JICAの取組詳細

1. 保健システム強化

保健システム強化とは、保健医療サービスを人々に提供するための行財政や人材・施設・資機材などの基盤を整備・拡充するための取り組みです。基本的な保健医療サービスへのアクセスの確保に加え、医療費負担による家計破綻の防止を通じてUHCを実現するためにも、保健システムの強化が不可欠です。

JICAは日本政府と共に、開発を巡る国際的な議論のなかでUHCを主流化するため、国際会議等の場で積極的に発信してきました。最終的に、SDGsにはUHCの達成が明記されることとなりました。2015年度は、国連総会(9月)や世界銀行総会(10月)でのサイドイベントへ参加したほか、関係省庁と共に「新たな開発目標におけるUHC」国際会議を東京で開催し、UHC達成の重要性と今後の戦略をハイレベルの参加者に対し発信しました。また、世界銀行やWHOと共催して、双方の専門家の能力強化研修や仏語圏向け人材の研修を実施しました。

国際的な約束を着実に実行するべく、ケニアをはじめ国レベルでの支援にも力を入れています。セネガルでもケニアと同様のUHCの包括的な協力を形成中です。また、カンボジアとベトナムでは医療保障制度の支援を念頭に調査を実施しました。中南米地域では、プライマリ・ヘルス・ケアを基盤とする地域保健システムの強化を引き続き支援しながら、パラグアイで国際フォーラムを開催し、JICA内外の知見を共有しました。

2. 母子保健の向上

世界では1年間に約29.5万人の女性が、妊娠・出産による合併症(出血、妊娠高血圧症など)で亡くなっています。また、年間約550万人の子どもが、感染症や栄養不良などによって5歳の誕生日を迎えることなく亡くなっています。こうした母子の死亡の8割以上が開発途上国で起こっています。これらの死の多くは、妊娠前から妊娠中、乳幼児期まで継続して適切な保健医療サービスを受けることにより防ぐことが可能と言われています。さらに、質の高い母子保健サービスを保障することは、個人のライフコースにわたる健康とウエルビーイングに影響をもたらすとともに、すべての人が人生最初に享受すべきサービスであることから、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の入り口と位置付けられ、保健分野の取り組みにおいても重要な位置を占めています。

JICAは、母子保健分野において、母子の死亡の削減と生涯にわたる健康・ウエルビーイングの実現に向け、継続的かつ質の高い母子保健サービス・ケア(母子継続ケア)の推進を重点とし、サービス提供体制の強化、保健人材の育成を支援しています。また、そのためのセクターを越えた包括的な取り組みを推進しています。具体的には母子保健サービスの展開に向けた保健省の政策・事業管理や地方行政の能力強化、保健医療施設の機能強化、助産師などの保健人材の能力向上、コミュニティの意識向上や母子を支える体制の構築、病院や保健所などの関係者間の連携体制の構築・強化などを推進しています。そして「人生最初の1000日間」の栄養状態を改善し、子どもの生涯をより健康で幸福なものにするための母子栄養に関する支援も重要な柱として展開しています。

母子継続ケアを支えるツールとして、JICAは日本の経験を活かし、長年にわたって開発途上国における母子手帳の開発・導入・試行・普及に協力してきました。この協力を通じて積み上げてきた実績や経験、教訓を活用して、WHOの家庭用保健記録に関するガイドラインの策定に貢献するほか、研修事業を行うなど、国際社会への発信も行っています。

3. 感染症対策

2014年に西アフリカで猛威を振るったエボラウイルス病が徐々に沈静化するのに伴い、国際社会の支援は、復興支援に移行していきました。同時に、国際保健規則(IHRs)の不履行と脆弱な保健システムがその蔓延を加速化し、長期化させたとの反省から、IHRsを遵守するための能力強化(検査システム強化、サーベイランス強化、人材育成等)と、それを通じて強靭な保健システムの構築を図ることの必要性が認識されました。

JICAは、ワクチン製造能力の強化や定期予防接種サービスの強化のための技術協力、ポリオ・ワクチン等の調達に関する資金協力、迅速診断キットや早期警戒システムの開発、サーベイランスや研究所の検査能力の強化等を保健システム強化の一部と位置づけ、統合的、継続的に取り組んでいます。また、JICAが長年支援してきた地域の拠点ラボであるガーナ野口記念医学研究所やザンビア大学獣医学部、ベトナム国立衛生疫学研究所等を拠点に各地域への感染症対策にも貢献しました。

さらに、感染症対策には有効なワクチンや治療薬、迅速診断法など、民間企業の技術が必須であり、JICAはインドネシアやフィリピン、アフガニスタンにおける結核対策にこれらの民間企業の技術を導入した協力を開始しています。