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必要なのは熱量!独自の金融サービスでアフリカの貧困層の未来を拓く

信用情報がなく融資を受けられないアフリカの貧困層に向け、独自の信用スコアリングシステムを活用したマイクロファイナンス事業を展開するHAKKI AFRICA。JICAのアフリカオープンイノベーションチャレンジ (AOIC) を通じて行った実証実験から、HAKKI AFRICAが得た学びとはなんだったのか―。このAOICのプログラムの立ち上げから運営、そして参加するスタートアップの支援を行い、一般社団法人 ICT for Development(ICT4D) の設立者の一人でもある監査法人トーマツの竹内氏とともに話を聞いた。

概要

アフリカ Fintech 信用スコアリング マイクロファイナンス

プロジェクト

アフリカオープンイノベーションチャレンジ
(AOIC) ※ 

企業

株式会社HAKKI AFRICA

プロフィール

ケニアで中古車を動産担保とした、マイクロファイナンスの提供が主要事業のスタートアップ。独自の信用スコアリングシステムを開発し、信用情報が不足している人々にも金融サービスを提供することで、経済的自立と機会最大化に寄与している。2021年にAOICを通じ、マイクロファイナンス市場の活発化などに向け、タンザニアで農業従事者向けマイクロファイナンスの実証実験を実施した。

※デジタル技術を持つ民間企業や学術研究機関を募集し、アフリカで教育や農業などさまざまな分野における課題解決を図るプログラムだ。「アフリカにおける破壊的なデジタル技術にかかるオープンイノベーション情報収集・確認調査」「アフリカ地域 サブサハラアフリカ地域の社会開発課題解決に向けた科学・技術・イノベーション活用促進のための調査研究」事業の一環として実施されている。

目次

少額融資を通して、自身の付加価値向上を。でも現実は…。

第1章 課題

アフリカでは金融の仕組みが整備されておらず、事業者の多くは信用不足で融資を受けられない。HAKKI AFRICAは、社会保障に入っていなかったり、住所を持っていなかったりと、信用証明が難しい人々にも小口の事業融資を行える画期的な信用スコアリングシステムを開発している。

アフリカに来た当初、HAKKI AFRICAがトライしたのは、ケニアの首都、ナイロビの小売店への少額融資だった。しかし金融事業者が飽和状態にあるナイロビでは、他の金融事業者からの借金返済を目的としたケースも多く、多重債務に陥ってしまう借り手も存在した。

株式会社 HAKKI AFRICA CEOの小林嶺司氏

小林氏には「自身の付加価値を向上させるために融資金を使ってほしい」、という思いがあった。しかし、実際は融資金を仕入れに使ってしまう小売店も多かった。こうした課題を解決したいと小林氏がターゲットに定めたのが、JICAのアフリカオープンイノベーションチャレンジ(AOIC)でのタンザニアの農家への無担保・少額融資に向けた実証実験だ。農業金融のナレッジを実践形式で得ることが目的だった。

「農業金融は東南アジアで実証済みの領域だったことに加え、成功すれば農家が多いケニアでも展開しやすい点に可能性を感じました。小売とは異なり、融資金を使ってエーカーを増やすなど、付加価値の向上に取り組んでもらいやすいのも魅力でしたね」

有限責任監査法人トーマツのシニアマネージャー 竹内知成氏

AOICの進行をサポートする監査法人トーマツの竹内氏は、新興国ビジネスでスタートアップがJICAと協業する意義について、以下のように語った。

「新興国では実際に暮らしてみないとわからない課題が多く、現地に 張り付くことが容易でない スタートアップはそもそもの課題の洗い出しでつまずきがちです。AOICでは、技術協力をしている日本人専門家チーム・現地協力員がスタートアップをサポートし、課題の抽出から並走できます。また、一般的にスタートアップは現地でビジネスのネットワークを築くまでにさまざまなハードルがありますが、JICAのネームバリューがあればネットワーク構築にも大いに役立つでしょう」

現地の視点で課題を拾えたことが、次のビジネスにつながった。

第2章 JICAとの協働

このタンザニアの実証実験では、JICA関係者からの助言が小林氏たちを後押しした。

「大企業の場合は、もともと存在しているプロダクトが市場にフィットするかを試せばいいのですが、僕らのようなスタートアップはその国・地域のニーズにあったモノをつくるところから始めます。方向性を決められない中で、JICAの日本人専門家や、SHEP (市場志向型農業振興)の普及員をはじめとする現地協力員など、現地に張り付いて何年も活動している方たちの知見をお借りし、課題を拾えたことは、資金やリソース面ではもちろん、精神的にも救われました」

また、人脈という観点でもJICAとの連携は強みになった。

「当初タンザニアでは、HAKKI AFRICA自身がマイクロファイナンスのサービスを提供する予定でした。しかし、タンザニアで金融ライセンスを得るのはハードルが高く、我々は『金融機関に対するサービス提供者』として、ライセンスを持ったマイクロファイナンスと提携することになったんです。その際に現地のファイナンスをつないでくれたのが、タンザニアの地方自治体職員やJICAの現地協力員の方です。限られた時間でスピーディに人脈をつなげたのは、彼らの働きがあってこそだったと思います」

JICAならではの知見とネットワークを得て、HAKKI AFRICAはこの実証実験で、発展途上国での不確実性を低減し、確実性を高めることができた。しかし、同時に難しさにも直面した。

「東南アジアでは、五人組を組ませることで連帯責任が生まれ、貸倒れが防げると言われていました。しかし、タンザニアの実証実験には、その法則が当てはまらず、農業という性質上、農作物の収穫時期がずれてしまうと農家が返済できなくなり、貸倒れにつながるケースが目立ったんです」

いくらグループレンディングを組もうが、融資によって事業の未来が拓けなければ、貸倒れは起きてしまう。それは小林氏にとって大きな気付きだった。

「例えば、かんがい設備のように、物品提供によって収穫量が上がるといった具体的な事業展開が見える貸し方が重要だと思いました。新興国での知見やネットワークを有するJICAと連帯し、『実証の場』を得られたからこそわかったことです。そういった意味では、タンザニアでの実証実験での気付きは、現在のビジネスへとつながる重要なステップでした」

新興国での事業は、そのプロジェクトの成功に重点を置きがちだ。しかし、JICA事業においては、現地の社会課題解決を第一に考えることができる。これはまさに、JICAのオンリーワンのバリューだと竹内氏は語る。

「JICAは開発を第一に考えているため、目先の利益にとらわれないスタンスが特徴です。シビアにビジネスとしての成功を追い求める姿勢とは異なりますが、そのスタンスだからこそ見えてくる現地のリアリティや、真の現地ニーズの発見につながるケースもある。HAKKI AFRICAはこの実証実験を通じて、現地開発の視点で 新たな気づきを得られた。そういう意味で、JICAとの連携は成功だったと言えるでしょう」

貸し付けを行う農業従事者に、ブリーフィングセッションを実施

アフリカの人々に、人生を変える力を。仕組みづくりは国づくり。

第3章 成果

HAKKI AFRICAは今、自社の原点とも言えるケニアで、信用スコアリングシステムを応用し、タクシードライバー向けに車を担保とした金融サービスを展開している。

現在の融資先は約690名、貸倒れは0.09%と好調だ。タンザニアでの実証実験前は、ほぼ無担保ローンで貸倒れは数十%を超えていた。小林氏は実証実験の学びから、貸倒れ率が低い動産担保にした。「個別具体的な事業用途物品の提供で無駄な審査が減り、ファイナンサー側も実際に事業実態のコンサルをすることでより確実に貸倒れを減らすことができる、という実証実験で得た知見を生かしました」と述べる。

ローン申請用紙を持つ農業従事者

「ケニアのタクシー事業者は約20万人。2016年にUberが参入してからは、オンラインサービスのドライバーも増加しています。しかし、銀行から融資が受けられないため、運転手の約7割は車を持てず、レンタカーで事業を行っている状態。また、仮に借りられたとしても無担保ローンであれば到底返しきれない高額な金利がついてしまう。人々がもっと挑戦できるよう、より低い金利でファイナンスできるよう、誠実に頑張っている人が豊かになれる仕組みを作っていきたいんです」。小林氏は真っすぐな瞳でそう語る。

「仕組みが整っていない新興国では、頑張っても頑張っても豊かになれず、貧困層から抜けられないことが、人々の希望を奪っています。信用スコアリングというソリューションによって、金融を超えたところで個人の信用力が可視化されれば、人々が人生を自分の力で変えることができる。我々の事業でチャンスをつかみ、幸せになる人が増えれば国も変わります。アフリカで事業をしていると言うと、よく『アフリカにどんな原体験が?』と聞かれる。でも私は、課題や原体験を持ってアフリカに来たわけじゃないんです。ただ未開拓の地でシンプルに国づくりに参加したいだけ。究極、仕組みづくりは国づくりだと、私は思っているんです」

自分たちの一挙手一投足が国の新しい未来を作る。そんな魅力が新興国での展開にあるという小林氏。その”熱量”こそ、新興国ビジネスになによりも必要なものだと竹内氏は断言する。

「新興国での事業は『興味があるならぜひやって欲しい』と言えるほど甘くはない。ためらっている会社には、踏み出さない方が良いとお伝えしているくらいです。一方で、大きな目的に向けて試行錯誤しながら課題解決の手段を探せる熱量のある会社であれば、JICAとつながることでいいシナジーが起こせる。JICAの人々はプラットフォーマーであり、カタリスト。現地の課題とスタートアップの言葉を理解し、双方をつなぐプロフェッショナルです。新興国の現場にJICAほど人員を配置している組織は他にないでしょう。新興国の課題に取り組む熱量のあるスタートアップは、JICAとの連携が大きなステップになるはずです」

ブリーフィングセッションにて融資を申し込む、タンザニアの農業従事者

プロジェクトメンバーの声

JICA アフリカ部 若林 基治 (当時)

アフリカの複雑な社会課題を解決するためには、多くの方の知恵と技術、ネットワークを活用し、これまでにない課題解決方法を探ることが重要です。このAOICではJICAのプロジェクトやアフリカ各国の社会課題の解決策をオープンイノベーションにより公募し、採択された企業や学術・研究機関と伴走しながら課題解決と持続的な今後の出口を探った事業です。オープンイノベーションのイベントは数多くありますが、イベント後次につながる事例は多くありません。本事例は受託されたデロイト・トーマツ様の丁寧なフォロー、JICAの現地での知名度とネットワーク、そしてHAKKI社の技術により最終的に自社のビジネス展開までつながった稀有な例だと思います。今後の国際協力の新たなあり方として、課題解決のためのカタリスト、プラットフォーマーとしてのJICAに是非ご期待ください。