日本の防災への取り組みが、世界の防災をリード-第3回国連防災世界会議を踏まえて-
第3回国連防災世界会議で採択された「仙台防災枠組2015-2030」では、
1)災害リスクの理解
2)災害リスク管理のための災害リスクガバナンス
3)強靭化に向けた防災への投資
4)効果的な応急対応に向けた準備の強化と「より良い復興(Build Back Better)」
の4つの柱が掲げられています。これらはJICAが日本の知見を活用して途上国に対して実施してきた防災の支援戦略と優先行動と同様のものであり、「仙台防災枠組」の採択はこれらの重要性が世界的にも認知されたという証です。
これからもJICAは日本の災害の経験・教訓を活用し、防災計画の策定支援と、この計画に基づく防災の事前投資(構造物対策と非構造物対策のベストミックス)を促進していきます。また、災害弱者・ジェンダー配慮の視点を含めることで、災害に強い持続的な開発協力を実施します。
「より良い復興」(Build Back Better)とは
自然災害は事前の備えにより、そのリスクや被害を軽減することが可能です。しかし途上国等においては、いつ起こるかわからない災害に事前に十分な予算を配布することが難しいという現実があります。
Build Back Betterとは、「災害発生を契機として、物理的なインフラの復旧や生活水準、経済、産業の復興、そして地域の環境と文化の復旧を通じてより強靭な国家と社会を造る」という概念です。
ひとたび災害が発生すると、人命だけでなく、貴重な時間やさらなる発展の機会はもちろん、個人や企業によって築かれた財産をも失ってしまいます。さらには、災害対応や発災後の復旧・復興の過程では多額の資金が必要となります。特に水災害は、同一の地域で繰り返し発生する傾向があり、人命のみならずその度に大きな経済被害が発生します。結果的に、人々から経済発展の機会を奪い、災害と貧困のサイクルから抜け出すことを困難にする状況ができてしまいます。このため、災害発生の際にBuild Back Betterの概念に沿って復興することで、次の災害に備えたより災害に強い社会を構築することができます。
事例:台風ヨランダの支援
2013年11月8日に発生した台風ヨランダはフィリピン国を直撃し、サマール島やレイテ島をはじめとする広い範囲に大きな被害を与えました。地域によっては90%もの家屋が崩壊、死者・行方不明者は7,000人を超え、経済的な損失は895億ペソ(約1860億円)にものぼりました。特に、台風の進路上に位置したレイテ島及びサマール島の沿岸部は、フィリピン国内でも住民の中で貧困層の占める割合が多い地域であり、台風によって地域の主要産業であるココナッツ栽培や漁業等も大きな被害を受けているなか、数年間にわたる生計手段の確保も危ぶまれていました。
応急対応段階:緊急援助物資の供与、国際緊急援助隊医療チーム・専門家チームの派遣
被災国政府からの要請に基づき世界各地の災害の現場にいち早く派遣され、被災者の救出やケアに取り組むのが、国際緊急援助隊(JDR)です。
JDR事務局では、国連人道問題調整事務所(UNOCHA)からの要請に基づき、台風がフィリピンを直撃する直前と被災直後に2名の日本人メンバーを国連災害評価調整チーム(UNDAC)に派遣しました。UNDACメンバーは、災害直後に被災地に入り、被害の初期評価と国際社会への支援アピールのほか、被災地における効率的な支援のため国際調整業務を行います。
次にJICAが行ったのは、医療チームの派遣です。台風直後にフィリピン政府から要請を受け、11日に第1次隊を派遣し、その後3次隊に至るまで約1ヵ月間被災地での医療支援に当たりました。台風ヨランダ災害の派遣では、東日本大震災の教訓を生かし、市の中心地だけでなく、支援が十分に行き届いていない周辺村落への巡回診療や、他地域の病院における支援も積極的に行いました。更に、医療チームは、フィリピン保健省が開発していた報告様式の活用を提案・支援し、以後、被災地内の各チームから報告される災害医療データの集計が容易となりました。この実践が契機となり、後日、災害医療情報の国際標準(注)の形成にもつながっています。
チーム派遣に加え、JICAはフィリピン政府からの要請に基づき、被災地で不足していたテント、プラスチックシート、スリーピングパッド、発電機、浄水器、水など6,000万円相当の物資供与を行いました。JICAはこれらを直接被災地に届けるとともに、使用方法の実演・説明なども行いました。
JICAは「より良い復興」(Build Back Better)を実現するため、フィリピン政府からの要請を受け、復旧・復興への助言を任務とする専門家チームを派遣しました。同チームは被害状況調査、被災地の復旧復興支援の検討に加え、東日本大震災の教訓をフィリピン政府高官に伝え、ハードとソフトを組み合わせた多重防御の防災対策やトップダウンとボトムアップ両面からの復興計画策定、次の災害に備え、持続的な開発のための土地利用計画等を提示し、ともすれば様々な機関による無秩序な支援による災害リスクの再現を回避し、応急対応フェーズから、復旧・復興のための切れ目のない支援を開始しました。
復旧・復興段階:復興支援緊急プログラム
災害後の支援では、緊急人道から復興への切れ目のない支援が重要です。フィリピン国政府は、2013年11月11日に国家非常事態宣言を発令、12月18日に台風ヨランダ災害復興支援計画(RAY)を発表し、災害後復興ニーズ評価調査(PDNA)に基づく復旧・復興政策を進めていく方針を明らかにしました。フィリピン政府との協議を経て、JICAは、東日本大震災の津波や、伊勢湾台風の高潮被害の経験を生かした支援を実施しました。
具体的には、高潮による被害の大きかったレイテ島とサマール島の沿岸部を対象に、被災した地域の早期の復旧・復興および、より災害に強い地域の再建(Build Back Better)を目指した1)日本の災害復興の経験を踏まえたハザードマップの作成や自治体の土地利用計画の改訂・避難計画策定、2)病院や庁舎などの公共建設再建など、質の高い無償資金協力の計画策定、3)災害に強い公共施設再建と技術訓練、被災者の生計回復(クイック・インパクト・プロジェクト)の計画・実施などに取り組みました。
台風ヨランダからの復旧・復興には、東日本大震災で被災した自治体の経験や教訓も活かされています。2014年1月には、マニラとタクロバンで開催されたセミナーで、宮城県東松島市の自治体関係者が東日本大震災の被災経験と復興の取り組みをフィリピン政府と共有しました。2014年12月から計4回、フィリピンの被災地から自治体職員や国の出先機関職員などが東松島市を訪れ、復興現場の視察や関係自治体・市民との意見交換を通じて、集団移転や仮設住宅の運営、住宅建設の補助や防潮堤の建設など同市における復興への取り組みと教訓を学びました。参加した研修員により、日本の経験・教訓がフィリピンの復興に活かされることが期待されています。
抑止・減災(防災の事前投資)段階
緊急支援から復旧・復興支援へ移行した後、今後再び起こりうる災害の被害の抑止・減災を図るために計画策定と事前防災が必要です。
2012年から2015年にかけて実施していた技術協力「災害リスク削減・管理能力向上プロジェクト(フェーズ1)」では、同国の中央防災機関である市民防衛局(OCD)の能力強化を通じて、総合的な事前防災の推進を支援していました。しかし、その最中に台風ヨランダが襲来、OCDが災害対応に奮闘する中、プロジェクトチームは被災地の視察やニーズ調査を実施し、そこから得られた課題や教訓をプロジェクト活動に反映しました。例えば、プロジェクトを通じて策定した国家災害対応計画(NDRP)に台風ヨランダ時の対応や反省を取り入れ、さらに地方自治体の災害対応能力の強化や、土地利用計画、開発計画等に防災の観点を取り込む「防災の主流化」を推進しました。また、それらの課題や教訓を元にした今後の防災対策を提言として取りまとめ、プロジェクトの最終報告としてフィリピン側と共有しました。
その後、2015年3月に新たな国際防災の枠組みである「仙台防災枠組2015-2030」が合意され、枠組みや交渉過程において防災の事前投資が最重要であることが明示されました。これを踏まえ、JICAは「フィリピン国防災セクター戦略策定のための情報収集・確認調査」を実施し、JICAの「対フィリピン国防災セクター協力戦略」の中で仙台防災枠組に基づいた防災協力をより一層推進していく方針を確認しました。
このような災害の経験や国際潮流に沿った協力として、JICAは新たに技術協力「災害リスク軽減・管理能力向上プロジェクトフェーズ2」の実施を予定しています。本プロジェクトでは、地方防災計画の策定及び全国への水平展開体制の整備を行い、災害による人的及び経済的被害の抑止及び減災へと繋げるものです。こうしたJICAの一連の協力がフィリピンの防災体制の能力向上に役立っています。
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