CASE
STUDIES

01

10億人に革命を起こす。
インド-アグリテックの
挑戦

  • インド
  • 農業DX
  • 衛星データ
  • デジタル農業地図

約14億人と世界第2位の人口を誇るインド。実にその7割が農業従事者であるにもかかわらず、多くは非効率な小規模農家でGDPに占める農業の割合は逆転し、たった3割程度。そんな巨大市場で、日本のスタートアップ、SagriがJICAと共に衛星データを用いた新しい農法を提供する。広大な異国の大地に、イノベーションは起きるのか―。現地で日々喧喧諤諤と議論を重ねるSagriベンガルール最高戦略責任者・永田賢氏に話を伺った。(本内容は2022年2月時点のものです。)

SUMMARY

概要

企業
サグリ株式会社
プロジェクト
インド「ヒマーチャル・プラデシュ州作物多様化推進事業へのデジタル・ソリューション導入にかかる実証実験」
プロフィール
人工衛星データや各種農業データを駆使し、農薬や肥料の最適な蒔き方や収穫時期などの情報を提供する事業を基盤に創業。兵庫、東京、浜松の3拠点で技術開発などを行っている。海外ではインド事業を手がけており、JETRO(日本貿易振興機構)がインド・ベンガルールで推進する「日印スタートアップハブ」第1号として採択された。現在はインド支社に3名のスタッフを配置し、インド全土の農村地域で実証実験を行っている。日本においては、政府や大学、行政機関、農業支援機関と提携し、データ・ITを活用した農業支援を行っている。

CHAPTER1

課題

「まさにカオス」な
インド農家の現実。

日本の農家の一経営体あたり耕地面積は平均約3haなのに対し、インドでは約1ha。広大な土地に無数の畑と農家が遍在し、収穫の時期にはてんでばらばらの作物が実る。作付けは単年ベースで生産に計画性がなく、農法といえば牛に犂を引かせるなど古典的で効率性は極めて低い。おまけに土地の所有権も曖昧だ。

「インダス文明が起こるくらいですので、そもそも非常に肥沃な大地で作物は“種を撒けば実る”んです。恵まれた土地だからこそ、昔からのやり方を続けてきたのが、今のカオスな状況の背景だと思います」

巨大マーケットの社会課題と向き合う真っ直ぐな瞳を光らせて、永田氏は語る。

Sagri Bengaluru Pvt. Ltd最高戦略責任者の永田賢氏

農民たちは、金融機関からの信用もないため、新しい農法を試そうにも借り入れを起こせない。Sagriは、彼ら個人の信用創造を助けることがビジネスの糸口になると考えた。

「自社技術で、衛星データと土地の肥沃度や所有者を紐づけて、この農家さんならこれだけの収穫が見込めますよという『農家版ミシュラン』を作成し金融機関を説いて回りました」

よくよく考え抜いたアイデアだったが、すぐには手応えを得られなかった。そこで「実際にやってみることが大事」と、今度はサグリ自ら農家への小口資金の提供に乗り出す。
民間事業体が営利目的でローンサービスを提供するのには厳格な当局の許可が必要だが、実証実験として実施すれば時間のかかるフローは必要はない。また、現地発の新進気鋭のスタートアップ何十社と面談し、信頼できる現地パートナーも見つけた。そうして早速募集してみると、一気に2000件以上の申請が農家から殺到した。
ようやく現地の農民にダイレクトに貢献できるビジネスを漕ぎ出したと一息ついたが、このタイミングでインド政府がモラトリアム(支払猶予)を発出。運悪く政府の宣言により小口ローンの回収が出来なくなり、時を同じくして新型コロナが猛威を奮いはじめる。不幸は続くもので、現地スタッフとの金銭トラブルや、技術や会社そのものの乗っ取りを仕掛けられるといった修羅場も掻い潜る。

「現地に切り込みたくてローン云々と検討しましたが、農業にコミットしようと建直しを図ることにしました。その過程で、同じ課題に取り組むJICAと協働するに至りました」

CHAPTER2

JICAとの協働

JICAと組むのは信頼の証明。
本音を聞き出しビジネスに活かす。

「衛星データを使いダイナミックな活動をするには現地政府の巻き込みが不可欠ですが、名もなきベンチャー企業が交渉して回るのは非常に骨が折れました。こちらが知恵と技術を絞ったサービスを説明しようとしても『いくら投資できる?』とお金の話ばかりで、なかなか聞く耳を持ってくれません」

現地政府との交渉に苦手意識を持ち始めた2021年、インド北部ヒマーチャル・プラデシュ州で実施するJICAの農業関連事業の実証プロジェクトへの参画が決まった。この連携が、事業が加速度的にドライブするターニングポイントになる。

「長年現地で活動してきたJICAの旗が立つと、とにかく交渉がめちゃくちゃ楽になりました。それまでいかに儀礼的なミーティングをしていたかと気付かされ、会う回数も格段に増え、本音を話してくれる実感があるし、事業計画など深い議論ができるようになりました。やはり何をするにも人ありきです。JICAが長い時間をかけて育んできた地域社会と信頼関係こそが、事業の成長をドライブしました」

本音=真の課題が聞けるようになったことで、単にデジタル地図を提供するだけでなく、現場の農業指導を取り入れたり、地図のアップデート機能を付加するなどの要望が聞こえ、これらを事業に反映させていった。

衛星データを使ってデジタル農業地図を作成。農地の耕作状態を分析する。

CHAPTER3

成果

まだまだブルーオーシャン。
農業も世界も、もっとよくできる。

サグリは現在、5000haもの農地を衛星でカバーするまでにインドにおけるビジネスフィールドを拡張している。永田氏はこれまでの具体的な成果を、衛星データで農地を可視化することによる生産性向上、啓蒙活動による農家の意識向上、そして現地農民の未来の可能性を広げられたことの3点だと語る。

「現地法人を立ち上げて早3年、ひとつの基盤を作ってこられた手応えがあります。とはいえインドはまだまだブルーオーシャン。今後の戦略として、to G、to B、to Cの三層構造を考えています。to Gとして、JICAとの連携事業をさらに飛躍させ南インド5州と新規事業に取り組みます。to Bは、これまで蓄積した農地のデータ基盤を提供していきます。最後にto Cは、日本の農法を活用した新しい農産品の生産です。うまく流通に乗せて農家1人1人の生活を改善し、さらにインド農業全体の価値向上を目指していきます」

コロナ禍の困難を乗り越え、JICAとの連携を成長ドライブに、力強く前身し続ける永田氏の姿勢には、ファーストランナーとしてのプライドが見え隠れする。縁もゆかりもないインドに身一つで乗り込んだ永田氏は、サグリにジョインする決め手になったCEO坪井俊輔氏の言葉を今日も大切にしている。
「ミスしてもいいからやりましょう。ミスしたらリカバーしましょう」 次々に現れる新しい壁に、今日もトライ&エラーを繰り返しながらサグリは進んでいく。

COMMENT

プロジェクトメンバーの声

JICA インド事務所
古山香織

いまインドは国を挙げてデジタル農業の実現に取り組んでいます。JICAは農業インフラ整備と人材育成を行って農家の生計向上を支援してきましたが、これからはデジタルを活用したインパクトの最大化と定着化に挑んでいくことが大切だと感じます。今回サグリさんと出会い、最初の第一歩を踏み出せました。
最大の成果は、サグリさんのデジタル農業地図で、インドの農業局の人たちが「デジタルの力で自分たちの農業がどう変わるか」を具体的にイメージできたことです。デジタル化は地道な作業の積み重ね。ゴールがイメージできないと大変な作業を進めていこうという気になりませんよね。サグリさんはきめ細やかに現場のニーズを拾ってくださったので、デジタル・ソリューションを取り入れることに前向きになりました。将来の展開への原動力となると期待しています。

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