NPO法人未来の担い手支援機 発表及び質疑応答

(1)発表概要

2022年10月に開催された共創セミナーに初めて出展したことで得られた知見、出展に至る経緯を中心に紹介する(NPO法人未来の担い手支援機(以下NPOみらいて)構理事長・石橋様)。

1)農業支援に至るまでの経緯

電気通信大学でパソコン関係を学んでいた。将来の進路を模索する中、農業等、食料生産を行う一次産業において人手不足が深刻であることを知り、一次産業を支援することが重要ではないかと考えるようになった。アグリテックや農業高校支援に取り組んでいる先生がいらした。その先生と相談し、学内でNPOみらいての前身となるベンチャーを立ち上げた。その後、学外においても志を同じにする人たちとの出会いもあり、2022年5月にNPOみらいてを創立した。

2)取り組み内容

NPOみらいての目的は食べ物(農業)、エネルギー(ソーラー)、好きなことに気づく力(教育)の推進を目標にしている。2022年度は神奈川県教育委員会デュアルシステム推進センターの事業を受託し、農業等で現場と学校をつなぐ業務を実施中。また、農業高校、商業高校で生産した商品を販売できるような活動の拠点を原宿に設立し、現在営業開始を準備中である。

今回は各種取り組みの中から農業従事者、就農希望者に関連し、またSTAEM学習(S:科学、T:技術、E:高額、A:芸術、M:数学)の現場教材として優れているソーラーシェアリングの実証を紹介する。

3)日本発祥の「ソーラーシェアリング」

太陽光発電のためだけに土地を占有するのではなく、太陽光発電をしつつ、パネルで遮光される農地を有効活用する、すなわち、太陽光の恵み(Solar)を、発電や農業などに分かち合う(Sharing)するという概念である。日本発祥の公開特許技術であり、現在日本全国において2000ヵ所以上で実施されている。

その中でも我々が特に注目しているのは、ソーラーシェアリングを畑に設置する営農型太陽光発電である。通常遮光率は3割、多くても4~5割であり、この程度であれば作物栽培に影響がない。一方で導入した農家は売電による収入を得られるだけでなく、耕作放棄地の復活による農業収入を得られるので、その支援、中山間地域の農地など、そもそも電気が来ていないような場所でもエネルギーが得られる等、非常に優れた技術であると考える。

4)営農型太陽光発電の社会的インパクト

日本の年間総発電量は1兆キロワットアワーである。ソーラーシェアリングでこの発電をするために必要な農地面積は200万ヘクタールである(標準的なソーラーシェアリングでの発電量:50キロワットアワー/0.1ヘクタール)。日本の農地面積440万ヘクタール全てにソーラーシェアリングを設置した場合、総発電量の2.2倍の発電量が得られる。

特に我々が注目しているのは農地面積のうち40万ヘクタールは耕作放棄地である(農林水産省の公式数値)。耕作放棄地は圃場の形が悪かったり、集約化できなかったりしたところが多い。農地は全国にあるので、分散型エネルギーシステムやエネルギーの地産地消が実現できるほか、化石燃料の輸入依存度を減らせることが大きなメリットであると考える。

耕作放棄地を利用したソーラーシェアリングにより、農業で収入を得られるにようになるまでの新規就農者の収入源となることが期待される。また昨今のエネルギー代の高騰により、ソーラーシェアリングの需要が高まっていくことが想定されることから、就農者の経済的支えとして優れていると考える。

狭隘な土地でエネルギーインフラも整備されていない地域で農業を進められる将来性がある。

5)工事費を抑える取り組み

ソーラーシェアリングは電気工事や架台の設置が必要であり、通常、工事費は非常に高い。農家等が自分たちで建てることができれば工事費を抑えられる経費の節約にも役立つと考え、高校生、大学生、農家の実証設置システムを実施している。現在、農業高校では女生徒の占める割合が多くなっており、実証設置でも女生徒が中心となって行っているが、それでも容易に組み立てられるものにしたのがNPOみらいてのソーラーシェアリング強みである。後述するJICA筑波の共創セミナーに参加した際も、午後一番に開始されるセミナーに向けてJICA筑波の試験圃場でソーラーシェアリングのデモを行うため、6人で午前中に組み立てを終えた。

6)ソーラーシェアリングの可能性と課題をSTAEM教育の場とする

神奈川県立吉田島高校において、実業用タイプ1/10スケールモデル(4.8キロワット)で実証試験をしているが、実業用の48キロワットであれば売電も行えるものである。

ソーラーシェアリングをそれぞれの地域の特徴を踏まえて活用するために、例えば、太陽光パネルを倉庫の屋根に設置するのが良いのか、藤棚式が良いのか等の設置方法、大きさ、太陽光で一番課題となっている夜間電力に対応するためのバッテリーをどうするか、発電した電気を売電するのか、あるいは電気の来ていない圃場での農業に活用するのか、圃場に活用する場合、どのような使い道があるのか等、農業高校、工業高校の電気・電子科、あるいは普通科においても脱炭素化、持続可能なエネルギー自立分散型地域づくり等、様々な切り口で活用が考えられる技術である。

7)共創セミナーに出展した背景

NPOみらいてのメンバーに国際協力に取り組んでいる者がおり、自分自身も2020年に宮城県丸森町の高校生たちと一緒にザンビアを訪問し、農村でホームステイをした。

このような経験から日本の課題解決の方向性をアフリカの若者をつなげていきたいという気持ちがあった。またソーラーシェアリングを通じて、世界から飢餓や紛争をなくしたいという願いがあった(ソーラーシェアリングの発明者もそのような願いを持って開発した経緯がある)。そのような思いで作ったソーラーシェアリングシステムが世界の人からどのように受け止められるのかを知りたかった。狭隘な農地、耕作放棄地があり、農業からの収入だけでやっていくことが難しいという日本の課題解決のため作られた仕組みが実際に日本以外でどのように通用するのかを知りたく、技術の紹介のみとどまらず、研修員や留学生から意見を聞きたかったのが理由である。

8)共創セミナーに参加して分かったこと、始まったこと

ソーラーシェアリングに特に興味を示したのが、ギニア、シエラレオネ、ギニアビサウのアフリカの3各国であった。これらの国は国土面積が日本より小さく、世界最貧国グループに属し、農地も狭隘で肥沃でもない、農村内では収入が不十分なため、若者が出稼ぎのために出ていくといった悩みを抱えているという共通点があり、日本の課題と照らし合わせても非常に共感できるものがあった。研修員からは生活を豊かにする電気を生み出すため、デモで設置したソーラーシェアリングシステムで何軒の家に裨益するか等の質問があった。

セミナーに参加して、ソーラーシェアリングが途上国で通用するかは現段階では未知であるものの、必要とされている技術であることが分かったのが大きな収穫であった。

研修員たちは2022年内に帰国したが、オンライン会議でプロジェクト化を計画中である。NPOみらいてのメンバーで、「農村を対象とした教育・食糧・エネルギー」の問題分析、「農村へのソーラーシェアリング導入アプローチによる教育・食糧・エネルギー」の目的分析を行い、帰国研修員と共有したり、電化率100%とするために、何台のソーラーシェアリングシステムの導入が必要か等の理論値を導出したりした。ギニアを例にすると20万台であるので、1台の導入費が250万円とすると同国の電化率を100%にするためには5000万円が必要等の見積もりを出した。

これらの数字を基にして、帰国研修員たちと実現するための道筋を検討中である。具体的なプロジェクト化についてはJICA筑波とも相談しながら進めていきたい。

9)協力者募集

今回登壇したのは、JiPFA会員の皆様と共同作業(会員の皆様から助言をいただく、あるいは会員の皆様が実施している事業にソーラーシェアリングシステムを組み込んでいただく等)をできればと思うので、ご連絡いただければ幸いである(発表資料に連絡先を掲載したスライドあり)。

(2)質疑応答

質問:今後、途上国で展開を考えていることであるが、機材部品は途上国では換金目的に盗難の恐れもあると思います。帰国研修員の母国でソーラーシェアリングシステムを設置する際の盗難対策は何か考えておられますか。

回答:その点については共創セミナーに出展した際にも多くの人から聞かれました。我々の製品の強みは、組み立て易い、撤去し易いことという特性です。日本であれば問題ないのですが、途上国では盗まれやすいものなので、例えばロックナットにより固定を強固にし、盗難をしにくくする、警備巡回をする等が考えられますが、まだ現実的な具体策はとっていません。帰国研修員と相談したり、JiPFA会員様からご助言をいただいたりできればと考えています。