズである。マイクロフランチャイズという資本も人的資源も限られているが、自分の体力、努力で収入を生み出す方式である。この2つをミックスしたビジネスモデルとして検討するともに、インドネシアでTOKYO8を使用した実証実験を行い、収量や作物の根張り、土壌の物理性の改善等に効果が見られたことを確認した。

5)マイクロフランチャイズによる現地生産を可能とするモデルの実証事業

モザンビークで導入している現地生産をするプラントの初期投資は、総工費20万円、太陽光発電と蓄電池合わせて30万円の計50万円であった。このプラントにおいて、日本で製造したTOKYO8の原液を毎月10リットルから300倍の3000リットルのTOKYO8を培養できる。すなわち、散布面積に対して原液の送料を1/300に抑えられることになる。送料コストを抑えることにより、試算の結果、現地の農家でも購入可能である目途が立った。

1つのプラントで200~300ヘクタールの農地をカバーするTOKYO8を生産できるので、マイクロフランチャイズにより全国展開すれば、それぞれのプラントに従事する若者が現金収入を得ることになる。

6)マイクロフランチャイズのキーとなるABE卒業生

アフリカ各国でマイクロフランチャイズを実現するためには現地で信頼できるエージェントの存在が不可欠である。信頼できるエージェントになり得るのがABE卒業生である。ABE卒業生が参画できるビジネスモデルができたのが2021年9月頃であった。

ABE卒業生100名にモデル説明会のメールを送り、35名がオンライン説明会に参加、そのうち11名がTOKYO8に実証実験に参加した。それと並行し、JiPFAやアフリカビジネス協議会農業ワーキンググループや等の各イベントに片っ端から参加し、現在進行形である本事業の紹介を行うともに、アフリカで先行して事業展開をしている企業とも積極的に名刺交換を行い、その結果、本事業を広められる可能性を感じた。

7)TICAD8公式サイドイベント開催にこぎつける

実証実験に関わっている各国のABE卒業生メンバーと共に、TICAD8で成果発表をすることをマイルストーンとすることで頑張ってきた。

しかし、コロナ禍等もありTICAD8の対面開催の規模がどんどん縮小する中、オンラインによるサイドイベントの実施を試みた。

フィージビリティスタディはアフリカ11ヵ国11社で行っていたが、全てが上手くいったわけではない。農業の経験はないが、社会的価値を有することに共感し、本事業を実施した会社は失敗し、一方、農業の知見を有するABE卒業生が関わっているケースが順調に進んだ。

サイドイベントはアフリカ編(3ヵ国3社)と日本編(3社)の2回に分けて実施した。中小企業のため資金に限界があるため、同時通訳を外注することはせず、全て直営で行った。当日の通訳を円滑にするために、発表内容や想定される質問等については予め翻訳しておく等の工夫で対応した。

8)ビジネスモデルを事業化の段階までにこぎつけた事例

事業化の段階までこぎつけた事例(ルート)は次のとおりである。

1)リベリア、レソト、ジンバブエは、先ほど述べた実証事業参加呼びかけに手を挙げたABE卒業生によるもの
2)マラウイ、タンザニア、モーリタニアは太陽油化で長期インターンシップを経て、フランチャイズ加盟店を開始したABE卒業生によるもの
3)モザンビークは、アフリカビジネス協議会で事例発表を行っている日本企業が同国で事業を展開しており、同社に協力依頼をしてTOKYO8の培養プラントの稼働を開始したもの
4)ルワンダは、JICAの支援を受けた日本企業が同国で現地雇用していたスタッフが事業を開始したもの

9)取り組みについて他の会員の皆様に真似していただけるポイント

1)現地生産フランチャイズ

本事業はまだ途上段階にあるものの、2021年2月に設計したビジネスモデルを比較的早く展開できたのはフランチャイズという発想を持ったことによると考える。フランチャイズというのは、数多く展開し、成功例も失敗例も出てくるのは百も承知、成功例の要因を失敗した会社に学んでもらうことで再挑戦し、全体で成功率を高めていこう、という発想で行ったもの。

フランチャイズ展開で重要なポイントは「郷に入っては郷に従え」である。現地のことは、現地の方が一番よく知っている。日本のマクドナルド、スターバックス、シェラトン、ヒルトン、ディズニーランドもフランチャイズである。すなわちノウハウは親企業から受けているが経営は日本企業が行っている。

またリスクが想定される事項については、それが顕在化した時に取るべき対応をフランチャイズ契約に明記することで、問題発生時の対応体制を曖昧にしないことが重要である。

2)留学生との長期間の付き合い

留学生とは長期間付き合うことを心掛けた。各種インターンシップを利用、またインターンシップ終了後も、帰国した留学生も含めて継続的な関係を持った。JICAが開催するイベントに参加する等により、留学生と知り合うチャンスは様々な場所にある。

3)他のビジネスに組み込める事業としたこと

アフリカや東南アジアで事業展開をしている農業系の日本企業が、本業にTOKYO8を負担なく組み込めるような業態を検討してから、連携依頼の話をもっていった。

4)ウェビナーを積極的に主催する

ウェビナーは最初の1回は実施までに苦労する。ただし、1回経験すれば、2回目以降、回を重ねるごとに容易になる。機会があるごとにABE生、ABE卒業生を対象にウェビナーを行い、過去の接点を人的財産に変える取り組みを行っている。

これまでの経験から現地生産、フランチャイズ、留学生、他のビジネスへの組み込みなどは、協創という点では今回のテーマと合致すると思うので共有させていただく。

(3)質疑応答

質問1:人と人が手を組むためには信頼関係が不可欠と考えるが、太陽油化様とアセンティア・ホールディングス様が知り合った後、事業パートナーとなるかの見極めについてポイントがあれば教えていただけませんか。またABE生についても関心のある学生は来るもの拒まずという姿勢であったのか、あるいは見極めを行ってから、インターンシップ受け入れを行ったのかについても併せて教えていただけますと幸いです。

回答1:

太陽油化とアセンティア・ホールディングスが知り合ったのはコロナ禍にあった2020年の秋でした。新規事業を立ち上げたいので、お知恵を貸していただけませんか、と太陽油化からアセンティア・ホールディングスに声掛けをしました。TOKYO8を製造しましたが、それをどのようにすれば売れるのかが分かりませんでした。製品開発に強みを持っていましたが、販売の展開のやり方のノウハウがなかったのです。そこで、これまで考えたこともなかった展開の仕方のアイデアをいただいたのです。そこでアイデアを具体化するために、両社で一泊二日の合宿を行いました。ABE生については、その制度を把握しないまま、TOKYO8の紹介を求められた機会がありましたが、反応がありました。アフリカにおいて、「農業」、「肥料」というのは切実なキーワードだったのですね。その後ABE生のインターンシップ受け入れ先となることの打診があり、それを承諾したことがABE生と関係を持つ始まりでした。(石田様)

受け入れ後、ステップする人としない人の見極めは二週間だと難しいが一か月以上一緒に過ごすと、我々が持っていない能力や知見を持っているかどうかも含めて長く付き合えるかどうかが分かりはじめ、結果絞り込まれていきます。(松本様)

質問2:フランチャイズでは原液の品質が一定であることが重要だと思われます。1500種類以上の微生物を混合した資材とのことですが、原液の品質保証と日本からアフリカへの輸送中も含めて品質管理はどのように対応されているのでしょうか。

回答2:

弊社は廃棄物処理業が本業ですので受け入れる廃棄物を詳細に分析して安全性を最初に確認します。また微生物を確認する技術も有しています。アフリカに輸送中の品質劣化についてですが、現時点で原液の品質劣化を原因とする問題は発生していません。(石田様)

モザンビークの場合、先ほどプラントで原液10リットルを希釈するという話をしましたが、一か月に一度原液をプラントに加えることにより、希釈液の品質保持を図っています。(松本様)

質問3:現地にタネになる菌があれば、資材を使って比較的容易に培養・増殖できるのではないかと考えるます。農家は1度TOKYO8を購入した後は、それらの菌を用いて現地で入手できる資材を用い自分たちで増殖することは可能なのでしょうか。それとも農家は毎回製品を購入する必要がありますか。

回答3:

微生物の細胞分裂には限りがあり、1~2回細胞分裂を繰り返すと液中の微生物の構成が変わってしまいます。製品の品質を保つにはTOKYO8の原液を毎月追加する必要があります。(石田様)

農家が現地の資材を活用して自分たちで液の品質を保つことができるのであれば、それはそれで世界のためにも良いことではないかと考えます。発表時間の制約で説明できなかったので、後で発表資料に記載している文章を読んでいただければと思いますが、結局、農産物がいくらで売れるか、という方が重要であり、肥料やその他生産資材の売上は農産物の売上と比較すると小さいものなのです。もっと重要なのは、いかに良い野菜を作り、いかに良い販路を開拓するかです。これを実現するまで教えます、というのが我々のフランチャイズの内容なのです。アセンティア・ホールディングスは飲食店とのつながりがありますので、飲食店に情報提供することで販路開拓の支援もできます。ただし農産物を高く売れるチェーンを構築したいのであれば、1ヘクタールの農地を所有しているのであれば年間500円で済むTOKYO8を使うことを勧めます。なお、この金額はマラウイの農家にとっても経営的に負担がないことを調査で確認しています。(松本様)