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課題情報の発信(民間セクター開発)

1. 途上国の課題

民間セクター開発は、所得を向上させ、財政を支える民間企業を育成・強化することや、イノベーションや投資も推進し、質の高い経済成長の実現を目指すもので、産業振興や観光などを対象にした分野です。民間セクター開発に関する途上国の課題として、産業振興では人の能力や数の不足、資金へのアクセスなど、観光ではインフラの未成熟さや観光資源の管理費用の不足などの問題があげられます。

開発途上国の民間セクター開発に関する課題の概要

課題01:産業振興(人・組織、モノ・情報)

課題02:産業振興(カネ、制度、その他)

課題03:観光

2. JICAの事業戦略(グローバルアジェンダ)

民間企業の成長、すなわち民間セクター開発は、自立的な経済成長および雇用の創出・拡大や国民の所得向上の源泉であり、国の財政(歳入)を支える土台にもなっています。民間セクター開発は多岐にわたりますが、JICAでは現在、起業家・企業育成投資促進・産業振興持続可能な観光開発を取り上げ、これらの支援に注力しています。

JICAが認識するグローバル課題

持続的経済成長には民間企業の成長が必須である一方、民間企業ではコントロールできない外部環境(産業・投資政策及びビジネス環境)の整備や、企業成長の基盤となる基本的な知識・技術・ノウハウ等の習得や人材育成などの課題が途上国の経済成長のボトルネックとなっている​。

地域別の課題​

グローバルアジェンダの目的

公的部門の介入を必要とする課題への対応・支援と、資金ギャップへの対応等により、途上国現地民間企業の育成・競争力強化イノベーション投資促進・産業振興等を推進し、持続可能で質の高い成長の確保を目指す。

現地企業と日本企業の協働・連携関係の強化により、途上国と日本の相応の経済の強靭化を目指す。

主要な取り組み(クラスター事業戦略など)

JICAクラスター事業戦略アフリカ・カイゼン・イニシアティブ

AUDA-NEPAD(アフリカ連合開発庁)との覚書に基づき、1)政策レベルでの啓発、2)センター・オブ・エクセレンス(普及拠点)の整備、3)カイゼン活動の標準化、4)ネットワーク化を推進します。2020年よりカイゼンに経営全般と金融アクセス支援も加えた包括的企業支援を展開しています。

JICAクラスター事業戦略イノベーション創出に向けたスタートアップ・エコシステム構築支援(Next Innovation with Japan; NINJA)

開発途上国のスタートアップがイノベーションを創出し、現地の社会課題解決や、新しい産業及び雇用機会の創出を通じて開発途上国の経済成長を促進することを目指します。そのために、「スタートアップ・エコシステム」を構築・発展させ、イノベーティブな「スタートアップ」が継続的・自律的に創出・育成される状況を実現します。中でもJICAは、特に社会課題を解決するスタートアップの育成に注力しています。

JICAクラスター事業戦略アジア投資促進・産業振興

日系製造業を中心にサプライチェーンがあるアジア地域で、投資環境改善等の取組を通じた海外直接投資(FDI)の呼込みと、産業振興策による現地取引企業の能力強化に一体的に取り組みます。

「持続可能な観光」のためにJICAが行う支援

JICAは、観光自体を質の高い成長の「目的」ではなく、有効な「手段」として位置づけ、多様な関係者の力を集結しながら経済、社会、環境面の課題に総合的に取り組む「地域経営」の実践により、各地域が自律的な成長を確保することを支援します。なお、多くの地域において観光を通じた自律的な成長を確保していくためには、個々の地域での取り組みのみならず、観光事業者や地域を支える観光行政の能力強化も不可欠であるため、地域と観光行政の複層的なアプローチに取り組んでいます。また、国連世界観光機関(UN Tourism)との連携により、協力インパクトを可視化し、国を超えたナレッジシェアリングの場を創出することによって、本取組に賛同するパートナーを拡大し、観光を活用した持続可能な地域経営の実践を全世界に拡大させることを目指しています。


【参考】JICAグローバルアジェンダ 「民間セクター」
https://www.jica.go.jp/activities/issues/private_sec/index.html

3. サブセクター説明

上記の課題をもとに、民間セクター開発分野におけるビジネスニーズや事業展開国を検討する際のポイント、企業の展開事例などを、「産業振興」「観光」のサブセクターに分類して説明します。

日本の製品・サービスが求められるサブセクター

産業振興:人・組織、モノ・情報の課題に関わるもの

  • 現状と課題
  • 低い企業競争力、経営力
  • 人材の能力不足
  • デジタル化への対応の遅延
  • 物流・インフラが不十分
  • 現地ニーズ
  • 品質管理、業務プロセスの改善にかかる教材や製品の販売、技能訓練支援
  • 設計ツールの製造・販売、技能訓練支援
  • 経営管理能力の改善にかかるツールやコンサルティングサービスの提供
  • 自動化導入支援
  • 工業団地ビジネス、物流・流通システム

対象国選定のポイント

労働生産性指標が低い国ほど企業育成(カイゼン)のニーズが高い。
【参考】世界各国の労働生産性指標(ILO)
JICAが技術協力プロジェクトを展開してきた国では他国に比べてカイゼン活動が浸透しており、さらなる競争力・経営力強化を目指す高度なニーズがある。
【参考】JICAグローバルアジェンダ クラスター事業戦略 AKI(JICA)
出稼ぎ労働者が多い国は、自国での産業が十分に育っておらず、産業振興のニーズが高い。
【参考】ILO国際労働力移動世界推計(ILO)

想定される民間技術(例)

  • オンライントレーニングツール
  • 品質管理、業務プロセス、経営管理関連ツール
  • 設計ツール(CAD・CAM等)
  • オートメーション技術
  • コールドチェーン、ドローンなどを含む物流・流通システム関連の技術

タブレットPCを使用した不良集計システム

タブレットPCを使用した不良集計システム
株式会社ティーズネットワークが、エチオピア国内工場向けに生産・品質管理・検品サービスなどを行うことで、エチオピアの繊維・皮革産業の技術向上と、貿易輸出額の増加を目指す。

日本の製品・サービスが求められるサブセクター

産業振興:カネ、制度、その他の課題に関わるもの

  • 現状と課題
  • 資金不足(限定的な金融アクセス、未発達なベンチャー投資/インパクト投資)
  • 現地産品のブランド力不足
  • 起業エコシステムの未整備・発展途上(企業支援施策不足、アクセレレーター/インキュベーター不足)
  • 投資先候補の現地スタートアップに関する情報が限定的
  • 国際的なビジネス・マッチング、現地パートナー選定のための市場メカニズムやネットワーキング機会の不足
  • 現地ニーズ
  • ブロックチェーン、KYC、AI審査、フロード・ディテクション、サイバーセキュリティ、信用情報システム
  • デジタル銀行、モバイルマネー
  • マーケティング、ブランディングにかかるコンサルティングサービスの提供
  • インキュベーション、アクセラレーション、メンタリング、オープンイノベーション関連支援
  • 起業家教育、キャリア教育、ビジネスプラン・コンテスト
  • スタートアップ投資、インパクト投資、VC、CVC、エンジェル投資家、M&A
  • ビジネス・マッチング、スタートアップ関連の交流支援

対象国選定のポイント

各ドナーの支援対象となっているスタートアップは有望な支援/投資/連携先の候補となりうる。
【参考】NINJAウェブサイト(JICA) ADB Ventures (ADB)
FDIの流入額が少ない国ほどスタートアップのエコシステムや投資環境の整備が進んでいない可能性が高く、支援ニーズが大きいことが想定される。
【参考】Coordinated Direct Investment Survey (IMF)、Invest Climateレポート (世界銀行)

想定される民間技術(例)

  • 企業情報に関するプラットフォーム
  • 信用審査関連のIT技術
  • Fintech

タクシードライバー向け信用スコアリングシステム

タクシードライバー向け信用スコアリングシステム
株式会社HAKKI AFRICAが独自開発した信用スコアリングシステム等により、これまで金融機関からサービスを受けられなかった人々も金融にアクセスし、資産を形成することを可能とする。

日本の製品・サービスが求められるサブセクター

観光

  • 現状と課題
  • 観光関連の人材の能力不足
  • インフラ(観光、交通)が不十分
  • 治安の懸念
  • 観光資源としての認知不足
  • 過度な観光開発、環境破壊、オーバーツーリズム
  • 現地ニーズ
  • 環境関連の研修事業
  • 観光インフラ整備、交通インフラ整備、デジタル化
  • 顔認証技術、監視カメラ・AIによる画像解析
  • プロモーションコンテンツの制作
  • エコツーリズム、エコリゾート開発、サステイナブルツーリズム文化の形成や発信

対象国選定のポイント

GDPで観光が占める割合が低い国ほど、自国の観光資源を活用できておらず、観光開発のニーズが高い。
【参考】国連世界観光機関 (UNWTO)

想定される民間技術(例)

  • オンライントレーニングツール
  • 観光施設における料金徴収システム
  • MaaS関連技術
  • EVバス
  • VR/MR

人流データの活用

人流データの活用
ソフトバンク株式会社、株式会社Agoop、日本工営株式会社が、空港、市街地、重点観光地域を繋ぐ道路の交通状況を人流データの活用により可視化し、ベトナムの都市交通・観光開発に貢献する。

4. ビジネス展開上のTIPS

産業振興に係るビジネス検討・展開上のTips

高い離職率と人材流出

高い離職率と人材流出リスクを考慮しましょう。

日本以上に離職リスクや人材を育成しても習熟できないリスクが高く、一般的なビジネスよりも事業化には長期間を要します。リスクに配慮した事業計画策定が必要です。
現地のビジネス環境、商習慣に合わせて、転職や退職を見込んだ事業計画を策定し、ビジネス化に成功した事例があります。

日本の公的支援を利用した信頼できるパートナーの確保

公的機関が実施するマッチングイベントを活用しましょう。

開発途上国では、現地パートナーとのマッチング機会が限られています。公的機関が実施するマッチングイベントの機会を最大限利用することが推奨されます。
ジェトロ等が主催するビジネス・マッチング機会を活用し、現地パートナーの確保に成功した事例があります。

製品・サービスの現地化(価格等)

製品・サービスの仕様や価格は現地にあっていますか。

最新技術を使うよりも、エンドユーザーが活用可能な技術を用いて、仕様や価格を現地化することが、リピーターの獲得に繋がります。(他方で、途上国であっても、顧客が最新技術を好むこともあります。)
中核技術を除き、あらゆる資機材を現地で調達できるように製品を開発し、顧客を獲得した事例があります。

技術指導と連動したサービスの提供

機器の保守・メンテナンスの提供方法も検討しておきましょう。

DX等の製品やサービスを提供しても、現地でそれを使える人材は限定されています。自社だけでなくJICAや一般財団法人海外産業人材育成協会(AOTS)等の人材育成支援事業と同時に提供することが重要です。
現地代理店の職員を日本に呼び技術研修を行うなど、単なる機器売りビジネスではなく、技術指導を連動して提供することで、ビジネス化に成功した事例があります。

実施体制の現地化

実施体制の現地化の仕方は様々です。

自社の内部リソース、外部環境等を考慮して、個々の事情に応じた最適な現地化の在り方を検討しましょう。
現地人材を広く活用し、顧客対応に成功した事例があります。

社内の国際化

現地事情・分野・言語に理解のある人材で社内体制を強化しましょう。

広範囲の連携とコミュニケーションが求められます。将来の現地責任者として幹部候補として外国人材を採用し、社内の国際化を進めましょう。
現地と分野や言語に理解のある、高いコミュニケーション能力を有する人材を配置することで社内の国際化を実現した事例があります。

実行可能な資金調達

調達資金とビジネスモデルのバランスはとれていますか。

開発途上国では投資家等財源も不足しています。日本や第三国の資金調達先を探す必要があります。大規模な資金調達が不要なビジネスの検討も一案です。
ODA、国連、欧州のファンド等を活用し、ビジネス化に成功した事例や、初期費用を抑え、資金調達を回避したビジネスから着手した事例があります。

早期収益化を考えた事業計画の策定

海外事業は、いかに早期に収益化できるかがポイントになります。

早めに収益化できる事業戦略の策定が必要です。
日本企業と現地パートナーが共同で事業計画書を作成し、現場の視点を入れながら実行可能な事業計画を策定し、早期収益化に成功した事例があります。

観光に係るビジネス検討・展開上のTips

オーバーツーリズムの回避

常にオーバーツーリズムへの配慮が不可欠です。

地元の観光資源を活かした商品であっても、環境破壊や周辺住環境への過度な悪影響は避けなければなりません
完全予約制にする、顧客数を限定する等の企業の対策に加え、自治体と連携して観光税を導入する等の対策を実施し、オーバーツーリズムを回避した事例があります。

新たな観光資源の発掘

潜在的な観光資源と観光ニーズに着目しましょう。

顧客のニーズを把握した上で、地元の人も気づかない潜在的な観光資源と観光ニーズが合致した商品の開発を行いましょう。
開発途上国での観光資源を発掘し、顧客に安心安全なサービスを提供している事例があります。

事業実施体制の強化

現地事情に詳しい人材の採用を検討しましょう。

地元の事業者、政府関係機関との連携を模索し、円滑で安全なサービスを提供するためには、現地事情に詳しい人材の採用が必要になります。
現地の言語や文化に明るい人材を採用して、現地関係者との連携を図ることで信頼関係を深化している事例があります。

事業計画の設計

地域活性化とビジネス拡大の循環は重要なポイント。

持続可能な観光開発のためには、地域経済が裨益し、地域全体として経済的な恩恵を受けることができるビジネスモデルが必要です。
観光を通じて、人流、商流を生み出すことによって地方創生に貢献している事例があります。

5. 統計情報等

民間セクター開発におけるビジネス展開の検討にあたっては、以下のような統計が参考になります。

1)主な統計の使い方

ILOSTAT 国際労働機関(ILO)の統計ウェブサイトILOSTATでは、労働力人口、就業者、失業者、労働時間、賃金、労働災害、労働争議などの労働分野の幅広い統計データが公開されています。SDGs関連では、ワーキング・プアの比率、社会的保護適用率、女性管理職比率、労働生産性、インフォーマル就業、平均時給、失業率、就業も就学も訓練受講もしていない若者のニート率、児童労働、労働災害、労働分配率の情報が公開されています。

ILOSTATの利用方法は、以下をご参照ください。
総務省統計局「ILO ILOSTAT Database の使い方」

2)その他の統計

各国の産業構造・主要経済指標

国別の中小企業数

産業人材

スタートアップ企業

投資状況